第21話 ほぼ真相をぶちまける

「私はそこに転がっておられる王妃お二人より、そこのコータなる者を捕らえるために手配書の作成を頼まれました」

「ふむ、王妃達にか……して、その理由はなんだ」

「ハッ聞けばソフィア様の襲撃はコータの手助けにより失敗したと憤慨しておりました。コータさえいなければ、今頃はソフィア様は亡き者になっていたであろうと……」

「それで、腹いせにそいつを捕まえろと……そういう訳か」

「はい。仰る通りでございます」

「ふむ……」


 テリオは顎を右手で摩りながら、絨毯の上で横になっている王妃達に声を掛ける。


「ジュディ……」

「は、はい……」

「ヴィクトリアよ」

「は、はい……」

「今のマイクの話を聞いていたであろう。何か言うことはあるか?」

「あります! 全てマイクの言い掛かりでございます!」

「そうです! 全てがウソでございます!」

「そうか。マイクよ。王妃達はこう言っているが……」

「は、はぁ」


 テリオは妻である王妃達に対しマイクが言ったことが本当かと尋ねるが、そんな尋ね方で「はい、私がやりました」と言うハズもない。そして、テリオはマイクに対し「他に追及する材料はないのか」とでも言いたげに尋ねるが、マイク自身も口頭での指示だった為に二人の関与を示す材料は持っていない。


 俺はそんな様子を見てハァ~と嘆息すると寝転がったままの王妃二人の頭をそれぞれ右手、左手で掴む。


「な、何をするのですか!」

「そうですよ! 下賎なる者が高貴な私達に触れるなど、何を考えているのですか!」

「いいから、黙って」

「「……」」


 俺は二人の頭を掴んでいる手にちょっと力を加えて二人を黙らせると『催眠ヒプノシス』と唱える。


「何をしたのですか!」

「なんですの!」

「いいから、黙って!」

「「はい……」」

「いい? これからあなた達は聞かれたことに正直に答えるようになる。もし、真実と違うことを話そうとするだけで、猛烈な頭痛があなた達を襲う。はい!」

「「え?」」


 俺は王妃二人を掴んでいた手を離すとマイクさんに質問してみてとお願いする。


「質問か。例えばなんと?」

「そんなの、『マイクさんが言ったのは本当か』でいいじゃん」

「それもそうだな。よし……」


 マイクさんは王妃二人に近付き膝を着くと一人の王妃に質問する。


「ジュディ様、あなた方二人は私に対し、コータを捕らえてくるように指示しましたよね」

「そ……ぐ……い……」

「い?」

「痛い! 痛いの! ガァ~」


 マイクさんは壮絶に痛がる王妃を横目にもう一人の王妃、ヴィクトリアにも同じ質問をするが、ずっと「痛い痛い!」と叫びながら転がっているもう人の王妃、ジュディの様子を見ているせいか、素直に「はい」と答えた。


 そして、その様子を見ていたテリオは固唾を呑み込み、王弟のジャミール公爵は冷や汗をかく。


 マイクさんは素直に返事をしたヴィクトリア王妃の方に対し続けて質問をする。ちなみに放置されっぱなしのジュディの方はと言えば、まだ「痛い!」と叫びながら絨毯の上を転がり続けている。


「では、質問します。あなたは何故、コータの捕縛を私に命じたのですか?」

「ぐ……そ、そんなの計画をダメにしたからに決まっているじゃない!」

「計画ですか……では、その計画とはなんでしょうか?」

「ぐ……」

「素直に答えた方がいいですよ。もう、これから話そうが話すまいがあなた方二人がしたことは覆らないのですから。なら、こう考えた方がよくないですか?」

「……」

「素直に話してしまって、罪を分かち合えば苦しさも等分されると……どうですか? ジュディ様は罪を認めないばかりに先程から、ああやって痛みから逃れることも出来ずにのたうち回っています。ああはなりたくはないでしょ?」

「……」


 マイクさんはヴィクトリア王妃に対し、もし罪を犯していると自覚があるのなら、関わっている全ての内容を吐露してしまえばいいと促す。そして、それに関わっている全ての人を口にすることで、受ける苦しみや痛みが等分されるであろうと。


 やがて、ヴィクトリア王妃は、俺が掛けた魔法からは逃れられないと観念したのか「全てを言います」と口にすると、そこからは立て板に水の様にすらすらと閊えることなく話し出す。


「……最初は私達に興味を無くし第三王妃のブリジットに向けていた陛下の目をまた私達に向けて欲しくて、ブリジットに対し些細な嫌がらせをしていました。ですが、それでは陛下の目がこちらに向くことはなかったので……」


 第二王妃であるヴィクトリアの独白は続く。


 ブリジットに対する嫌がらせは段々とエスカレートしていくが、それでも夫であるテリオの目は自分達に向けられることはなかった。そして、ソフィアが生まれたことで、更に嫌がらせは加速する。


 テリオは最後の子供となったソフィアにを溺愛した。溺愛した結果、ブリジットは日々の嫌がらせと自分に対し興味が無くなったテリオにも嫌気がさしたことで故郷に帰ることになる。


 だが、その為に王妃二人の嫌がらせの標的はソフィアへと向けられることになった。


 標的とされたソフィアはもちろん父親であるテリオに相談しようとするが、テリオはソフィアを可愛がるだけで話を聞くことはなかった。


 だから、ソフィアは母親であるブリジットを追い掛ける形でクレイヴ領へと出向くことになるが、その行程でソフィアを亡き者にしようという計画が自然に持ち上がってきた。


 だが、計画を立てるのはいいが、実行する手足となる人間が王妃二人の周りにはいなかった。


 そこに目を付けたのが、王弟として燻っていたジャミール公爵だった。


 王妃二人はジャミール公爵に相談し、人員を確保し、ソフィア襲撃計画もなんとなく形になってきた。


 そうして、立案した計画ではソフィアが王都からクレイヴ領に向けて出発し途中のキンバリー領に辿り着く前に魔物に襲撃され命を落とす予定だったが、そこで俺が助けに入ったことで計画は失敗した。


 でも計画はそこで終わることはなかった。


 キンバリー領からワルダネ領を抜ければクレイヴ領までは直ぐだが、ジャミール公爵に頼みワルダネ領をほぼ封鎖する形でクレイヴ領までの道を閉ざした。


 ここからの話は俺が経験してきた話なので態々聞くまでもないのだが、ヴィクトリア王妃の口からは実家を頼っての魔物使いを派遣してもらったことまで話す。


 俺はここまでの話を聞いて回りの面々はどうなのかとそれぞれの顔を見てみると、テリオは自分のせいでと苦虫を噛み潰した様な顔になり、ジャミール公爵は苛立ちからか歯を食いしばっているようだ。


 そしてジュディは相変わらず絨毯の上をのたうち回っており、ヴィクトリア王妃はなんだか憑きものが落ちたような清々しい顔になっていた。


 そして「どうして私はソフィアを亡き者にしたかったのだろうか」と呟く。

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