第22話 目的が出来たのかな?

「……」

「どうしたの?」


 俺から女神イースの目論見を聞いたギルマスは両手で頭を抱え黙り込む。


 気持ちは分からないでもない。今まで信仰していた女神が実は『悪の親玉』だと知らされたのだから。


「ハァ~」

「落ち着いた?」

「コレが落ち着いていられるかよ!」

「まあ、そうだよね」

「だが、俺の頭ではこれ以上は無理だ」


 そう言って、ギルマスは俺の方をジッと見る。だから、俺は軽く頷く。


「そういうのも含めてギルマスに任せるつもりで聞かせたから、後はギルマスの判断に任せるよ」

「そうか、すまない。でだ……」

「え?」


 女神イースに対する話は終わったとばかりに、俺に改めて向き直ると聞いてくる。


「女神イーシュの魔法に対する考えは分かった。だが、『魔法がない世界』で暮らしてきたお前がなぜすんなりと魔法を使うことが出来るんだ?」

「あ~ソコにも気付いちゃう?」

「気付かない訳がないだろ。いいから、説明しろよ」

「ん~そうだね。一言で言うなら『魔法は存在しないし使えないけど、どういう魔法なのかは知っている』ってことかな」

「ハァ~また、訳の分からないことを……」

「いいから、聞いてよ。あのね……」


 ギルマスに言った『魔法は存在しないし使えないけど、どういう魔法なのかは知っている』は嘘じゃないけど、真実と言えるかは分からない。小説はもとよりアニメにマンガ、ゲームに映画とフィクションで魔法を扱った作品は多い。そして、それらの作品の中で使われている魔法は使えないけど、どういう魔法なのかは知っている。だから『魔法は存在しないし使えないけど、どういう魔法なのかは知っている』と言える。


 それに理解が難しいと言われるアイテムボックスを初めとする空間魔法については、異次元収納にどこでも行ける扉が子供の頃から普通にテレビの中に存在していたので、難しく考えることなく『そういうものだから』と頭で考えることなく使えたりする。


「……って訳なんだけど、どうかな」

「どうかなって……ふぅ~お前、とんでもないところから来たんだな」

「今、考えると窮屈だったかなとは思うけどね」

「いや、そうじゃなくてだな……あぁ~まあいい。大体のことは分かったが、これからのことを考えると憂鬱になりそうだな」

「そこは頑張ってとしか言えないね」

「ほぉ~随分と他人事じゃないか」

「だって、そういうのを考えるのは大人の仕事でしょ。ボク十二歳だもん」

「そうか。まだ、そういうことを言うか。なら、俺も「あ~ちょっと待って!」……そうか、手伝ってくれるんだな?」

「だから、俺はまだこの世界を楽しみたいの。それに喫緊の直近て訳でもないんだからさ」

『肯定します』


 俺が女神イースが魔族を使っての大規模侵攻までには時間があるだろうと考えるといつものメッセージが流れるのを見て安心する。


「ほら、やっぱり」

「何が『やっぱり』なんだ?」

「あ~だからね。まだ、女神イースの準備が終わるまでには時間が数十年単位だからさ。まだ余裕があるよね」

「いや、そうも言ってられないんじゃないか」

「え? どゆこと?」

「あのな、女神イースは俺達の魔法技術の衰退を狙っていたんだろ」

「うん、そうだね」

「でも、お前がその衰退を止める術を俺に教えたよな」

「うん、それで?」

「ってことはだ。女神イースがそれを認めたら、どうすると思う?」

「そりゃ、計画の見直しをするか。それか、計画を前倒しするとか……って、もしかして俺、やっちゃった?」

『肯定します』


 さっきは『すぐじゃない』と言ったのに、今度は侵攻計画が前倒しされることは肯定されてしまった。


 今度は俺が頭を抱えてしまうことになった。


「まあ、そう悲観するな。何もこの場に留まれと言っている訳じゃない」

「え? じゃあ、俺は何もしなくてもいいの?」


 俺がそう言って顔を上げるとギルマスの口角の端が吊り上がりニヤリと笑う。


「世界中を旅したいんだよな?」

「う、うん、そうだよ」

「なら、お前にはうってつけの仕事だな。俺に感謝しろよ」

「え? どういうこと?」

「ふふふ、まあ聞け」


 ギルマスが笑いながら俺に提案したのは、ごく単純なことだ。要は世界中の冒険者ギルドで、今ここで話した内容を聞かせろと言う。


「いや、無理でしょ」

「何が無理なんだ?」

「だってギルマスだから、俺の話を信じてくれたんでしょ。他の冒険者ギルドでギルマスの立場の人に話せって言われても無理だよ」

「そうか?」

「いや、そうでしょ。大体、こんな十二歳の俺がどうやってギルマスの前に立てるのさ。普通に考えても無理だよね」

「普通ならな」


 そう言って、ギルマスはまたニヤリと笑うと徐に羊皮紙を左手に持つと、右手にペンを持ち何かを書き始めた。


「ほら、これを持って行け」

「え? 何これ?」

「俺からの紹介状だ」


 ギルマスから渡された羊皮紙にはこう書かれていた。


『この者コータが話すことは私が全て保証する。冒険者ギルドキンバリー支部 ギルドマスター ダリウス』


 そして、こうも書かれていた。


『疑うなら、己の力で黙らせればいい』


 俺は目を通すとギルマスをキッと睨み付ける。


「お~怖! なんだよ。俺様からの紹介状だぞ」

「そうじゃない! 何なのこの内容は! なんで俺がケンカを売って回らないといけない訳なのさ!」

「さっき、お前が言ったことじゃないか」

「え?」

「十二歳の姿じゃ誰も信じてくれないとな」

「あ~確かに言ったかも知れないけど、ここまですることなの?」

「まあ、そう言うな。いつかは俺に感謝するかもな」

「……しないと思うけど」

『否定します』


あれ?

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