第9話 後悔の日々
夏が過ぎて秋が来る頃、私は体調の異変に不安になって病院に行った。
結果、生理不順だと思っていた私は妊娠していた事がわかった。
赤羽先輩の子供だ。
避妊はしていたはずなんだけど……
夏休みに度々呼び出されては求められたからだと思う。
でも考えようによってはこれはチャンスだ!
子供を盾にして先輩に結婚を迫ることが出来る。
私はお母さんと相談して学校を辞める事にした。
どの道お腹が大きくなれば学校には行けないし、これ以上幸せそうな優くん達を見ているのも辛い。
五条家からの援助が無くなった学費も家計に重くのしかかっている。
先輩には直ぐに言うと堕ろせと言われるかも知れないので、わざと堕胎可能期間を過ぎてから告げる事にした。
優くんを捨てた私にはもう赤羽先輩しかいないんだ。
ーーーーー
私は、学校を辞めて少し経ち、堕胎可能期間が過ぎたので先輩に会いに行った。
「お前もかよ! 何でこんなに避妊失敗してんだよ!? おかしいだろ! それに俺も学校を退学になるかもしれねえんだよ! 親父の病院もやべえしな! 何でこんな事ばっか起こるんだ!」
聞くと、先輩は複数の女生徒を私と同じ様に妊娠させ、学校からの事実確認と処分待ちという事だった。
それに父親が経営する病院でも数々の過去の不正が発覚し、起訴されて閉院になる可能性が高く、莫大な借金が残るかもしれないとの事。
私は自分の人生計画が全て泡になってしまったショックで、フラフラになりながら家に帰った。
その後、出血して倒れて救急車で運ばれ、緊急手術を受けて命は助かったけど、それが元で子供の望めない身体になってしまった。
赤羽先輩と連絡が取れなくなった私は、辞めた学校に私が妊娠した経緯を報告した。
これで赤羽先輩の処分はさらに重くなって、悪ければ退学になるだろう。
私のちょっとした復讐だ。
そう、私は先輩を恨んでいる。
先輩が私に告白なんかしなければ妊娠して学校を辞める事もなく、今頃は優くんと一緒に毎日仲良く、楽しく希望に満ちて学校に通えていたはずなんだ。
そして将来は優くんと結婚して子供を産み、お父さんの跡を継いで社長となった優くんとの裕福な生活があったはず。
その全てが無くなってしまった……
ーーーーー
私はその後しばらくは身体を使った水商売で生計を立てていたけど、お酒に強い体質ではなかったので数年後には身体を壊す事になってしまった。
その間色々な男性とも関係を持ったけど皆身体だけが目当てで、中卒で子供の産めない水商売の女に本気になる男は現れなかった。
身体を壊して肌も悪くなった私は力仕事のアルバイトやパートで母と何とか暮らしていたけど、その母も内臓の病に掛かってしまった。
治療に掛けるお金もあまり無く半分治療を放棄した母は、最後は残される私の心配で涙を流して失意のうちに亡くなっていった。
やっぱり私には優くんしかいなかったんだと思う。
家が隣同士の同い歳の幼馴染で小さな頃からずっと一緒だった。
今考えれば運命以外の何者でも無いだろう。
将来一緒になれるよう周りから色々とお膳立てもされていた。
なのにちょっと裕福な暮らしに目が眩んだ私は、ずっと握っていたその手を自分から手放してしまったのだ。
私は結局親孝行も出来なかった。
最初は優くんの家の事を教えてもらえなかったと母を恨んだりもしたけど、今は自分の自業自得だと思っている。
最終的に先輩を選んだのは私だったのだから。
もし優くんと結婚していれば母の病気を治療出来たと思うし、もし駄目だったとしても私の事は優くんに任せて、安心して安らかに逝く事が出来ただろう。
あれから私の人生は後悔ばかりだった。
ーーーーー
ある日、もう今は住んでいない優くんの家から物音がしたので玄関に出てみると、そこには壮年になって渋味を増した優くんと思われる男性が立っていた。
優くんは直ぐに立ち去ろうとしたけど、私はもうこれが最後の機会だと思って優くんにあの時の事を謝罪した。
優くんはやはり優しい。
それを聞いた優くんは私を幼馴染と言ってくれ、あの時の私を許してくれた。
そして前を向いて生きろと言ってくれたのだ。
優くんに許されて心の重石は取れたけどそれで生活が楽になるわけでも無く、この歳と容姿ではこれから見初めてくれる人も、いるはずがなかった。
今の私は老婆のような見栄えの中年で、肌の張りも悪く、化粧っ気も無い、見すぼらしい女だ。
ここからの逆転などまずあり得ない。
思い返すと私の人生のピークは優くんと付き合っているあの時だったのだ。
つくづくあの時優くんを選ばなかった自分の選択が悔やまれる。
それから数年後、遺伝なのか母と同じ病に倒れた私は、母と同じ様に治療のお金も無くこの世を去る事になった。
優くん。
本当にごめんなさい。
さようなら……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます