戦いと救援と
ナタンとフェリクスは
しかし、リリエが魔法で発生させた風――空気の流れに感覚を狂わされているのか、触手の命中精度は著しく低下しており、回避するのは容易だった。
襲いかかる触手を斬り払いながら、ナタンとフェリクスは
フェリクスの刀が水平に一閃し、
斬り落とされた本体の上半分は力を失って地面に転がったが、地下の根に繋がっているであろう
「聞いてはいたけど、しぶといな!」
次々と湧き出る触手を薙ぎ払いながら、ナタンは呟いた。
それでも、やがて
「念の為、焼いておきましょう」
リリエが呪文を唱えると、
「炎が一点に集中してる……あれも、君が呪文で制御してるの?」
「はい……周囲の木々に燃え移ると、大変なので」
ナタンが尋ねると、リリエは頷いた。
「それにしても、リリエは見かけによらず肝が据わっているな」
フェリクスが、感心した様子で言った。
「いえ……一人だったら、怖くて動けなかったと思います……皆さんと一緒だから、冷静に考えることができました」
真っ赤になって
「でも、あんな奴がウジャウジャしてるなんて、『帝都跡』って別世界みたいだね」
ナタンは、燃えている
「あれだけ大型の個体を維持するには、餌になる動物もそれだけ必要になります。この周辺には、もういないと思いたい……ですね」
リリエは少し不安げな顔で、ナタンの傍に寄り添うように立った。
一方で、セレスティアは、
「他に、痛むところはありませんか?」
「もう大丈夫だ。あんた、すごいな」
男はセレスティアに礼を言うと、自力で立ち上がった。
「あんたたち、昨日、うちの隊長が絡んでた人たちだろ?」
ナタンは男の言葉に一瞬首を傾げたが、前日に「帝都跡」の入り口で出会った、リリエの大学の同期だというクルト・ユンカースのことを思い出した。
「もしかして……クルトさんたちの隊が
リリエが、はっとした表情を見せた。
「そうなんだ……不意打ちを食らって対応が遅れた所為で、負傷者も出てる……こんなこと頼むのは、図々しいとは思うが……」
男は、申し訳なさそうな顔で
「他に怪我をしている方がいるのなら、手当が必要ですね」
セレスティアが言って、リリエを見た。
「そうですね。……あの、クルトさんたちの救助に向かいたいと思うのですが、皆さん、よろしいでしょうか?」
リリエが、力強く言った。
ナタンも、困っている者を助けるのに異存はなかったが、リリエが嫌そうな様子を毛ほども見せないのに感心した。
――俺だったら、一言くらいイヤミを言ってしまいそうだけど……やっぱり、リリエは優しいな。
ギードと名乗る男の案内で、ナタンたちは茂みをかき分けながら、クルトの隊がいるという場所に向かった。
茂みを抜けると、クルトの護衛の一人と思われる男が、足を引きずりながら近付いてきた。
「無事だったのか! 『奴』は、どうした?
周囲には、負傷しているらしき者たちが数人横たわっている。
「……この人たちに助けられたんだ。こっちのお嬢さんは、治癒の力を持つ『
ギードがナタンたち一行を指し示すと、護衛の男は目を見張った。
「か、彼らは……」
どうやら、護衛の男も、前日のことが記憶に残っていた様子だ。
「怪我をしている方は、あなたを含めて、これで全員でしょうか? 私が手当てします」
セレスティアの言葉に、護衛の男が何度も頷いた。
「クルトさん?!」
リリエが、少し離れた場所に倒れているクルトに気付いて駆け寄った。
ナタンも、慌ててリリエを追った。
目を閉じ、仰向けに倒れているクルトの首筋に手を当ててみたナタンは、規則正しい脈拍を感じた。
見たところ、目立つ外傷も特にない様子だ。
「……呼吸も正常だし、気を失っているだけみたいだね」
ナタンが言うと、リリエは安堵したのか溜め息をついた。
と、クルトが低く呻いて、
「……ば、『化け物』は……?!」
小さく叫んで、ばね仕掛けの人形のように跳ね起きたクルトは、ナタンとリリエの姿を認めると、目を剥いた。
「な、何故、君たちが?!」
クルトに見据えられたリリエが、思わず身を
「あんたの隊の人の案内で来たんだ。
ナタンは、リリエの代わりに答えた。
「そうだった……みんなは、どうしているんだ?!」
クルトは立ち上がり、周囲を見回した。
「皆さんの手当は済みました。命に関わるほど重傷の方がいなかったのは幸いでしたね」
「
フェリクスの言葉に、クルトは再度目を見張った。
「君たちの隊だけで……『奴』を?」
呟いて、クルトはリリエを見た。
「はい……ナタンさんたちが一緒だったので、何とかなりました」
リリエが、少しだけ誇らしげに微笑んだ。
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