力の使い方
「……偉そうなことを言ったが、俺も、昔は君と変わらなかった」
フェリクスが、ぽつりと言った。
「いい店があると言われて、ぼったくり酒場の客引きについて行こうとしたり、何も考えず相場の数倍の値段で買い物させられそうになったり……その度に、一緒に旅をしていた友人に叱られながら、色々覚えたものだ」
過去を懐かしむフェリクスの、どこか遠くを見るような目には寂し気な色が浮かんでおり、ナタンは、その「友人」が既にこの世の人ではないのかもしれない、と感じた。
「お待たせしました~、鶏肉とイモの空揚げ、あと
料理を運んできた店員によって、唐突に沈黙が破られた。
卓上に置かれた大皿には、湯気を上げる揚げ物の山が盛りつけられている。
数種類の香辛料をまぶして揚げられた鶏肉が、香ばしい匂いを漂わせていた。
細切りにされたイモの上には、刻んだ
見るからに、腹に溜まりそうな――若い男性が喜びそうな料理であり、自分に気を遣ってくれたのだろうか、と、ナタンは思った。
「これも旨そうだ。ナタンも、まだまだ食べられるだろう?」
フェリクスが、何事もなかったかのように言って、ナタンとセレスティアに取り皿を渡した。
先刻の話で気持ちが少し沈んでいたナタンだが、かりかりとした
「私は、お野菜をいただいているので、ナタンは、お肉を沢山食べてくださいね」
上品な手つきで
「君は、食後の
そう言って、フェリクスが小さく笑うと、セレスティアは頬を少し赤らめた。
「そういうことは、分かっても口に出さなくていいのですよ。……ナタンは、甘いものは好きですか?」
「甘いのも辛いのもイケるよ」
セレスティアに尋ねられて、ナタンは頷いた。
「
「最近は、
言って、フェリクスは
「フェリクスたちは、『
ナタンは、首を捻った。
「俺たちは、街道で野盗たちが隊商を襲っているところに出くわして、奴らを追い払ったんだが、その隊商の者に護衛を頼まれて、ここへ来ただけだ」
フェリクスが、事も無げに言うのを聞いて、ナタンは目を丸くした。
「野盗を追い払った……って、二人で?」
「正確には、フェリクス一人で、ですね。私は戦えませんから」
セレスティアが言って、微笑んだ。
「あんた、『
ナタンは呟いた。
「
言い伝えによれば、かつて、この惑星「
近年では、「
「君も、だろう?」
言って、フェリクスがナタンを見た。
「護衛も雇わずに、一人でここまで来ているということは、自分の強さに、それなりの自信があるのと同時に、それで稼ごうと思っていたからではないのか」
「何でもお見通しなんだな……あんたの言う通り、俺は『
眉尻を下げるナタンに、フェリクスが微笑みかけた。
「だが、その
「それは……『
多くの国では、強い
『
『
とはいえ、『
「君の、その感覚は好意に値するが、『
何もかもフェリクスの言う通りだ――ナタンは溜め息をついた。自身に他者を害するつもりが無いからといって、全ての人間が同じように考えている訳がないのだ。
「私も、ナタンのような優しい子は好きですよ。他人を害することに
セレスティアの言葉に、フェリクスが無言で頷いた。
ナタンも、彼女の言葉に救われた気がした。
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