第5話:絶望の会食

【※読者様へ】

あとがきにて新たな情報が解禁されておりますので、是非あとがきも最後まで読んでいってください!

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 シルバー・グロリアス=エル=ブラッドフォールンハート。

 聖女の代行者にして、歴史の陰を生きる英雄。


 そんな伝説の男は今、エルギア城の特別来賓室で、一人ため息を零していた。


「はぁ……行きたくないなぁ……」


 鎧を纏ったルナは、立派な椅子に腰掛け、両手で頭を抱える。


 武闘会初日のスケジュールが全て終わった後、特別観覧席でニルヴァと合流、そのまま会食の舞台となる王城へ移動し――現在に至るというわけだ。


「レイオスさんが無駄に鋭い推理をしなければ、こんな面倒なイベントに出なくて済んだのに……」


 ルナは今回、レイオスの追及をかわすため、ニルヴァからの招待状を利用した。

 昼休憩の時点で既に目的は達成されており、何か適当な理由を付けて、会食をキャンセルすることもできたのだが……。

 根が真面目過ぎる聖女様に、約束をたがえるという選択肢はない。


「はぁ……憂鬱だ」


 今日何度目になるかもわからないため息をつくと、コンコンコンとノックが鳴り、ニルヴァの渋い声が響く。


「――シルバー殿、会食の準備が整ったようです。御準備が出来ましたら、お声掛けください」


「えぇ、ありがとうございます」


 鎧の中のルナは両の頬をパンと叩き、一つ気合いを入れ直した。


(ふぅー……切り替え切り替え! ちょっと夜ごはんを食べて帰るだけだし、そんなに思い悩まなくても大丈夫!)


 扉を開け、ニルヴァと共に会食の場へ向かう。

 長い廊下を進み、螺旋階段を登り、スロープを下り、突き当たりを右へ曲がる。そして再び真っ直ぐ歩き、バルコニーを経由して、上層へ続く階段を登った。


「まるで迷路みたいですね」


「これは侵入者対策の一環。簡単に王城を攻略されぬよう、えてこのような複雑な造りにしております。もう間もなく着きますので、しばしお付き合いください」


 それからほどなくして、ニルヴァはとある一室の前で足を止めた。

 彼は居住まいを正し、扉をゆっくりとノックする。


「ニルヴァです。シルバー殿がお見えになられました」


「うむ、お入りいただけ」


「はっ」


 ニルヴァが扉を開けるとそこには――。


「シルバー殿、よくぞいらしてくださった。歓迎いたします」


 エルギア王国第三十八代国王マグナス・ジズ・エルギアの姿があった。


「……えっ……?」



 ルナが硬直フリーズしているちょうどその頃、聖王国のログハウスは静寂に包まれていた。


「……」


 聖王国副参謀のゼルは早朝からずっと机に就いたまま、ほとんど休みを取ることなく、ひたすら仕事を続けている。


(ふむ……順調に進んでいるようだな)


 彼の手元にあるのは、聖王国ゴドバ領およびカソルラ領からあがってきた報告書。

 これによれば、ルナの貸し出した『聖王国』の名は非常に重く、漁夫の利を狙っていた帝国と周辺諸国は、疲弊したゴドバ領とカソルラ領についぞ手を出せず……。両地りょうちの戦後処理はつつがなく進行し、もう間もなく終了する見通しとのこと。

 今後は当初の約定に従い、聖王国との積極的な人材・技術・資源の交流を図っていく予定となっている。


 本格的な国造りがゆっくりとしかし確実に進められる中、喫緊の問題が一つ。


(……人手が足りん……)


 住居の建設・畑の開墾かいこん・防備の設営などなど、国を大きくするには、多くの人手が必要となる。

 聖王国は元々スペディオ領という辺境の地であり、生産年齢人口は極めて少ない。


 ゴドバ領とカソルラ領から、働き手をつのるという手もあるが……。

 両地は先の戦争で消耗したばかり。安堵の息をつく暇もなく、半ば強引に労働力を徴収すれば、民の悪感情を引き起こしかねない。


(一応、移住希望者は山のようにいるが……)


 聖王国は『聖女のお膝元』ということもあり、世界中から移住希望者が殺到していた。

 しかし当然ながら、これを安易に受け入れるのは危険だ。

 聖女陣営は今や世界中の注目を集めており、この移住希望者の中には、相当な数のスパイが紛れ込んでいると見て間違いない。

 新たな移住者を受け入れるには、最低限の身辺調査が必要だ。


「聖女様に絶対の忠義を捧げる、安全な労働力がいれば助かるのだが……。ふっ、そんな都合のいい話があるわけもないか」


 くだらない妄想を笑い飛ばしたゼルが、次の仕事に手を付けようとしたそのとき、ゴーンゴーンと掛け時計が鳴った。


 チラリと見れば、時刻は午後七時。


「っと、もうこんな時間か……」


 昼食を取るのも忘れて、缶詰状態で働いていたため、すっかり腹が減っている。

 ゼルは作業を一時中断して台所へ移動、氷の魔石を使用した食料保存庫――フリッジの中から適当に材料を見繕う。

 鉄鍋をサッと振るい、簡単な夜食を作った後は、ウッドデッキへ向かう。


「今日は新月か……」


 木製の椅子に腰掛け、出来立ての野菜炒めを堪能。


「――ごちそうさまでした」


 小腹を満たした彼は、夜の冷たい空気を感じながら、王国の方角へ目を向ける。


「しかし、御立派になられたものだ……」


 威風堂々とした主人の姿を空目そらめしながら、しみじみと呟く。


 思い起こされるのは、先日のやり取り。


【聖女様……大丈夫なのでしょうか?」


【何が?】


【ニルヴァ殿の手紙には、『王城にて会食』という文言がございます。おそらくその場には――】


【――大丈夫! 偉い人とのごはんぐらい、へっちゃらだよ! なんと言っても私は、聖王国の参謀だからね!】


 エルギア王国の現状+王城を指定した会食、この二点を踏まえれば……当日、国王が出て来ることは火を見るよりも明らか。

 主人はそれを理解したうえで、万事問題ないと仰った――とゼルは勘違いしている。


「いつまでもあの頃のままではない、か……」


 目を閉じれば、三百年前の旅がまるで昨日のことのように浮かび上がる。


【ど、ど、ど、どうしようゼル……!?】


【聖女様、どうか落ち着いてください。事後処理については、この私にお任せを】


【あ、あはは……またやっちゃった……っ】


【……やってしまったものは仕方ありません。私も同行しますので、心を込めて謝りましょう】


【んー……難しいこと、よくわかんない】


【どれ、私が聞いて参りましょう】


 計画性ゼロで行き当たりばったり。

 理屈っぽい話を聞けば、すぐに煙をあげる聖女ブレイン

 そんなポンコツ極まりない主人は、今や国王との会談に臨むほどに成長していた。


 長年お世話係を務めてきた身としては、どこか心寂しい気もするが……ここはやはり喜ぶべきところだろう。


「聖女様のご成長に――乾杯」


 老鳥は一人そう呟き、水の入ったグラスを傾けるのだった。



 一方、いつまでもあの頃のまま変わらない聖女様は、


「おぉシルバー殿、よくぞいらしてくださった。歓迎いたします」


「……えっ……?」


 完全に思考停止フリーズしていた。

 それもそのはず、彼女は今回の『会食』を言葉通りの『食事会』と受け取っていた。


 ニルヴァと自分の接点と言えば、レオナード教国の一件が思い当たる。

 あの依頼を受けてからは一度も会っていなかったので、今日はその打ち上げ的なアレだろうと思っていたのだが……。


 現実は違った。

 会食の相手はニルヴァではなく、見るからに偉い人っぽい老爺。


(どこかで見覚えのある顔……。このお爺さん、もしかして……っ)


 頭に輝く金の王冠・背後に控える近衛・威風堂々とした姿、ここまで揃えばいやうえにも理解させられる。


「さっ、どうぞお掛けください」


「……失礼します」


 勧められるがまま、老爺の対面に腰を下ろした。

 両者の間には大きな長机が伸び、その上には豪勢な料理がズラリと並ぶ。


「改めまして、儂はエルギア王国第三十八代国王マグナス・ジズ・エルギア。シルバー殿、お会いできて光栄です」


 マグナス・ジズ・エルギア、62歳。

 身長180センチ、標準的な体型。

 真っ白な髪のミディアムヘア。

 大きな藍色の瞳・皺の入った顔・真っ白な髭、国王然とした立派な衣装に身を包む。


「……どうも、シルバー・グロリアス=エル=ブラッドフォールンハートです(うわぁ、やっぱりエルギアの国王だ……。三百年前のアレ・・となんか似てると思ったんだよなぁ……っ)」


 かつてないほど元気のない名乗り。

 その声色からシルバーの『静かな怒り』を察したマグナスは、ゆっくりと目を閉じて頭を下げた。


「三百年前の――我が祖先の卑劣なる所業、本当に申し訳なかった」


「へ、陛下!?」


「おやめください!」


 王が頭を下げるなど、決してあってはならないこと。

 近衛は慌てて制止の声をあげるが、マグナスの意思は固い。


「我が祖先は愚かにも、聖女様の処刑に賛同した。これがみそぎになるとは思っておらぬ。だがしかし、詫びの一つもなければ、聖女様の代行者シルバー殿と語らう資格はない」


 彼はそう言って、いっそう深く頭を下げる。


 この真摯な謝罪に対し、ルナは何も言わなかった。


 全てはもう過去の話。

 自分をおとしめたのは三百年前の国王であり、その遠い子孫に謝ってもらったところで、心がくわけもない。


 残ったのは結果。

 世界が自分を裏切ったという事実のみだ。


「……それで、本日はどのような御用向きでしょうか?」


 シルバーが話を促し、マグナスはゆっくりと頭を上げる。


「聡明なるシルバー殿のこと、既にご存じかと思いますが……。我が国は現在、危機的な状況にあります」


 そうして彼は語り始めた。


「王国は遥か古より、王族と貴族の折り合いが悪く、お互いに足を引っ張り合ってきました。近年はそれが益々顕著になり、議会の意思統一もままならぬ惨状。お恥ずかしい限りです」


「ふむ(王国の状況は三百年前と同じ……いやむしろ、あのときよりも悪化してそう)」


「ほんの十年と少し前までは、帝国ともライバル関係にあったのですが……。彼の国は皇帝アドリヌスの治世のもと、過去に類を見ないほどの発展を遂げ、今や大きく水を開けられてしまいました。……結局のところ、儂は凡庸だった、『王の器』ではなかったのだ。民を思い、民に尽くし、民のために生きた。しかし、力なき指導者に改革はもたらせぬ。全てが中途半端に終わった」


 マグナスはどこか遠いところを見つめながら、悔恨と諦観ていかんの入り混じった複雑な表情で訥々とつとつと言葉を紡ぐ。


 マグナス・ジズ・エルギアの王としての格は――『中の下』だ。

 悪政はなく、失政もない。

 だが、大きな発展もない。

 彼の言葉通り、民を思い、民に尽くし、民のために生きる男。

 しっかりとした基盤を与えたならば、安定的な政治を敷くだろう。


 しかし、既に泥船と化した王国を浮上させるには、決定的にカリスマが足りていない。

 起き抜けに死刑を命じ、朝食を食べながら貴族を処断し、なんの感慨もなく人の生涯を踏みにじる――アドリヌスのような非情さが欠けている。 


 の器は所詮、人の範疇に留まり、ばけものの領域へ至らない。


「このまま儂が座したところで、王国に明るい展望はない。だから、頃合いだと判断した」


「王位を譲られると?」


 マグナスはコクリと頷く。


「儂には三人の子がおります。ただ、一人は我欲があまりに強く、一人は金に目を眩ませ……儂が言える口ではないですが、どちらも王たる器ではない」


 彼は嘆息しながら頭を振り、不甲斐ない愚息を嘆く。


「やはり次代の王には、末の妹アリシアがふさわしい。先に断っておきますが、これは決して消去法ではございません。あやつは臆病ですが、民を思う優しき心がある。そして何より、不世出ふせいしゅつの智者だ」


「ほぅ(アリシアって……ハワードさんの屋敷で、私とサルコさんと一緒にさらわれた、あの金髪のお姫様だよね? 彼女にはあのとき、『顔』と『力』の両方を見られてる……。うん、絶対に顔を合わせないようにしよう)」


 ルナが固く決心している間にも、マグナスは話を先へ進める。


「ただ、アリシアの継承権は三番手。まず以って、王位を継ぐことはない。――そこでシルバー殿、貴殿に折り入ってお願いがございます」


「なんでしょう」


「もしよろしければ、アリシアの後見人となってはくださりませんか?」


 これはマグナスが考えに考え抜いた、虎の子の一手だった。


 聖女陣営という最強の後ろ盾があれば、アリシアはきっと王位を継ぐだろう。

 そして次期国王の後見人となれば、シルバーは王国内で絶大な権力を手にする。

 他国の要人を政治の中枢に取り入れる、売国のそしりをまぬがれない暴挙だ。


 しかし、王国は既に沈みゆく泥船。

 このまま何も手を打たなければ、愚息のどちらかが王位を継ぎ、亡国の一途を辿るのみ。

 それならばいっそのこと、聖王国に実権を明け渡した方が将来さきは明るい。


 何せ聖王国のトップは、三百年前より転生を果たした『唯一王』聖女。

 深き叡智と温かな慈愛に満ちた彼女ならば、崩れ行く王国を正道に導いてくれるはず。 


 マグナスはそう判断し、不退転の決意でこの会談に臨んだ。


(ニルヴァの話によれば、シルバー殿はあの皇帝アドリヌスと比肩する智者けつぶつ。彼を相手に多弁をろうするは――ましてや舌先で丸め込もうとするのは愚策。あまねく一切を隠すことなく、誠の心でぶつかるのみ!)


 マグナスは実直な男であり、アドリヌスと違って、弁論術に長けていない。

 だから、かたらない。

 小手先の技術に頼らず、本心を本心のまま伝え、男と男の話し合いに持ち込んだ。


 一方、マグナスから誠実な願いを託された聖女様は――。


(……『こうけんにん』って、なに……?)


 本題から遥か手前の地点で、盛大にズッコケていた。

 後見人という言葉は、彼女にはいささか難し過ぎたのだ。


(と、とにかく……悩んでいるポーズで時間を稼ぎつつ、困ったときのゼルに相談!)


(我が国は腐っても四大国の一角。儂の案に賛ずれば、その全てが容易く手に入る。貴族という『毒』こそあれど、聖女陣営には絶大な武力があり、いくらでも抑え込むことができる。この話は、そちらにも益のあるもののはずだ……!)


 お互いの思いが完全にすれ違う中――巨大な轟音が響き、エルギア城が激しく揺れた。


 王城に設置している<警告アラーム>の魔法が作動し、けたたましい警告音が鳴り響く中、


「ん?」


 鈍感なルナは小首を傾げ、


「な、なんだ!?」


 マグナスは大きな動揺を見せる。


「陛下、ここは危険です!」


「ひとまずこちらへ!」


 近衛の言葉を受け、マグナスは渋々といった風に頷く。


「シルバー殿、先ほどのお話、どうか聖女様にお伝えください」


「えぇ、わかりました」


 ルナが頷くと同時、マグナスは近衛兵に連れられ、どこか安全な場所へ移された。


(ふぅ……。なんだかよくわからないけど、これでやっと帰れる……)


 ルナがホッと胸を撫で下ろしたそのとき――ニルヴァから声が掛かる。


「シルバー殿、これから少しお時間をいただけますか?」


「……え゛っ……?」


 露骨に嫌そうな顔をしたが、とても断れるような空気ではない。


「まぁ……ちょっとだけなら」


「ありがとうございます。どうぞこちらへ」


 がっくりと肩を落としながら、ニルヴァの後に続くことしばし――王城の地下、参謀本部へ案内された。


「こ、これは……!?」


 そこには巨大な空間が広がり、大勢の情報士官が配置されていた。


(なんかいろいろ凄いけど……アレ・・はなんだろう?)


 ルナがとりわけ注目を寄せたのは、参謀本部の最奥に設置された巨大な立体作戦盤。

 その視線を読み取ったニルヴァは、柔らかく微笑みながら解説を加える。


「あれは<天盤ヘブンズ・ボード>を内蔵した広域魔力探知機。カソルラ魔道国――失礼、聖王国カソルラ領より手配した特注の品です。さすがに王国全土とは行きませんが、王都のほぼ全域をカバーしております」


「なるほど、便利な魔道具ですね(ここ、秘密基地みたいでかっこいいかも……。聖王国うちにも、こういうの作れないかな? 今度ゼルに相談してみよっと)」


「ふふっ、お褒めにあずかり光栄です。さっ、お座りください」


「失礼します」


 ルナは椅子に腰を下ろし、ニルヴァは情報士官たちへ声を掛ける。


「状況はどうなっている?」


「王国各地に魔獣が発生! 今しがたこの王城も攻撃を受けましたが、『天賦の剣聖』オウル・ラスティア殿が既に討伐! 他のエリアの魔獣については、現地の聖騎士たちが討伐にあたっております!」


「同時多発的な魔獣の発生……魔王軍か?」


「魔獣が出現する直前、<天盤>上にパターン黒の魔力反応を確認。おそらくは高位の魔族が召喚したものかと」


『王国の頭脳』と称されるニルヴァは、敵の意図を正確に見極める。


「……なるほど、狙いは聖女学院の生徒か。聖女様がかつての力を取り戻す前に、葬り去ろうという腹積もりだな」


 彼が結論を出すと同時、<天盤>上に大きな変化が現れる。


「聖女学院上空に巨大な魔力反応が出現! この魔力量……『天獄八鬼』かと!」


 参謀本部に大きな動揺が走る中、


やはり・・・来たか」


 ニルヴァは予想通りといった風に微笑んだ。


「天獄八鬼ですか。どれ、ここは私が出ましょう」


 珍しく好戦的なルナは、スッと椅子から立ち上がる。

 王国の窮地を救おうとしている――のではない。


(天獄八鬼を倒して、どさくさに紛れてドロンしよう)


 参謀ルナの立てた完璧な帰宅プランは、しかし次の瞬間に瓦解がかいする。


「いえ、ここは我々にお任せを」


「えっ……そう、ですか……? でも、相手は天獄八鬼で――」


「――問題ありません。我が王国の武力、是非ともご覧ください」


「……そう、ですか……」


 ニルヴァの一声により、計画は破綻。


 聖女様はしょんぼりと声を落とし、そのままおずおずと椅子に座った。


(でもまぁ、これだけ自信があるんだから、きっと大丈夫なんだろう、な……?)


 その瞬間、脳裏をよぎるのは『歴戦の猛者もさ』たち。


 信望厚き大貴族――『自称最強の魔法士』ことハワード・フォン・グレイザー。

 聖騎士学院の若き俊英――『節穴』ことレイオス・ラインハルト。

 王国冒険者ギルド最強の剣士――『壁ギンチャク』ことオウル・ラスティア。


 自信満々だった人達はみな、信じられないほどに弱かった。


(……本当に大丈夫かな?)


 不安に思ったルナは、<交信コール>を飛ばす。


(――ゼル、ちょっと緊急事態かも)


(はっ、なんなりと御命令を)


(聖女学院に天獄八鬼が現れたみたい。私はニルヴァさんに捕まってて、まだちょっと動けそうにないから、ローとサルコさんとウェンディさんを守ってもらえない……?)


(御学友の護衛、確かに承りました。こちらはいつでも大丈夫ですので、<異界の扉ゲート>の開放をお願いします)


(おっけ)


 ルナの返答と同時、ゼルの目の前に大きな扉が出現。

 なんともいびつな形をしたそれは、魔法がド下手糞な主人によるものだと一目でわかる親切仕様だ。


 聖王国のログハウスから聖女学院の本校舎屋上に転移したゼルは、素早く周囲を見回し現在の状況を報告する。


(天獄八鬼はグラウンド内で、大きな老爺と睨み合っております。また、聖女学院の生徒たちは、学院内の魔獣と戦いっている模様。御学友の特徴を教えていただけますか?)


(ローはスペディオ家で会ったメイドさん、サルコさんはマウント山のボス、ウェンディさんはメインヒロイン、かな?)


(……なるほど)


 ルナの貧困な語彙力ごいりょくを知るゼルは、それ以上詳しい説明を求めなかった。

 主人の意をめてこそ、一流の従者というもの――そう考えたのだ。

 彼は鋭い両目をジッと凝らし、生徒たちを一人一人観察していく。


(……アレは違う。……こちらも違う。むっ……?)


 大勢の女生徒の中、凄まじいリーダーシップを発揮する個体を発見した。


(聖女様、ボスの風格を漂わせる金髪縦ロールを発見しました。その周囲には二人、パステルピンクの髪をした清楚な女子、黒髪の凛とした空気を纏う女子の姿も確認できます。御学友はこの者たちでは……?)


(そう、その三人! みんな大丈夫そう?)


(はい、特に負傷しているようには見られません)


(そっか、よかったぁ……)


 ルナはホッと安堵の息を零す。


(私はいつでも助けに入れるよう、屋根の上で待機しております。もし何かございましたら、すぐにご連絡をください)


(ありがと。あんまり王国に肩入れしていると思われたくないから、助けに入るのはギリギリまで控えてね。あっでも、三人がピンチになったときは遠慮なく出ちゃって)


(万事、お任せください)


交信コール>切断。


(さて、と……後は隙を見て、こっそりと抜け出そうっと)


 頼れる腹心に現場を任せたルナは、『天獄八鬼討伐作戦』を見つめながら、静かに脱出の機を窺うのだった。

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【※読者の皆様へ、大切なお知らせ】

書籍版第一巻の発売が5月25と迫る中、本日さらなる情報が解禁!

三百年前のルナが、処刑されるときのイラストです!(画像は近況ノートhttps://kakuyomu.jp/users/Tsukishima/news/16818093077207194907に掲載しております!※ここのページには、カクヨムのシステム的に画像を表示できないため)

書籍版で読める『三百年前の物語』では、この衣装のルナが大活躍します!

もし気になられた方は、書籍版第一巻を手に取っていただけると幸いです!


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