第37話 クライマックスに向けて一人考える陽君

 いいね、このどんどん追い詰められていってる感。しかも、本人たちはそれに気づいてないっていう。

 しかし、彼らの一番まずかったのは、あの林先生をまじで怒らせたってところだ。

 教頭の金づる、校長の奥さんのルートを止めたら、なんと今度は金子さんのお母さんに矛先が行ってしまった。

 これは想定外の行動だった。

 金子さんは僕には相談しないって強がっていたけど、メンタルが痛めつけられると人によっては命の危機に繋がる。

 まったく洒落にならない。

 だから僕はすぐさま林先生に感じたままを報告した。

 僕からの話を聞いた瞬間、林先生の顔色がサッと変わった。

 青ざめたんじゃない。その逆だ。

 なんでそこまで怒るのか聞いたら、なんと金子さんの親は、林先生の幼なじみだった。

 ふぅん……幼なじみが苦しめられてそんなにアツくなるなんて、意外だ。林先生って、もっと冷血漢なのかと思ってた。

 はて、と僕は思う。

 たとえば幼なじみに近い従兄弟の輝が、同じような目にあったとしたら、僕は林先生のように怒りを感じるだろうか?

 ……感じなさそうな気がするなぁ……好きな女の子……まだいないけど……がそうなったら、流石に頭に来るだろうけど。

 輝の場合は怒りを感じるどころか。

 今どんな気持ち? ねぇねぇ?

 って、毎日聞いてしまうと思う。

 他人に弱みを握られて脅されたという経験は、僕にはないからね。

 だからこそ、めちゃくちゃ興味がある。

 ああ、試したい……輝で。

 まあ、それはさておいて。

 実は校長・教頭吊しあげ作戦の役も、本当は自分でやりたいんだ。

 しかし残念ながら、高校二年生という立場では危ない橋は渡れない。

 受験に差し障る可能性があるから。

 そんな僕は、仕方がないから盗聴器ごしに生放送を聞くしかない。

 もちろん、録音して……場合によってはばらまくつもりでいる。

 林先生は、金子さんのお母さんと電話で話をしたようだ。

 良かった。幼なじみの林先生からフォローされたら、多少は効果があるだろう。

 だけど、そうのんびりはしていられない。

 金子さんのお母さんがだめなら次は……と、なりかねないからね。

 金回りのトラブルは人を簡単に狂わせる。

 今までが順調に行き過ぎていた分、教頭は相当焦ってるんじゃないかと思う。

 林先生の言う通り、吊しあげ作戦は予定を前倒しした方が良さそうだ。

 となると、今月の土曜か日曜になる……運動部の連中がいるかもしれないが、保健室なら安全だろう。

 ゲロさせるにも、圧をかけるにも、現場となった保健室は最適な場所だ。

 先月、東條先生が行方不明者の娘さんと校長の奥さんを揺さぶってくれたお陰で、だいぶ風向きが良くなった。

 林先生が言っていた、母親の部分を攻めてみる、が功を奏したわけだ。

 林先生は男だけど、メンタルが女性だから、やっぱり母性ってもんが理解できるんだろうか。

 僕にはあまりよくわからないんだけど。

 まあ、校長の奥さんは東條先生の言葉やキーホルダーなんかに相当狼狽えていたらしいから、証拠品でも預かっているのかもしれないな。

 それを回収したら、吊しあげスタートだ。

 誰に取りに行ってもらおうかな……東條先生か林先生か……田口先生だけはないな……吊しあげの時にだけ、役に立ってもらおうっと……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る