事件資料3:G県警生活安全部生活安全総務課 イケダヤスト巡査の携帯に残されたメモより

 ここ最近、県内某所を中心に行方不明者が多発しているという。刑事という職業柄、また故郷に近かった事から義憤で独自調査を開始……したのだけども、所轄の警察にまで足を延ばしたけど無駄足に終わった。行方不明者達は例外なく何か変な物が視界にチラつき始めると言い始め、やがて意味不明な内容に変わり、その最後に忽然と姿を消すという。この一連が不気味なくらいに共通しているのは既に知った情報だが、やはりどれだけ調べても既知の情報以外に何らの手がかりも見つからなかった。


 ならばそれ以外の共通点から調べるしかない。G大学の学生、あるいはその知人。俺は少し前に連絡先を交換した行方不明者の知人に電話したのだが、相手はまぁ何とも素っ気なかった。あの時の話を思い出しても、「会いたくない」「別に疑ってる訳じゃない」「そんな理由じゃない」とか、取りあえず会いたくない訳ではないようだが、何となく避けられている様な気がする。


 あぁ、気になって仕方が無い。それが何故だか分からないが、この件を件の大学の学生から相談された以降からどうしても頭の中がそれで一杯になる。この事件が頭から離れない。これは……多分刑事としての執念だ。俺がこの一件に関わる事となったG大学の生徒行方不明事件。最初こそただの1人旅とか、あるいは自殺、さもなくば反社系とのトラブルだろうと高を括っていたのだが、暫くしてゼミの同級生や教授までもが行方不明となった事で一気に事件性が高まった。そして……暫くして教授の知り合いも同じく行方不明となった。


 この人物はココからもっと遠い地方に住んでいて、何でも民俗学を研究しているとかいう年若い教授だった。が、大学教授が音信不通となってから数日後、パタリと足取りが途絶えた。この大学教授の知り合いは電話でこんな内容を知人に話していたそうだ。"知り合いの教授からとんでもない情報を教えてもらった。これから高名な住職や神主さんを連れてG県にむかう"、と。


 何かある筈なんだ。全員に共通しているのはこのK町という山の中の小さな町……って言うよりは集落か。とにかくその集落の付近の山中に建つ古びた寺。最初の生徒と教授はその神社の話をしていて、そしてその話を聞いた民俗学者が向かった。


 と、そうやって資料を色々とひっくり返している最中、見慣れない何かに目を奪われた。カタカナと見た事も無い漢字を組みわせた奇妙な模様。そう言えば、確か行方不明になった大学生の知り合いに教えてもらったんだった。いや、それ自体はどうでもいい。どうにも模様の説明が要領を得なかったから手帳に書いてもらったんだから。だけど、俺は一体何故、何時の間にこの模様を車にまで描いたんだろう?


 ……駄目だな。どうも疲れている。いや、そうに決まっている。そんな折、ふと目に入ったのはメンタルクリニックの看板。これも天啓。今日はこれ位にして続きは明日にしよう。

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