ピーターパンシンドローム
羽根とき
第1話
鳥かごのようにうるさい教室の角で一人の男子が一枚の紙とにらめっこをしていた。
男子の名前は小野葉月(おのはづき)
黒髪に眼鏡を掛けているどこにでもいそうな顔をした男子。それといった特技などは無く、得意な事と言えばしいて言えば勉強だろう。
机の上に置いてある紙には「入部届」と書いてある。
何で困っているかというとなんの部活に入るかだった。自分のやりたいこと、好きなことがある人はすぐに決められるだろうからいいだろうが、あいにく自分にはそういった趣味といったものがないため入りたい部活が見つかっていない。
自分が入学した学校は文武両道で、部活にも力をいれているところが多く適当な部活に入った場合地獄を見ることは分かっている。
入りたい部活がないならどこにも属さなければいいという人もいるだろうが、自分は部活にでも入らなければ休日はずっと家に引きこもっているような人間だ。さすがに花の高校生にそれはまずいと親にも言われているため、どこかに部活に入らなければいけない事になっている。自分も高校生活を自堕落な生活で無駄にしたくないため、どこかに入ろうとは思ったがいいがしたいことがないため今こうして、紙とにらめっこしている状態になっている。
体験入部の期間も過ぎてしまうため早めに決めなければと息巻いて、バドミントン、サッカー、バレーなど様々な部活に体験入部に行ったのはいいがどの部活も馬鹿みたいに厳しかった。どの部活も例年大会で良い成績を上げているため、部員のレベルも高いため、入部希望者のレベルも高く比較的運動神経が良い自分はずの自分でも周りの入部希望者とでは技術的な差がある事はすぐに分かった。そのためレギュラーに入れないのであれば運動部に入る意味もないので諦めてしまったため、今困る結果になってしまっている。
もう今日は諦めて帰ろうかな・・・
そう思い、帰る支度をして席を立ったところで一人の男子に声をかけられた。
「もしかしてまだ入る部活決めていない?」
そう声をかけてきたのはクラスメイトの柳沢紫苑(やなぎさわしおん)
黒髪で男にしては長い髪の毛に、人懐っこそうな犬のような顔の持ち主だ。
クラスでも中々に目立つ人物で席の周りの人と仲がよさそうに喋っているのをよく見るが、自分は席が離れているため喋ったことがなかったのだが何の用だろう。
「うん。一応体験には行ったんだけど、運動部だとどの部活もレベルが高くてついていけそうにないからまだ決めてないんだよね。」
「それなら丁度良いや!軽音部って興味ある?」
「軽音部?」
「そそ!ギターとかドラムとかの楽器でバンドをやるやつ!丁度今日部活見学ができる日だからさ一緒に行こうよ!」
「別に良いけど・・・俺楽器とかまともに触ったことないからあまり期待しないでね」
「初心者なんていっぱいいるだろうし大丈夫でしょ。あ、自己紹介してなかったね。俺は柳沢紫苑。小野君だよね?よろしく」
「俺のこと認知してたんだ。よろしく」
周りの席の人とは仲良くなり、それなりに話していたが紫苑とは喋ったこともないため俺のことは知らないと思った。
「もちろんクラスメイトだもん。さすがに名前くらいは覚えてるよ。しかも小野君って結構クラスでも目立つでしょ?」
「目立つような事はしてないつもりなんだけど・・・」
「いやいや・・・小野君はめちゃくちゃフレンドリーだし誰にでも優しいから皆小野君の事を褒めてるよ?もしかして無自覚?」
「普通のことをしてるだけだよ」
「まあこうやって殆ど無理やり誘ったのについてきてくれてる時点で優しさが見えてるよね」
「俺も何に入るかそろそろ決めないといけないからだよ」
「別にこの学校部活は強制じゃないからやりたいことがないなら入らなくてもいいんじゃないの?」
「休日に家で惰眠を貪るくらいなら部活に入ったら?って親に言われちゃったからね。俺も高校生活を適当に過ごすのは嫌だからさ。」
「あー、この学校バイトはほぼ禁止だからねー。確かにそれなら部活入ったほうがいいかも。ていうか小野君って結構怠けるタイプなんだ」
紫苑が意外そうな顔をして聞いてくる
「俺のことどんな風に見てたの?俺はめちゃくちゃ怠けるし、めんどくさがりだよ。」
「いやさ、授業中もしっかり聞いてるし課題もしっかり出してるからもっと優等生タイプなのかと思った。」
「それなりに勉強はしているつもりだけどそれ以外の事はあまりする気が起きないんだよね。やることやったらすぐに電池が切れちゃうんだよ」
「まあやることやっているなら十分でしょ。何もしないで怠けている人もいるんだし。」
紫苑はどこか遠い目をしながらそう言った。まるでその人を知っているかのような言い方だった。
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