俺の【ダンジョン探索者なり方講座】がハードすぎて誰もついてこられない件について~上司に頼まれて動画とったら規格外すぎたらしく、なにやらバズっているらしい~有名人になってしまったので仕事辞めて配信します

月ノみんと@成長革命2巻発売

第一部

第1話 ダンジョン探索者なり方講座


 働きたくない、なんていう風に思い始めたのがいつ頃だったか、今ではもう覚えていない。

 思えば高校生のころからそう考えていたような気もするし、就職してしばらくたってそう思うようになっただけのような気もする。

 公務員だってのに、なんでこんなに残業ばっかなんだ?

 うちの職場はどうなってる。


「オイこら杉田! なにやってんだてめえ!」

「す、すみません……」


 今日も一日、上司からさまざまなパワハラを受けた。

 げんなりして、俺は一日を終える。


 22時過ぎの、ダンジョン庁の庁舎内オフィス。

 公務員として働く俺、杉田カズは、今日も淡々と業務をこなし、帰りの準備をしていた。

 さてと、今日も帰ったら、趣味・・にいそしむか。

 アレがないとストレスがマッハで死んでしまう。

 

 そう思い、席を立ちあがったときだった。

 上司が俺の名を呼び、近づいてくる。

 俺の女上司である、春日かすが綾さんだ。

 春日さんはパワハラが当たり前のこの職場で、唯一俺に優しくしてくれる上司だ。

 ぴちぴちのスーツ姿がなんともエロい。

 まあ、そんなことを口に出したら殺されるのだろうが……。

 いったい俺になんのようなのだろうか。

 はぁ……面倒なことはごめんなんだがな。


「ねえ杉田くん、ダンジョン配信って……興味ない?」

「ダンジョン配信……ですか…………」

 

 ダンジョン配信……そういえば、最近若者を中心にそういうのが人気らしいな。

 だけど、俺はあまりよくは知らない。

 もともと他人への興味も薄いほうだし、誰かが配信している様子なんか見ても面白いとは思わない。

 俺がダンジョン配信をするなんてのはもっと興味がない。

 それに、俺は公務員だし、副業は禁止だからな。

 稼げないなら、ダンジョン配信なんか意味ないだろ?


「俺が興味あるように見えます? それに、第一俺たちは公務員ですよ? 副業は禁止されてます」

「そうじゃなくて、仕事よ。仕事」

「はぁ」


 急に仕事と言われても意味が分からない。

 俺はダンジョン庁というところにつとめておきながら、ダンジョンとは特に関係ない書類仕事をしている。

 ダンジョン配信と仕事、なにがどうなればつながるのだろうか。


「最近法律が変わって、ダンジョン探索についての細かなルールが決まったのは知ってるわよね?」

「ええまあ、ニュースでやってましたね」


 そういえば、そんな法改正があったような気がする。

 今から5年前、突如としてここ日本にダンジョンが現れた。

 日本中の人がこぞってダンジョン探索に乗り出し、ダンジョン探索者は日本中で大ブームとなった。

 だけど、中にはダンジョンが出来たせいで、不幸な事故も起こったりした。

 ダンジョン内での殺人や強奪、事故なんか、いろいろと、法律もまだ整備されていなかったのだ。

 そんな中、いろいろな議論やしがらみを乗り越えて、最近ようやく、ダンジョンに関する細かな法律が整備されたのだ。

 それにともなって、ダンジョンに入れるための資格も取りやすくなった。

 今では高校生でもダンジョン免許をとれるようになったらしい。

 そのおかげもあってか、ダンジョン配信ブームにも火がついている。


「法改正のおかげで、いろいろとルールができたのはいいんだけどね……。なかなか浸透していないのが、社会問題にもなっているのよ」

「まあ、最初はなかなか難しいでしょうね」


 ルールをいきなり決めても、実感がわかないものも多いだろう。

 ダンジョンは一種の異世界で、今までルールも曖昧なまま済まされてきたからな。

 急にルールを守れと言っても、難しい。


「それに、法改正でダンジョン探索者の低年齢化も激しいでしょう? 今じゃ誰でも彼でも簡単に免許のとれる時代。ルールも変わって、現場は今混乱しているのよ……」

「なるほど……で、それと俺がどう関係があるんです? いまだに話が見えませんね」

「あなた。趣味でダンジョン探索者をやってるんですって?」

「ああ……ええ……まあ」


 おかしいな、そんなこと、誰にも話したことなかったのに。

 なんで知ってるんだ……?

 そう、俺の趣味は、一人で黙々とダンジョン探索をすることだった。

 もちろん配信はしていない。

 ただ自分のために、黙々とダンジョンに潜り続けるのが趣味だった。

 まあ、下手の横好きというやつさ。


「そ・こ・で! あなたに白羽の矢が立ったのよ! 杉田くん。あなた、ダンジョン配信をしてちょうだい!」

「はぁ……!?」

「まあ正確には、配信というよりも動画ね。【ダンジョン探索者なり方講座】的なものを作ってほしいのよ」

「はぁ。ダンジョン探索者なり方講座……ですか……」


 たしかに、見本となる動画とかがあったほうが、なにかと初心者のためになりそうだ。

 俺がダンジョンに潜り始めたころは、まだそういう情報とかはなにもなくて、一から手探りでやり始めたものだ。

 だけど、ダンジョン探索者なり方講座みたいな便利なものがあれば、見たかもしれない。

 確かに需要はありそうだな。

 それがきっかけでダンジョン探索者になろうというものもいるだろう。


「って……俺別にダンジョン配信者じゃないんですけど……」

「まあまあ、そこはなんでもいいのよ。とにかく、ダンジョンに多少は詳しい人間が必要だったの。今月中に講座動画を作れっていう、国からのお達しなのよ。だから、これは上司からの絶対命令。うちではダンジョンについて知ってるのなんて、あなたくらいなんだから」

「まあ……わかりましたけど……なんでうちの部署が……」


 うちの部署は、小さな部署だから、あまり人員がいない。

 だから、若くてダンジョンについて知ってるのなんて、まさに俺くらいなのだろう。

 まあ、そういうわけだから、仕方ないな。

 なんでうちの部署がって思うけど……。

 まあ、一応ダンジョン庁だからなぁ……。


「じゃあ、よろしくね。ダンジョン講座の動画、楽しみにしてるからね」

「まあ、ダンジョンにもぐるついでに、なにか適当に作っておきます……。あまり出来には期待しないでくださいね? 俺も別に下手の横好きでダンジョン潜ってるだけなんで」

「まあ、そこはこっちも期待してないから。お役所仕事ってやつ? とにかく国に提出できるものさえできれば、なんでもいいから」

「そうですか……」

「これ、支給されたダンカメ。旧式のやつだから、あまり激しくあつかっちゃだめよ?」

「はい」


 ということで、俺は【ダンジョン探索者なり方講座】なる動画を制作する羽目になってしまった。

 まあ、春日さんにお願いされてしまったら、俺も断れない。

 ここはいっちょそれなりのものを作って、春日さんに褒めてもらうとするか。

 完成したら春日さんに飲みにつれていってもらおうっと。

 

 俺はダンジョンへ一人で潜るのだけが趣味の、さえない男だ。

 いつも仕事とダンジョンとの往復で、一日が終わる。

 下手なりに、これでもダンジョンが出来た初期から潜り続けている。

 俺の潜っているダンジョンはマイナーなところなので、普段他の探索者もほとんどこない。

 だから他の探索者との交流もない。

 当然、俺はクランやパーティーにも入っていない。

 そんな俺に、ダンジョン探索者なり方講座なんていう動画が作れるのか?

 もっと他の奴に頼んだほうがいいんじゃないか?


 だって、俺のダンジョン探索の方法なんか、実践で学んだ、ほぼ独学のものだ。

 それに、俺はインターネットもあまり見ないし、配信者だってわからない。

 こういう動画のセオリーとかもよくわかっていないのだ。

 配信や動画って、あまりよくわからないんだよなぁ……。

 俺、おっさんだし。

 若者がダンジョンでどうやって探索してるのかとかも、よく知らない。

 はぁ……。こんなんでほんとにできるのか?

 

 まあ、なんにせよ文句を言っててもしかたない。

 やるしかないか。


 俺は席を立ち、ダンジョンへと向かうべく、職場をあとにした。

 


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 142: 名無しのダンチューバー

 おい、ニュースみたか?


 143: 名無しのダンチューバー

 みたみた

 めんどうだよな


 144: 名無しのダンチューバー

 なんか国の決まりで、講座動画見ないといけないらしい


 145: 名無しのダンチューバー

 講座動画とかくそめんどうだな

 国の作ったやつとかどうせゴミだろうし


 146: 名無しのダンチューバー

 いまさら講座とかいらねー

 好きにやらせろよ


 147: 名無しのダンチューバー

 国のダンジョン庁のホームページから見ないといけないらしい


 148: 名無しのダンチューバー

 ダンジョン庁ってめっちゃ小さいけど大丈夫かw

 ダンジョン庁にそんな動画つくれる技術ある?


 149: 名無しのダンチューバー

 知らんけど、職員がダンジョン潜るんじゃね?


 150: 名無しのダンチューバー

 どうせゴミみたいなクオリティの動画なんだろうな


 151: 名無しのダンチューバー

 どうせくそ素人がやってるんやろうな

 こんなん見ないほうがましまであるわ


 152: 名無しのダンチューバー

 まあ逆におもろいやんw

 どうせ国の粗末なお役所仕事や

 笑ってやろうぜw


 153: 名無しのダンチューバー

 おいまてダンジョン庁の講座動画やばい


 154: 名無しのダンチューバー

 どんだけゴミなん?w


 155: 名無しのダンチューバー

 いやちがう逆の意味

 すごい動画あがってるんだけど


 156: 名無しのダンチューバー

 え?なに?どうしたん?


 157: 名無しのダンチューバー

 このなり方講座、ヤバすぎてもはや意味不明なんだが

 ちょいURL貼るわ

 h1tp://minerva.douga.dangeoun334rq


 158: 名無しのダンチューバー

 え……なにこれは……


 159: 名無しのダンチューバー

 素手で倒してて草なんよ

 化物かな?




================

【あとがき】


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