第10話 リア充ではない


石砂高校で生活して1週間。


何も心配は無かった。


俺の目なんて大した事無かった。


金髪のギャルやピアスをした同級生や男でもまるで芸能人みたいに金髪やピアスをした者も多く。


逆に大人しい雰囲気の子の方が浮いている感じだった。


こんなに自由なのに石砂高校は『進学校』なのだから驚きだ。


「まだ、慣れないの?」


隣の席から陽子が話しかけてきた。


「まぁね」


「大体、司だって似た様な物じゃない?」


「俺のは!元々、ナチュラルだから違うだろう?ある日突然色が変わったんだから」


かなり自由度の高い高校だから必要ないが、中学の時と同じように眼科の診断書を提出している。


尤も中学の時とは打って変わって担任の緑川先生は『別に必要ないけど、まぁ受け取って置くわ』と実に軽い感じだった。


どうやら此処では中学の時の様に煩わしい事にはならなそうだ。


「司くん、可愛いね、その目見せてよ!」


「あのね、萌子ちゃん、誤解されちゃうからそれ止めなよ!」


「え~別に良いじゃん!司くんだってこんな美少女に見つめられて嬉しいよね?」


「自分で美少女って…まぁ確かに萌子は可愛い方かも知れないけど、周りの目があるから、少し自重して欲しい」


「自重…って事はやめないで良いんだよね?!」


「まぁ、同級生は事情を知っているから、別に良いけどね」


この子の名前は湯浅萌子。


普段は三つ編みで眼鏡をかけているが、偶に三つ編みを解いてウエーブのロングにしてコンタクトにしている時がある。


コンタクトの時の萌子は『美少女バージョン』と…自ら言っている。


確かに可愛いと思うが、陽子と同じ位。


学校一可愛いとか?クラスで1番可愛いと言うわけでは無い。


「私は萌子ちゃんの為を思って言っているんだよ? 司とキスしているなんて噂がたったでしょう…萌子ちゃんだって嫌だろうし司だって困っているじゃない?」


「あらら? 司くん困ってそうに見えないし、司くんは駄目って言ってないんだけど?なんで陽子ちゃんにそんな事言われないといけないの!」


『自重して』とは言ったよな。


ちなみに萌子は俺の事が好きという訳ではない。


いや、好きなのかもしれないが、犬や猫を好きなのと同レベルだ。


何でも昔飼っていた猫と目が似ているから、そんな理由で見つめてくる。


ただ、これをクラス中で萌子が公言しているから、最初の頃と違って、今では冷やかされないし、周りは誰も気にしない。


気にしているのは陽子位のものだ。


尤も最近では、どんどん近づいてきて、今じゃまるでキスが出来るような距離になっている。


少しドキドキしているのは内緒だ。


「司からも何か言いなよ!」


「陽子ちゃんはしつこく言って来るけど、司くんは嫌がって無いじゃない? 別に陽子ちゃんが司くんの彼女じゃないんだよね! それで、何で文句を言ってくる訳?」


「私は幼馴染として…」


「『小さい頃から近くに住んでいた』それだけでしょう?」


「うぬぬっ」


いつものやつだ。


萌子の方が1枚上で大体は陽子が言い負かされて終わる。


美津子の事があったから気をつけて見ていたが、そんな事は無いようだ。


尤も萌子は社交性が高く、俺達以外の友達も多い。


『リア充』みたいでやっかまれないかって?



『そんな事は無い』


石砂高校は、自由度が高く、校則が緩いせいで本物のリア充が沢山いる。


バンドをしている生徒でインディーズバンドだがCDを出している奴やモデルをしている生徒も結構いる。


そして、公立なのに制服が有名デザイナーがデザインした物で可愛い、カッコ良いと評判だから、それを着たいという生徒が殺到。


そのせいかお洒落な学生が多く入学している。


だから、この程度じゃ、リア充には見えない。


此処でなら、俺はきっと『普通に暮らせる』そう思っていた。







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