第25話 大会終了後
「マジで無理……もう動けん」
今回の大食い大会は都内繁華街のとあるレストランで行われていたのだが、大会終了後もそのまま参加者の休憩所として使えるようになっていた。
そのため満腹で動けない柊彩は大会終了後も端の方の一角で振り返り配信を行なっていた。
「いやー、本気で勝ちに行ってたんだけどなぁ」
〈あれは相手が悪かった〉
〈友人のヒーローインタビューはよ〉
〈2位も凄いはずなのに影薄くて草〉
「まあでも頑張ったと思いませんか?」
〈普通にすごかった!〉
〈お疲れ様!〉
〈ちょっと舐めてました、すみません〉
「ねーねー……って、配信中だった?」
背後からひょいと紫安が顔を出す。
〈チャンピオン来た!〉
〈配信で見てました、凄かったです!〉
「そうだけどお前も出るか?なんか人気者になってんぞ」
「そーなの?じゃあ出ようかなー」
そう言って紫安は柊彩の隣に座る。
「じゃあ改めて。俺の友人で今回の大会のチャンピオン、えーっと……ジャンです」
「ヒロくんの友達のジャンでーす」
その場の思いつきで考えた『ジャン』という偽名を名乗り、紫安はカメラに向かってピースを作っている。
「ていうかあんな食べたのに元気そうだな」
柊彩は食べすぎて動けなかったからずっと座っていたというのに、柊彩の倍食べていたはずの紫安はケロッとしている。
「もうだいたい消化は終わったかなー」
〈規格外で草〉
〈配信者やりませんか?〉
「勝手にデビューさせようとするな!てかそんな食うなら普段の飯とか大変だろ」
「それは会社側が出してくれるんだよねー」
「マジで?優良すぎんだろ、その会社」
そこまで面倒見てもらえるほど紫安は優秀なのか、と柊彩は驚きを露わにする。
特に昔はそこまで頭がいいというイメージがあったわけでもないので意外だった。
「まあ適材適所ってやつだよー」
「そんなもんか?」
〈なんかすごい優秀そう〉
〈ヒロあらゆる点で負けてね?〉
「うるせー!俺が勝ってる点もある!……はず」
「そりゃもちろん、ヒロくんは凄いしねー」
〈少なくとも器の大きさでは負けてる〉
「んだと⁉︎」
「みんな面白い人たちだねー」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「なんというか、すごい普通ですね」
二人の配信を見ていた日聖が最初に抱いた感想はそれだった。
特別なことはなにもない、他愛もない話をしているだけ。
初めて柊彩の年相応な一面を見たような気がしていた。
「そうね、あの感じ懐かしいわ。あの二人はまさに『友達』って感じなのよね」
「それはみなさんそうじゃないんですか?すごく仲も良いですし」
「まあもちろんみんな仲間よ?けどあの二人は特にいい意味で普通なの、だから友達って言葉がすごく似合うのよ」
「ねえ、わたしも行きたい!紫安にも会いたい!」
「アイツのことだし連れて帰ってくるでしょ」
時折コメントを拾いつつ、先程の大会の感想を話したり、お互いのことについて話したり。
そんな文字通りの雑談配信が始まって15分ほど経った時のことであった。
『お前ら大人しくしろ!』
突然配信に不穏な怒鳴り声が響いた。
『不穏な動きはするな!全員手を上げて動くんじゃねぇ!』
〈大丈夫か⁉︎〉
〈なんかヤバそうな音と声したぞ〉
〈最近日本中で事件起きまくってるよな〉
〈都内のど真ん中で強盗とか物騒すぎるだろ〉
画面の向こうでなにが起きているのか、詳しい内容まではわからない。
ただドアを蹴破る音や背後から聞こえる悲鳴、そして一発の銃声のおかげで、ただならぬ事態になっていることは容易にわかった。
「奏音、行くわよ!」
「うん!」
ソフィと奏音はすぐさま準備を整え、柊彩の元へ向かおうとしている。
「待ってください、私も行きます!」
「日聖は待ってて!行ったって何もできないし危ないだけよ!」
ソフィの言ってることは正論だった。
日聖には二人のような特異体質も身体能力もない、加えて命を狙われている立場ということを考えると残っていた方がいいに決まっている。
今までなら間違いなく二人に任せ、ここに残っていただろう、だが──
「それでも行きます、行かせてください!」
日聖は引き下がろうとしなかった。
柊彩たちは勇者である前に年相応の少年少女なのだ、先程の柊彩と紫安の配信を見て初めてそのことに気づいた。
その上でなお自分だけ安全な場所に残り、責任全てを押し付けるなんて真似はできなかった。
「私だけ安全なとこにいて、ソフィさんたちだけ危険なところに行くのなんで嫌です」
それを聞いたソフィは面食らったような顔をしていたが、そのあと笑顔になって言った。
「ごめん、アタシが間違ってたわ。日聖はもうアタシたちの仲間だものね」
「……はい!」
ソフィの言葉に日聖は笑って頷く。
「それじゃあ行きましょ!」
「うん!」
「はい!」
日聖たち3人は家を飛び出し、柊彩たちがいる大食い大会の会場へと向かっていった。
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