第22話 カリスマモデル、デビュー

「ということで、今度俺が表紙を務めさせていただいたこちらの雑誌が販売されます!ぜひみなさん買ってください!」


〈ヒロいない方が良かった〉

〈out ヒロ in かにゃ〉

〈ソフィ単体のはないの?〉

〈かにゃはどこ?〉


「お前ら誰の配信見に来てるんだよ!俺の味方一人もいねーぞ!」


 コラボの撮影から10日後、柊彩はこの日より情報解禁ということで早速雑誌の宣伝をしていた。

 そしてここのところ毎日雑談配信を行っているのだが、最近ではチャット欄が柊彩にキツくあたり、それに突っ込むという流れがお決まりになりつつあった。


 そんな緩い雰囲気の配信が続くようになったため、最近では柊彩に迷宮攻略や魔物討伐を求めたり、強さについて議論する人も減ってきた。

 今や柊彩は普通の超人気配信者であり、事務所立ち上げという荒っぽい作戦は成功といえるだろう。


 ちなみに先週の日曜日に二度目の配信を行った奏音は同時接続100万人越えを記録し、コメントの8割が『天使』『かわいい』で埋め尽くされる異様な光景を作り出していた。

 バッドエンドも店の売り上げペースが10倍以上になったと喜んでおり、ある意味でこの二人は柊彩以上の成功を収めている。


 これだけ全員が成功している背景には、最近日本中で不穏な事件が多発していることもあるだろう。

 以前の爆破事件と誘拐未遂をきっかけに、毎日のように各地で物騒な事件が起きたと報道されるようになった。

 そんな暗いニュースが多いからこそ、逆にエンタメを提供し続ける柊彩たちの事務者の人気は鰻登りになっているのだ。


「はぁ、テンション下がったし新しい重大発表あったけど無しにして終わらせようかな」


〈また重大発表?〉

〈まだあんのかよ草〉


「アンタなに終わらせようとしてんのよ!主役はアタシよ、脇役はさっさと退いてちょうだい!」


 そんな大成功中のプロダクションからまた一人、その人気をさらに爆発させる配信者がデビューした。


〈⁉︎〉

〈なんでそうなるんだよ〉

〈毎回重大発表がガチすぎるw〉


 一目見ただけでわかる特徴的なファッションのカリスマモデル、ソフィ・ブリジオンの登場にリスナーが湧き上がる。


「アタシを知らない人もいると思うから自己紹介させてもらうわね。アタシはソフィ・ブリジオン、今日からここで配信者としてデビューする元モデルよ」


 ソフィは日本で知らない人はいないほどのインフルエンサー。

 さすがにチャット欄でも彼女を知る人は多く、なんの前触れもないデビューに騒然としていた。


「配信者としては素人だけど、ファッションとかメイクとか、モデルならではの配信をしていきたいと思うからよろしくね」


 彼女が一躍モデルとして人気を博した一番の理由は、当然その目を引く奇抜なファッションにある。

 だがカリスマモデルはそう簡単になれるものではない。

 ロシアと日本のハーフということもあって、単にソフィは顔もスタイルも良いのだ。

 一言で形容するなら『美しい』あるいは『カッコいい』という言葉が最適だろう。


〈マジで綺麗〉

〈かにゃとのコラボ待ってます!〉


 そのため元々ソフィを知っていた人はもちろん、この配信で初めて知った人たちも続々とその魅力に惹かれて集まり、配信の視聴者数は増加の一方を辿っていた。


「みんな嬉しいコメントもたくさんありがとうね!初めての配信で緊張してたんだけど、みんながいてくれるならやっていけそうだわ」


 柊彩も最初の配信ということで見守っていたが、彼女の言う通りなにも問題はなさそうであった。


 その容姿と普段のモデル活動の影響でクールな高嶺の花という印象を持たれがちだが、実際の彼女はクールとは程遠い。

 むしろかつてはパーティでも一、二を争うほど明るく、今の配信中のようによく喋っていた。

 そんなギャップもさらにリスナーを惹きつける一因となっていた。


〈初めて見ましたがファンになりました!〉

〈最高!!〉


「それじゃあ今日はこの辺にするわ。またね!」


 こうして多くの新規ファンを獲得し、ソフィの初配信は終了した。

 彼女に代わって再び柊彩が画面に映ると、さっきまであんなにいい雰囲気だったチャット欄がふざけだす。


〈ソフィをもっと見せて〉

〈こっち来んな〉

〈返して〉


「お前らあんま酷いと引退するぞ」


 もちろんそれがネタなのはわかっている。

 何よりも相手が悪い、可愛すぎる奏音とカリスマモデルのソフィ、そして柊彩とくれば全体のネタ枠、イジられ役になるのはどう考えても柊彩だ。


 1年前に配信者を始めた時はもっと真面目に迷宮攻略配信者を目指していたのだが、気がつけばそこから随分ずれてしまった。

 次に募集する配信者はネタ枠とまではいかずとも、ある程度イジられる側に回ってくれる人にしようと密かに心の中で誓う。


「とりあえず!今度発売される雑誌とソフィのデビュー、両方よろしくな!それと次回の配信はまだ未定、内容と時間が決まり次第また連絡するから!」


 最近は雑談配信しかしていないが、迷宮攻略以外で何かしろと言われてもなにをすればいいのかわからない。

 いい加減そろそろ考えないとな、と思いつつ配信を終了しようとしたその時だった。


〈今度の大食い大会に出て配信してください!〉

 

 終了間際のそんなコメントが柊彩の目に止まった。

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