第20話 写真撮影

「それじゃあ聖女様は攫ったわけじゃなく、自らの意思でアシスタントをしてて」


「こちらの方、ソフィさんはかつての仲間、勇者様の恋人ではないということですね」


「そ、そうよ!アタシがコイツの恋人だなんて──」


「もういいよ……」


 あれからおよそ1時間。

 ソフィの目を覚ましたり聖たちを追いかけたりと、一人で東奔西走してどうにか誤解を解くことに成功していた。


「それにしても聖女様が外出なんて大丈夫なの?しかも結構な期間でしょ?」


「長期休暇、みたいなものです。世界もようやく平和になりつつありますし」


「なるほどね、確かに聖女様なんてアタシらなんかよりずっと心労も多そうだし、休みがないとやってられないわね」


 ちなみにバッドエンドや奏音に紹介した時と同じく、日聖が命を狙われていることは話していない。

 ただでさえ聖女がいると知っただけであの反応なのだ、もし命を狙われていることまで知れば余計大騒ぎだっただろう。


 一時はどうなるかと思われたが、年も近く性別も同じだからか、日聖とソフィは今ではもうすっかり打ち解けている。

 とりあえず全て丸く収まったことに柊彩は胸を撫で下ろした。


「それなら休暇中にアシスタントなんてしてて良いの?コイツに脅されてるとかじゃない?」


「お前は俺をなんだと思ってるんだ」


「ふふ、そんなことありませんよ。勇者様には日頃お世話になっていますし、せめて私にもできることはしたいと思ったんです」


「うわ、すっごい良い子じゃない。もし乱暴されそうになったらアタシに言ってね」


 もう突っ込む気力も起きなかった。

 二人はそんな柊彩を気にせずしばらく冗談を言って笑い合っていたが、いつしかコラボはどういう形で行うとか、いつ頃を予定するかとか、真面目な話に変わっていた。


 本来は柊彩もそこに参加すべきなのだろうが、日聖に一任していた方が話が早くまとまる。

 しばらく任せるかと思ってふと隣を見ると、奏音は黙々と学校の宿題に取り掛かっていた。


「お、えらいなー」


「えへへ、でしょー!」


 柊彩に褒められて奏音は頬を綻ばせる。

 どうせならこのまま少しかっこいいところも見せてやろう、そう思い柊彩は宿題を覗き込む。


「どれどれ……って、なんだこれ」


 しかしそこには意味のわからない数字や記号がずらりと並んでいた。

 柊彩は一度も学校に通ったことがないためほとんど勉強というものをする機会がなかった、そのためいくら小学生といえど国内トップレベルの内容だとちんぷんかんぷんである。


「すごくむずかしいの、おにいちゃんわかる?」


「……いや、全然」


「私でよければお手伝いしましょうか?」


 柊彩の後ろから日聖がひょい、と顔を出した。

 

「日聖ちゃんできるの?」


「はい、学校の内容でしたら一通りは教えられますよ」


「えー!じゃあね──」


 日聖の指導のもと、奏音が宿題に取り掛かる。


「アンタ、なんもできないじゃん」


「ゔっ」


 ソフィが放った鋭い言葉のナイフが、柊彩の胸に深く突き刺さる。

 事実とはいえこうも色々任せっぱなしになると、さすがに敗北感やら情けなさを感じてしまった。


「ふふ、嘘よ。アンタはそのままでいいわ、それにちょうどこっちに欲しかったのよ」


 ソフィはショックを受ける柊彩を見て笑いつつ、あの短時間でこれでもかというほど書き込まれたノートを開いた。

 

「さっき話したんだけど、最初はコラボとしてウチの撮影にアンタも参加してもらうのが良いってなったの」


「撮影に?俺が?」


「ええ、その方が色々と都合がいいのよ」


 実質個人配信者の柊彩と違い、ソフィは事務所所属のモデル、何かあった時の被害は事務所にまで及んでしまう。

 そのため事故のリスクも高い生配信をするとなると規制がかかったり、万が一に備えてかなりの数の打ち合わせを要して実現まで時間がかかることが予想される。

 ソフィの事務所に配信のノウハウが全くないのもネックである。


 それに比べると撮影ならいくらでもリテイク・編集が可能で、検閲も行われる。

 加えてドゥースシャルルの宣伝もできるため一番良い、という結論がさっき二人の間で出たのだ。


 そんな説明をされてしまえば柊彩も首を縦に振るしかない。


「二人がそういうならわかった。で、撮影はいつなんだ?」


「明日」


「明日⁉︎」


 さすがに冗談だと思っていた。

 いくらなんでも早すぎるだろ、と。


 だが彼女の言葉は本物で、翌日の昼には柊彩はコラボの写真撮影のためにスタジオに来ていた。

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