第355話 ◆追撃の後の先3
望みを打ち砕くような言葉に、御剣は閉口に追い込まれる。
すると、七海はまるで台本でも読んでいるかのようにスラスラと言葉を並べた。
「これまで考えていた麻衣のブランディングだけど、これは一旦白紙に戻そう。確かに、僕と麻衣じゃ立場が違い過ぎる。御剣麻衣の市場価値が上がらなければ、それはただの負債でしかない。婚約を発表すればたちまち七海の株価が下がってしまう。だろう?」
その質問を受け、御剣は答える事を拒否するように七海を
だが、そんな事など気にも留めぬ七海は更に言葉を続ける。
「当初は僕もそう思っていた。でも、
ニコリと笑って言う七海に、御剣は閉口を選び続ける。
(これで……慎重……?)
自身の手首、足首の拘束具を恨めしそうな目で見つめ、呆れながら再び七海を見る御剣。
「婚約、結婚した後に、麻衣の功績を付ければ、多少株価が落ちようとも何の問題もない。
「相乗……効果……?」
思わず零してしまった疑問。
それを聞き、七海は嬉しそうにニタリと笑う。
「ついに、僕の時代が来た、そういう事だよ。麻衣」
微笑みながら御剣に話しかけるも、七海の視線は御剣に向いていなかった。
御剣の瞳に反射する背後の窓。
七海はその窓を正確に捉え、背後から迫る男の接近を把握した。
直後、窓は割れ、甲高い音を発する。
七海はゆっくりと後ろを向き、侵入者に対して言った。
「まったく、月の光を浴びながら語り合うこの大事なひと時。邪魔する無礼な奴は……一体誰かな?」
「……御剣さんを、返してもらいに来ました」
その声を聞き、御剣の表情がパッと明るくなる。
「伊達さん……っ!」
そう、七海建設東京支部の強化ガラスを割り、堂々と侵入して来たのは――【命謳】代表【
七海と対峙した玖命は、すぐさまその背後に座る御剣の様子を見た。
(手足を結束バンドで拘束。怪我は……大した事はないみたいだけど、表情に強いストレスが見受けられる。急いだ方がいいな)
そう判断した玖命は七海を見据え、簡潔に言った。
「七海総一郎……天才派遣所所長、荒神薫の代理としてやって来ました。誘拐と監禁、更には天才特別収容所から脱走した
相手は世界有数の大企業のトップ。
たとえ伊達玖命、荒神薫とて大きくは動けない。
犯罪を犯そうとも、七海総一郎の扱いは慎重にならざるを得ない。
だからこそ、玖命は初手として任意同行に話を向けた。
しかし、日本一の強者を前に、七海の顔が揺らぐ事はなかった。
「断る。今はスケジュールが空いていなくてね。秘書を通じてアポをとってくれたまえ」
蚊や蠅でも追い払うかのような言い方に、玖命の後ろに続いていた鳴神翔が額に青筋を見せる。
「おうおう、アポがどうとか小難しい事言ってる場合じゃねーんだよっ!」
続き、山井拓人が言う。
「お主、今どういう立場かわかっておるのか?」
ぎらつく四つの目も軽くかわし、七海はその後ろにいた川奈ららを見る。
「これはこれは川奈のご令嬢。本来であれば歓待の食事でもしたいところですが、今晩はもう夜も深い。また日を改めていらっしゃってください」
まるで、話しかける相手を選んだような物言いに、遂に鳴神の怒りが頂点に達する。
「人の話聞けやごらぼけぇええええええええええええええっ!!!」
七海に殴りかかろうとする鳴神を、必死で止める山井、水谷、川奈。
「待たんか、後輩っ!」
「翔さん、すてい! すていですっ!」
「まだ玖命クンが話してるんだしさ、ねっ!?」
そんな三人を前に、七海はくすりと笑ってから言う。
「兵の躾がなってないな、【魔王】伊達玖命……?」
「……翔は兵ではありません。仲間です」
「そんな事はどうでもいい。今重要な事は、日本を代表するクラン【
「――七海さん」
軽口を叩く七海の言葉を、玖命はぴしゃりと止めた。
「話をはぐらかさないで頂きたい。我々が超法規的な措置としてここへ来ている事……わからない訳ではないでしょう?」
「ほぅ? では、どうするというのだね、この私を?」
堂々と言う七海を前に、玖命は大きく溜め息を吐く。
「もし、ご同行願えないのであれば、強引に派遣所まで連れて行く事になるでしょう……!」
玖命の天恵【威嚇】が発動するも、七海の表情は些かも揺るがない。玖命はそれを不審に思うも、
それを見て、ニヤリと笑う七海。
「ははははは、まったく。困ったものだね、麻衣?」
話を振るも、御剣は七海と視線を合わす事すらない。
「私を……ここから……帰して……!」
ただ拒絶を言葉にし、七海を否定。
そして玖命に言うのだ。
「お願い……助けて……!」
玖命が【
「面白い、やってみるといい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます