第353話 ◆追撃の後の先1
「ヒヒヒ、何? ここが仮住まい? 随分良いところじゃない?」
品川にある七海建設の東京支部を見上げ、
「何言ってるんすか、僕と八神さんはこの後、課長のところっすよ」
【将校】
それを受け、飯田がビクつく。
(いや、こわっ。【
「なーんだ……てっきりここで玖命君を迎え撃つのかと思ってたよ……ヒ、ヒヒヒヒ」
「残りたいっつーなら課長に伝えておきますけど?」
「うーん……まぁ、やめておくかな……」
「……へぇ~」
「ん~? 何かな? 飯田君?」
「てっきり
「そうだねぇ……今でも良い勝負にはなると思うんだけど、多分飯田君後ろにいてもちょっと厳しいと思うんだよね~……ヒヒヒ」
「それは冷静な分析っすね」
「でしょう? 流石に僕も負け戦はしたくないしさ? ここは、修行編を挟もうかなって」
「何すか、修行編って?」
「ま、ある程度の答えはカチョーが持ってるでしょ。そこのゴミ、早く受け渡して行こっか」
言いながら、八神は気を失った御剣を指差す。
「ゴミ……ですか。ま、奴らも時として僕たちをゴミ呼ばわりしますからね~」
肩を
すると、黒装束の男が担ぐ御剣に近づく男の影。
コツコツと響く革靴の音に、八神が険しい表情をする。
「やぁ、よくやってくれた」
そんな言葉で六人の【はぐれ】を迎えたのは、七海建設代表取締役社長――
五人の視線をかわし、御剣麻衣を見やる七海。
「かわろう。僕が運ぶよ」
ニコリと笑って男から御剣を受け取る七海だが、飯田はその背に声をかけた。
「契約はこれにて完了。って事でいいんすかねぇ?」
「お前たちはな。そこの四人は付いて来てもらおう」
そう言って、七海は御剣を抱えたまま、奥へと消えて行く。
黒装束の集団もその後に続き、消えて行く。
残された飯田がそこでようやく八神の表情に気付く。
「うわ、こわ! 何すか、その顔?!」
より一層険しくなっていた八神の表情に驚く飯田。
「………………あの男、誰?」
「七海っすよ、七海総一郎。天武会の【はぐれ】の品評会で、高額の契約金を用意したって噂の七海建設の社長。有名だと思うんすけどね……?」
呆れ混じりに言う飯田だったが、八神はその説明にイマイチ納得していない様子である。
「……あいつ、天才なの?」
その言葉に飯田が首を傾げる。
「いや、七海総一郎は一般人っすよ。天恵が発現したって噂も聞かないっすよ?」
その話を聞き、八神は七海が消え去った闇をじーっと見ながら言った。
「なるほどねぇ、ついにそういうところまで来ちゃったって事ね……ヒ、ヒヒヒヒ」
嬉しそうに言う八神にドン引きする飯田。
「だけど……あれは臭いな。臭い臭い……」
「い、いや、意味わかんないんすけど?」
「臭っただろう? あいつの口」
「……口?」
「毒を食らい、ゴキブリのように這って、尚も毒を
ブツブツと呟き続ける八神に、飯田は言葉を失う。
そして、逃げるように八神に背を向けたのだ。
「そ、それじゃあ八神さん、ポイントC-26で集合なんで、僕は先に行ってるっすね……」
そう言って跳躍する飯田。
(ヤバイ奴には近寄らないが吉っすね。課長に言って別行動にしてもらわなく――んっ!?)
瞬間、飯田は背後に異変を感じる。
飯田の真後ろにピタリと付いて走って来たのは――八神右京。
「いや、付いて来なくていいっすよ!」
拒否の姿勢を見せる飯田に八神が言う。
「飯田君♪」
「気持ち悪っ!」
「いつ【元帥】になるんだいっ?」
「はぁ!? そんなのいつになるかわからないっすよ!」
「大丈夫大丈夫、追い込めばすぐに【元帥】になれるから♪」
「その口調気持ち悪いっすから!」
「ヒヒヒヒ、君の値打ちなんてそれくらいしかないんだから」
「そんな事は百も承知っすよ! だから楽出来るんすから!」
「ヒヒヒヒ、いいね。自分の
「それ、誉め言葉じゃないっすからね?」
「生意気言ってると、殺しちゃうよ?」
「やれるもんならご勝手に! 僕っていう損失を知った
「ヒ、ヒハハハハッ! いいね、飯田君。僕、そういうちゃんとわかってる人、大好きだよ!」
「僕はアンタが嫌いっす! 帰ったら絶対に別行動にしてもらうっすから!」
言い合いながら、駆けながら、飯田と八神は東京の闇に消えて行く。
その数分後、いつぞや鳴神翔と玖命が遠目に御剣を発見した廃ビルの屋上に、再び玖命が現れる。
その直後、鳴神翔が……少し遅れて水谷結莉と
「ららちん、ジャンプ! ジャンプじゃ!」
「とうっ!」
そして最後に騒がしい二人が。
玖命は、その五人の仲間を背後に置き、強い意思をもって言った。
「これより、御剣さんを取り戻します」
「カカカカッ! 大戦争だな、こいつぁ!」
「ほっほっほ! あの小坊主を後悔させてやらねばな!」
「玖命クン、怒ってるなぁ~。アハハハッ、まぁ当然か! よーし、やるぞ~!」
「伊達さん、後ろは私にお任せくださいっ! ふん! ふん!」
「情報のとりまとめは私がするから、戦闘員はしっかり頑張っておいで!」
山井、鳴神、水谷、川奈、そして
「……状況開始……!」
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