第334話 Bar派遣所3

「越田さん、殺気……出てますよ」


 言いながら俺は立ち上がり、カップが置いてあるところへ向かった。


「おっと、私とした事が、失礼しました」


 言いながら、越田さんは笑顔を作って御剣さんに言った。


「い、いえ……だ、大丈夫です……はい」


 御剣さんはそう言うしかないだろうに。

 相変わらず狡猾な人である。


「お茶とコーヒー、紅茶もありますけど、どれにします?」

「こういう時は、そうだね。お茶を頂こうか」


 越田さん自身も気づいていない。

 普段であれば、多少は俺の動きに気を回すだろう。

 ポーズであろうとも、自分が茶を淹れるとでも言うだろう。

 しかし、彼は冷静さを保つためにそうは言わなかった。

 だからこそ不安だ。相手は天才至上主義国家。

 パラティア共和国を相手に、俺たちが出来る事は何か。

 昨日から俺はそれをずっと自問し続けている。


「御剣さんも、お茶でいいですか?」

「あ、て、手伝いますっ」

「大丈夫なので座っててください」


 このやり取りを見て、ようやく越田さんが気付く。


「あ、あぁすまない。伊達殿に任せてしまって……」

「大丈夫ですよ。こんな時なので」


 そう言うと、越田さんは毒気を抜かれたように大きく溜息を吐いた。


「ふっ、片や殺気剥き出しの天才と、片や冷静沈着な天才……か。私もまだまだという事だね。これが日本を代表するクランの代表か……やはり伊達殿は凄い」

「何言ってるんですか。越田さん、また強くなったでしょう?」


 事実、【天武会】の時よりも強くなっている。

 おそらく、陰で相当な訓練を積んでいるに違いない。


「粉骨砕身の努力はしているつもりだけど、伊達殿の前では何を言っても空虚なものなのかもね。あ、御剣殿」

「え、はい? 何でしょう?」

「こういったやり取りはある意味数字がとれるんじゃないでしょうか? 【命謳】伊達と【大いなる鐘】越田の対談。いかがです?」

「と、とても良いと思いますっ!」


 いつもの越田さんが戻ってきた。これなら話を先に進められるだろう。

 俺は、淹れたお茶をトレイに載せ、二人の前に差し出した。

 二人は会釈してそれを受け取り、俺もまた自分の席へと戻った。


「御剣さん」


 そして俺は、最初に御剣さんに話を振ったのだ。


「はい」

「記者として、最近のパラティア共和国についての情報というのは入ってきていますか? 勿論、話せる範囲で構いません」

「そうですね……何しろ日本においてアンタッチャブルな国というのが通説ですし、安易に記者がパラティア共和国の話題や記事、特集なんかを組めば、絶対に上からNGがきます。業界を干されるなんて話も聞きますね」

「KWN堂では?」


 そう聞くと、御剣さんは首を横に振った。


「残念ながら許可が下りないでしょう。以前、ある天才の特集を組んだ際、その天才からパラティア共和国の名前が出ましたが、記事の中には組み込めませんでした」

「ククク、天下のKWNカウンさえも気を遣う国家……まぁ、おおよそ予想通りではありますか」


 確かに、日本全体が忖度する国。

 それがパラティア共和国というものだ。

 しかし、御剣さんの話には続きがあったのだ。


「あ、でも――」

「……え?」


 御剣さんは俺たちの前に自身のパソコンを置き、とあるHPホームページを見せてくれた。

 俺と越田さんはそれを覗き込み、雑な作りのHPの表題を読み上げる。


「パラティア……」

「……インフォメーション?」


 まるで小学生がパソコンの授業で作ったかのような簡易的なHP。

 更新頻度も不定期で、来場者カウンターは十万にも満たない。

 というか、来場者カウンターなんて久しぶりに見たな……。

                                            

「これは……」


 越田さんが反応に困るのもわかる。

 俺だってどう反応していいかわからないからだ。

 おそらく企業ではなく個人のHPだろうけど……。


「三年前くらいにちょっとだけ話題になったHPなんですけど、ご存じありませんか?」

「「三年前……?」」


 俺と越田さんは顔を見合わせる。

 すると、俺より早く越田さんがハッとした様子で言った。


「もしや、【パラティアの日常】っ?」

「その通りです」


 越田さんのワードを聞き、俺もそれを思い出す。


「あー、ありましたね、そんなの」


 当時、俺は自分の天恵と向き合うのに時間を要し、他国に関する情報収集がおろそかだった。

 俺が天才国家に行きつき、これに気付いた時には、既に話題は別の事柄に移っていた。

 ――【パラティアの日常】。

 情報拡散としてはプロパガンダしかしないパラティア共和国。

 個人や企業がパラティア共和国から情報を持ち帰る事は至難のわざ

 そんな中起こった大事件。

 ネット上に複数枚の写真が投稿された。

 それが【パラティアの日常】と題された写真だった。

 写真には、グレードの高い装備に身を包んだ天才たちが道路を闊歩、、し、それらをあがめ、平伏する一般人とおぼしき人々。

 胸倉を掴まれ迫害を受ける一般人。

 剣を突きつけられる一般人など、様々な構図の写真が撮られていた。


「もしかしてその発信源が……」

「そうです、このパラティアインフォメーションです」


 なるほど、日本の中で、独自にパラティア共和国を調べていた人間がいたって事か。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆ 後書き ◇◆◇◆◇◆◇◆


WEB雑誌【COMICユニコーン】発!


コミカライズ版『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』第一巻の発売日となりました。


漫画:はやさかめばゑ

原作:壱弐参


皆様、是非手に取って読んで頂ければ幸いです。


下記、特典情報です。


◆電子書籍特典画像

背中合わせの伊達兄弟に加え、デフォルトイラストの水谷と相田さん。


◆書店共通(紙媒体)特典ペーパー

⇒コミック一巻では登場しなかった【川奈らら】ちゃん。


◆メロンブックス特典ペーパー

⇒エネルギーチャージする【相田好】さん。


◆書泉・芳林堂書店特典ペーパー

⇒一巻では大活躍の【水谷結莉】くん。


◆ブックファースト新宿店特典ペーパー

⇒八南高校の制服姿の【伊達命】ちゃん。


サンプル画像を見られるので下記、COMICユニコーン公式HPのリンクをご参考くださいまし。

⇒https://unicorn.comic-ryu.jp/blog/tensaihakenjo01/


では、また6時にお会いしましょう٩( ᐛ )( ᐖ )۶

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る