side A age:8
今日は私の8歳の誕生日。婚約者と初めての顔合わせのために謁見の間で待っているところです。
先月、隣国で王子が生まれ、その姉である私の一つ年下の隣国王女の婚約者選定が始まりました。昨今の情勢的に隣国王族と縁続きになるのは良くないと判断している我が国は、隣国から婚約を打診される前に王子である私の婚約者を決める必要ができました。
国王である父上は幼くして婚約者を決めてしまうのは良く無いと最後まで反対していたそうです。父上は心配してますが、私は婚約予定のメルヴィ嬢の絵姿を見た時に琥珀のようなオレンジの瞳に惹かれ、昨晩は彼女に会えると思うとワクワクして中々眠ることができませんでした。
「あら、アガパンサス?可愛いわね」
私が持つ紫のアガパンサスの花束に気付いた母上が褒めてくれます。
「アガパンサスには“愛の始まり”という花言葉があると本にあったので、庭師に言って用意してもらいました」
そんな私の言葉を聞いた父上がびっくりした顔をし、気持ちを確かめてくれます。
「こんなに早く勝手に婚約者を決められて不満ではないのか?」
「私は仲良くなりたいと期待する気持ちでいっぱいです。でもそんなに心配されると、もしかしたらメルヴィ嬢は不満に思ってるかもしれないと不安になります」
そう答えながらしゅんとして見せると父上は慌てます。
「すまない。仲良くしたいと思いやる気持ちがあるならきっとメルヴィ嬢と仲良くなれる。お前は私よりもずっと器の大きい男なのだな」
そう言って父上は暖かくて大きな手で頭を撫でてくれました。昨年、祖父上が病で亡くなったことで国王に即位した父上は、即位したばかりのために忙しいらしく、日々政務に追われています。最近は疲れた表情が多かった父上が柔らかく笑うところを久しぶりに見ました。
そこへ護衛から婚約者のメルヴィ嬢が到着したと声がかかりました。ふわふわと波打つ茶色い髪にオレンジ色の瞳をした可愛らしい女の子が父親に手を引かれ謁見の間に入ってきます。反対の手には白いアガパンサスの花束。淡い水色のドレスは私の目の色を意識してくれたのでしょうか。そうだったらいいな。
「お誕生日おめでとうございます!」
「メルヴィ、花束は預かるわ。先にカーテシーをしましょうね」
勇み足で元気よくお祝いの言葉をかけてくれたメルヴィ嬢ですが、侯爵夫人に窘められカーテシーを披露してくれました。たくさん練習したのだとわかる綺麗なカーテシー。母親に注意された事が恥ずかしいのか真っ赤な顔をしていますが、それがとても愛らしいです。
そんなメルヴィ嬢は私が手に持つ紫色のアガパンサスの花束を見て目を丸くしています。オレンジ味の飴玉のような大きな瞳が美味しそう、思わずそんなありえないことを考えてしまいました。
「これは婚約のお礼に」
「私はお誕生日プレゼントに」
白いアガパンサスは私の手に、紫のアガパンサスはメルヴィ嬢の手に渡り、私たちは自然と笑い合いました。
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