花みたいな君を壊して僕は

鮎川伸元

Amaryllis belladonna

 暗くて誰もいない廊下には、微かに茜色の陽の光が差し込んでいる。そんな微かな光でも私は眩しいと感じ、目を細めてしまう。コツコツと自分の靴と床がぶつかる音しか聞こえないこの空間のせいか、私は廊下の窓に映った自分の姿だけが目に入って辟易する。自分のナニカが醜くて、立ち止まってキッと自分を睨む。

「このワタシでもあの子は.............いや、やめろ。考えるな.............」

自分を睨み終わった後、私は自分の憎たらしい視線を自分の手元へ向けた。手に持っているものが、陽の光を反射して鈍い光を放っている。自分は本当にこれでいいのか、もっといい選択肢はないのだろうか、自分のことなのにはっきりしなくて、けれども、これは私だけの答えだから、私がそうしたいなら、それで私が幸に.............。もう自分はまともではなくなっていたのかもしれない。


 わからない。これでいいのか.............これで幸せなのか。


 もう今ここにあるのは、醜い独占欲と嫉妬心だけだ。


 自分が引きずっている過去の思いが、鎖のように巻き付いてきて、気持ち悪い。


 どれだけ自分が歪んでいても、どれだけ矛盾を孕んでいても、これでいい。自分は真っ黒には染まってはいない。でも、このままじゃ嫌なんだ、ダメなんだ。


 気持ちが晴れたわけじゃないけど、もう止まらない。私はまた、誰もいない廊下を歩き始めた。


 廊下の突き当り、目的の教室に辿り着くと、そっと扉に手をかける。スーッと息を吸って、私は扉を開けた。


 風が私の、僕の、顔を撫でる。教室のカーテンが生きているかのようになびく、

ワタシはそっと、息を吐いた。


 茜色に染まりゆく教室の中、一人佇む女の子、風に流れる明るい髪の毛。


 私は、自分が手にしているものをその女の子に差し出した。



      「ありがとう、ずっと一緒だよ」

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