第38話 私は殿下が好きなのでしょうか?

夜会に参加してから早2ヶ月半。相変わらず殿下は、毎日我が家にやって来て、他愛のない話しをして帰っていく。そして毎日必ず、私へのプレゼントを持ってきてくれるのだ。殿下は本当に記憶力が良く、昔私が何気なく話した事を覚えてくれていて


“これ、昔リリアーナが欲しがっていたでしょう?”


そう言って渡してくれるのだ。あの後自分の部屋を整理していたら、殿下から昔もらったプレゼントが沢山出て来た。どれも私好みのものばかりで、あの頃から殿下は、私を気に掛けていてくれていたのだろう。と、今更ながら気が付いた。


私はずっと、殿下に冷遇されていたと思い込んでいた。でも、実はあの頃から、大切にされていたのかもしれない。


ただ…


それでも殿下から受けた仕打ちを思い出すと、どうしてもまだ、殿下と再び婚約を結び直したいとは思えない。我ながら、相当根に持つタイプかつ、頑固な様だ。お母様やお父様からもやんわりと


“そろそろ殿下を許してあげてはどうだい?魅了魔法が解けてから、もう1年経つし。リリアーナが苦しんだ1年を、同じように殿下も苦しんだと思うんだ”


なんて言ってくるのだ。確かに魅了魔法が解けてから、1年になろうとしている。ただ…私と同じ期間傷ついたから、もういいでしょう?だなんて事は、どうしても思えないのだ。


ふと窓の外を見る。そう言えば、そろそろ殿下がいらっしゃる頃ね。て、別に私は殿下なんてまっていないし、来てもらわなくてもいいのに…


さあ、読書でもしましょう。


先日ルミナに借りた恋愛小説を読む。ただ、やはり時計が気になるのだ。


あら?もうそろそろ殿下が来るはずなのに、遅いわね。一体どうしたのかしら?おかしい、いつもならとっくにいらしている頃なのに。どうしていらっしゃらないのかしら?


「お嬢様、今日は殿下、まだいらっしゃいませんね。もしかしたら、お忙しいのかもしれませんね」


「べ…別に私は、殿下何て待っていないわ。来ないならその方がいいわよ。ほら、私、殿下の顔を見ると、胸が苦しくなるでしょう?今日はラッキーな日ね」


私ったら、何を言っているのかしら?自分で言っておきながら、なんだか恥ずかしくなってきた。ソフィーも、苦笑いしているし…


結局その日、何度も外を見たが、王家の馬車が我が家に来ることはなかった。そしてその次の日も、また次の日も、殿下は来ない。


「最近殿下、いらっしゃらないわね。もしかして、リリアーナがあまりにも頑固だから、愛想をつかしたのかしら?」


お母様が顎に手を当てて、失礼な事を呟いている。


「きっとお忙しいのですわ。あの人は仮にも王太子なのですから。それよりも今までが来すぎだったのです。これを機に、我が家に来るのを控えて下さると嬉しいですわ」


「あら、その割にはずっと窓の外を見ているじゃない。それに最近のリリアーナ、機嫌が悪いし。やっぱりあなただって、殿下の事を…」


「私は天気を確認しているだけです!それから、私はいつもこんな感じですわ。本当にお母様は、失礼なのだから!」


お母様に文句を言って、自室に戻ってきた。お母様ったら、誰が殿下を待っているものですか!


でも…もうすぐ殿下がいらっしゃらなくなって、2週間が経とうとしている。本当に私に愛想をつかしてしまったのかしら?いっその事、お父様に聞いてみようかしら?でも、お父様に殿下の事を聞いたら、変な勘違いを起こしそうだし…


この2週間、考える事と言えば、殿下の事ばかりだ。その時だった。


「お嬢様、殿下がお見えになられました」


「それは本当?すぐに行くわ」


急いで殿下のいる客間へと向かった。


「殿下、お久しぶりです。今日はどういったご用件で?」


「リリアーナ、最近来られなくてごめんね。ちょっと立て込んでいて。でも、やっと全て片付いたから、今日からは今まで通り、毎日通うから、安心して欲しい」


「わ…私は別に来ていただかなくても結構ですわ。むしろ平和に暮らせるので、来ていただかない方がいいくらいです」


「そうかもしれないけれど、僕がリリアーナに会いたいんだ。はいこれ、実は魔法大国と言われている国に行っていてね。お土産だよ。この人形は、持ち主を災いから守ってくれるんだって」


そう言うと、可愛らしい人形を手渡してくれた。


「まあ、魔法大国に行っていらしたのですね。全然知りませんでしたわ。でも、なぜそのような国に」


「マルティや伯爵の件があっただろう?だから万が一、また魅了魔法に掛かった人がいたら、迅速に解けるように、色々と勉強に行ってきたんだよ。やはりある程度の知識は、必要だろうからってね。分厚い魔法書も頂けたよ。あの国の人たちは、本当に親切な人たちばかりだった。ただ、やはり魔法は危険だからね。魔法書も王宮で厳重に管理する事になったよ」


「あの…殿下、その様な機密情報を、私の様な者に話してもよろしいのですか?」


私はただの公爵令嬢だ。婚約者でもない私に、その様な事を話してはいけないだろう。


「2週間も会いに来られなかったから、リリアーナが心配しているのではないかと思ってね。それになぜ僕が公爵家に来られなかったのか、しっかりと説明しておきたかったんだよ」


そう言って少し恥ずかしそうに笑っている。


「別に私は、心配などしておりませんでしたわ!ただ…急にどうされたのだろうと…その…気にはなっておりましたが…」


決して私は、殿下を待っていた訳ではない!


「気にしてくれていたのだね。嬉しいよ。それじゃあ今日はもう帰るね。また明日、話をしよう」


そう言うと、そのまま部屋から出て行った殿下。


えっ?もう帰ってしまうの?無意識に殿下に付いて、門のところまで来てしまった。これではまるで、私が殿下から離れたくないみたいじゃない。


「リリアーナがお見送りしてくれるなんて、嬉しいな。ありがとう」


「私は別に…ただ、長旅からお疲れでしょうから、どうか今日はゆっくり休んでください」


「ああ、ありがとう。それじゃあ」


殿下が急いで馬車に乗り込んでいった。窓を開けて、こちらに手を振ってくれている。私も手を振り返してしまった。


なぜだろう、殿下の姿が遠ざかるたびに、胸が苦しくなる。私、もしかして…

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