第26話 お節介を焼いてしまいました
殿下の腕を掴んで馬車から降りると、すぐに医師を手配してもらい、処置を受けてもらう。
「殿下、どうしてこんな酷い状態になるまで、放置されたのですか?とにかく、しばらくは剣を握る事はもちろん、あまり手を使わないで下さい。騎士団員でも、ここまで酷くなることはありませんよ。一体何をしたら、こんな事になるのですか?」
医師にも怒られていた。やっぱりひどいわよね。その傷…
「殿下、どうか先生の言う事を聞いて下さい。そもそも、もっと早く治療を受けていれば、ここまで酷くならなかったのですよ。そうですわ、先生。殿下の顔色があまり良くなくて。こちらも見て頂けますか?」
ついでなので、顔色の悪い殿下の診察も依頼した。
「こちらの件は何度か診察させていただいております。栄養価の高いドリンク等は処方させていただいておりますが、本来は睡眠と栄養を取っていただく事が一番なのですが…」
既に処方されていたのね。やっぱり睡眠と栄養が一番か。
「殿下、とにかく睡眠と栄養をしっかりとる様にお願いします」
「わかったよ。それじゃあ、早速晩御飯にしよう。公爵家には連絡を入れておくから。いいだろう?リリアーナ」
「いえ、私は帰り…」
「さあ、行こうか」
私の手を取り、歩き出した殿下。包帯グルグル巻きの手、なんだか痛々しいわね。て、だから私は夕食は頂かずに帰るつもりだったのに!
「あの殿下…」
「まあ、リリアーナちゃん!」
嬉しそうに私の元にやって来たのは、王妃様だ
「王妃様、お久しぶりです。殿下がお怪我をしていらしたので、医者に見せるために王宮に入らせていただいただけです。それでは私はこれで」
そう言ってその場を立ち去ろうとしたのだが…
「待って、リリアーナちゃん。せっかくだから晩御飯を食べて行って」
「母上もこう言っているし、さあ、行こう」
再び殿下に捕まり、そのまま食堂へと向かった。すると既に陛下もいらしていた。
「リリアーナ嬢、よく来てくれたな。さあ、座ってくれ」
嬉しそうに私を椅子に座らせる陛下。
懐かしいわ、よくここで王妃様と陛下と食事をしたわよね。王妃様と陛下は、いつも私を気にかけて下さって…
「リリアーナ嬢、本当に息子がすまなかった。随分と元気そうでよかったよ」
「よく昔はリリアーナちゃんとこうやって食事をしたわね。またあなたと食事が出来るだなんて、嬉しいわ」
「はい、よく陛下と王妃様と3人で食事をしておりましたね。お2人とも私を気にかけて下さっていて。懐かしいですわ」
「リリアーナ、本当にすまない…せっかく君と食事が出来るタイミングに、僕は一体何をしていたのだろう…悔やんでも悔やみきれないが、それでも僕は今日、君と食事が出来た事、嬉しく思うよ。さあ、リリアーナ、沢山食べてくれ。君はチーズが好きだったね。このチーズの生ハム巻き、美味しいよ。たくさん食べて」
「ありがとうございます。私の事はいいので、どうか殿下の方こそ、沢山食べて下さい。こちらのお肉、柔らかくて美味しいですわ。て、手を怪我していらっしゃるのでしたわね。殿下が食べやすい様に、すぐにカットしてくださるかしら?」
近くにいた使用人に、殿下のステーキをカットしてもらう様に依頼した。
「ありがとう、リリアーナは優しいね。リリアーナと一緒に食事をしていると、なんだか食欲がわいてくるよ。リリアーナ、今日は一緒に食事をしてくれてありがとう」
「私は別に…それに今日はたまたまですわ。もうこの様に王宮で食事をする事はありませんから」
そう、今日は成り行きで食事をしただけだ!もう二度と、王宮で食事をするつもりはない。そう伝えたのだが、殿下はもちろん、王妃様や陛下まで悲しそうな顔をしている。ちょっと、皆そんな悲しそうな顔をしないでよ。
何となく気まずい空気が流れる。
「そう言えばリリアーナちゃんは、積極的に夜会に参加しているのよね。たくさんの殿方に誘われていると聞いたわ。リリアーナちゃんは優しくて素敵な令嬢だもの。リリアーナちゃんと婚約したい殿方は多いわよね」
そんな中、王妃様がすかさず話題を変えて来た。
「有難い事に、沢山の殿方が気を使って下さっておりますわ。本当はもう結婚は…と考えていた時期もありましたが、従姉妹のルミナの婚約披露パーティに参加した時、ルミナの幸せそうな顔を見て、私も私だけを愛してくださる殿方と、いずれ結婚出来たらと考えておりまして。それで今、積極的に夜会に参加しておりますの」
ですから私の事は、もう諦めて下さい!という意味を込めて伝えたのだが…
「何だって?僕が王宮に籠っている間に、まさかリリアーナが他の令息たちに詰め寄られていただなんて…確かにリリアーナの言う通り、僕は思考回路が停止してしまっていたのかもしれない。とにかくこれからは、僕も夜会に参加しないと!」
「それじゃあ、早速王宮主催の夜会を開催しましょう。リリアーナちゃんも参加してくれるわよね?」
「…ええ、是非…」
なぜだろう。どんどん望まない方向に話しが進んでいる様な気が…
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