第11話 僕の大切な子、リリアーナ~アレホ視点~
「殿下、おかえりなさいませ。ずいぶん遅かったですね。それでリリアーナ様は…」
「彼女には直接会って謝罪する事は出来た。でも、僕とはもう話をしたくない様で、触れたら振り払われてしまったよ。当然と言えば当然だけれどね…」
僕はその場で頭を抱え、ソファに倒れ込む様に座った。そして今までの事を思い出す。
初めてリリアーナに会ったのは、僕たちが5歳の時だった。元々親同士が仲良しという事もあり、この日は夫人に連れられて初めてリリアーナが王宮に遊びに来たのだ。
銀色の美しい髪、透き通った真っ白な肌、大きくてクリクリした青色の瞳。まるで妖精の様な、とても可愛らしい女の子だった。僕は彼女を見た瞬間、一目で恋に落ちた。さらにリリアーナはとても人懐っこくて、僕に笑顔で色々と話しかけてくれた。
リリアーナの笑顔を見るだけで、僕の鼓動は一気に早くなり、顔が赤くなるのを感じた。ダメだ…リリアーナが可愛すぎる。僕はリリアーナのあまりの美しさに緊張してしまい、思う様に話すことが出来なかった。
それでもリリアーナは、王宮に遊びに来るたびに、嬉しそうに僕に話しかけてきてくれた。それが嬉しくてたまらなかった。もっとリリアーナの事が知りたくて、リリアーナの事をノートにまとめた。どんな些細な事でも、リリアーナの事は全て記していたのだ。
そのノートが増えていくたびに、なんだかリリアーナの事を僕が一番知っている気がして、嬉しかった。でも、やはり僕は、リリアーナの前に出ると緊張してしまい、上手く話せない。
それでも僕は、結婚するなら絶対にリリアーナがいい!リリアーナ以外の人と結婚なんて考えられない。もし万が一、リリアーナが他の令息に取られたら…そう思うと、夜も眠れない程、気が気ではなかった。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、何と公爵の方から、リリアーナと僕を婚約させたいと言ってくれたのだ。元々両親も、リリアーナと僕を結婚させたかった様で、その後はとんとん拍子で話が進んでいった。そして僕たちが10歳の時、正式に婚約した。
僕はこの日の事を、鮮明に覚えている。たくさんの貴族が見守る中、王宮で盛大に婚約披露パーティをしたのだ。幸せそうに微笑むリリアーナの顔を見た時、本当に幸せだった。必ず彼女を幸せにしよう、この笑顔を守ろう、そう心に決めた。
ただ…
相変わらず僕はリリアーナの前では、なぜか自分をうまく出せないのだ。ついそっけない態度を取っては、酷く後悔する日々。
このままだとリリアーナに愛想を付かされてしまう。どうしよう…
そんな日々を送っていたある日、ずっと領地で暮らしていたというガレイズ伯爵家のマルティ嬢が、初めて王宮のお茶会にやって来たのだ。
桃色の髪の彼女は、なぜか僕にベタベタくっ付いてきて、上目使いで見つめてくる。正直不快以外何物でもなかった。さらに僕に王宮の中庭を案内して欲しいと言い出したのだ。
やんわりと断りを入れたのだが、強引な彼女に無理やり腕を引っ張られ、中庭の奥へと連れて行かれた。こんなところを、万が一リリアーナに見られたら…ただでさえ僕はリリアーナの前ではうまく話せず、印象が良くない。もし他の令嬢と2人でいるところを見られたら、今度こそ愛想をつかされるかもしれない。
僕は誰よりもリリアーナを愛しているのだ!そんな事になっては大変だ。
「悪いが僕はもう戻るよ。僕には心から愛するリリアーナがいるからね」
そう伝え、来た道を引き返そうとした時だった。急にマルティ嬢が、呪文を唱え始めたのだ。これはもしかして…しまった!そう思った時には、僕はもう彼女の虜になっていた。
その日から僕は、マルティが愛おしくてたまらなくなった。それと同時に、婚約者でもあるリリアーナを酷く憎む様になった。マルティがリリアーナに酷い事をされたと聞けば、彼女に酷く抗議した。
リリアーナは泣きながら必死に
「私は何もしていません。本当です!信じて下さい」
そう訴えていたが、僕の可愛いマルティが嘘を付く訳がない。そう思い込み、リリアーナに暴言を吐き続けた。日に日にリリアーナに対する憎しみが募っていく。自分でもびっくりする程感情が抑えられず、リリアーナにつらく当たった。彼女が悲しそうな顔をすると、なぜかすっきりするのだ。
次第に彼女は、僕と目も合わさないし話しかけても来なくなった。そして、どんどんやつれていったのだ。いっその事、このままリリアーナがいなくなってくれたら…
そんな風に考える事もあった。
そう、この頃の僕は、完全にマルティの魅了魔法に掛かっていたのだ。
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