第337話 予知夢
ソフィアを部屋に呼び、俺はルクセンから聞いた事を話す。
「ソフィア。これは令嬢達の耳には入れないでほしいんだけど、まずは聞いて欲しいんだ」
「はい」
俺の声のトーンにソフィアが身構える。そして俺はゆっくりと話をした。
「まだ確定情報というわけでは無いんだけどね。どうやら東スルデン神国とアルカナ共和国が、足並みをそろえて軍を動かしたらしいんだよ」
「えっ…」
「だからと言って、直ぐにこちら何かあるという訳でもないと思うんだけど、ひとまずこの研修をすぐに切り上げて、王都に戻らなくちゃいけなくなったんだ」
「はい」
「万が一があるからね、無事に令嬢達を帰すためにマグノリアのヒッポを使おうと思うんだよ」
「なるほどでございます」
「ただ一度に輸送できる人数は限られているからね、何度かに分けて連れてくことになる。だからまずは、ソフィアが第一陣で行ってもらうかなって思ってる」
「いえ。聖女様。私は最後にしてくださいまし」
「私的には、いち早く帰ってもらいたいんだけど」
「そう言う訳には参りません」
「……わかった。ならそうしよう」
やっぱりソフィアならそう言うと思った。まあまだ隣国が軍事行動をとっているわけでは無いので、取り越し苦労かもしれないけど、本来なら公爵令嬢を一番に帰すべきなんだが。
「情報が漏れてもまずいので、研修の中断をみんなになんと伝えたらいいだろう?」
「確かにそうですね。確定事項でもありませんし、令嬢達を動揺させてしまっても良くありません。では中断するのではなく、残りの研修を王都でやる事に変更したという事にいたしましょう。パルダーシュと王都の比較をするためにも、あちらで流通や一般市民の暮らしを見る。そう言う事にすればよろしいのではないでしょうか?」
「流石ソフィア。それで行こう」
「はい」
話はまとまった。後は明日の朝、これを発表してピッポの馬車で送り返してやろう。
だが、ソフィアが不安そうな表情になって言う。
「もしや…邪神ではありませんか?」
「それは私達も疑ってる。仕留め切れてなかったからね、もしかしたら暗躍している可能性がある」
「また…」
「あの時、確かに力を削いだはず。それほど強大な力は無いと思う」
「だから、隣国の軍部を動かしたのではありませんか?」
「そうかもしれない」
「怖れながら、ズーラント帝国の裏でも暗躍していたのではと思っております」
「えっ…そうかも。今思えばおかしいよね」
「元の友好国である、アルカナ共和国が寝返った理由もわかりませんし、東スルデン神国に関しては帝国の動向を見て諦めたはず。それなのにその二か国が足並みをそろえるなど、何かが暗躍しているとしか思えません」
「ソフィアはそうだと思ってるんだ?」
するとソフィアは深くため息をついて言う。
「実は…不穏な事が起きる前兆の夢を見たのです」
「いつ?」
「昨日にございます」
「あ、もしかして例の?」
「はい」
確か予知夢だったか。賢者曰く、その力は本来、聖女が持っている力らしいんだよな。
「どんな?」
「それはシーノーブルが、厄災に巻き込まれるような夢でございました。ですが、皆で立ち向かうような不可思議な夢にございます」
「……なるほど。ちょっとまってて」
「はい」
俺は呼び鈴をならした。するとミリィが入って来る。
「夜にゴメンね。アンナとリンクシルとマグノリアを呼んで」
「はい」
少しすると、三人を連れてくる。そしてアンナが聞いて来た。
「動くのか?」
「そう。悪いんだけど、マグノリアとリンクシルはヒッポに乗ってシーファーレンを連れて来てくれない?」
「賢者様を?」
「そう。私が呼んでいると、そして予知夢についての話だと言って」
「わかりました」
「そして聖女邸に行って、ヒッポの馬車を持って来て」
するとマグノリアがぺこりと頭を下げて言った。
「では直ぐに発ちます。リンクシル様、準備はよろしいですか?」
「うちはすぐ行ける!」
「では!」
そう言って二人は急いで出て行った。夜間飛行になってしまうが、夜の方が目立たず安全だろう。俺はすぐに聖女邸の皆を呼び寄せる。
アンナ、ミリィ、スティーリア、ヴァイオレット、アデルナ、ルイプイ、ジョーイ、マロエ、アグマリナの九人を呼んで、速やかに事を運ぶように指示を出した。もちろんルクセンが公にしていないので、こちらはこちらで動く為だ。
ソフィアが言う。
「私の言葉で、これほどまで迅速に動かれるのですか?」
「ソフィアの言葉を聞いたら、直ぐに手を打たなければならない気になったんだよね。めちゃくちゃ危機感を覚えたって言うか、その予知夢とやらは、ただの夢では無いような気がしたんだ」
「はい」
「とにかくシーファーレンを呼んで話がしたい。上手くいけば夜明けまでにはマグノリア達は戻って来る。そうしたら話し合いをして、令嬢を王都に運ぶ算段をたてよう」
「はい」
ルクセンはまだ不確定の情報だと言っていた。しかし俺はこのソフィアの予知夢に関して、なぜか確信めいたものを感じてしまうのだった。ソフィアがその夢を信じて両親を逃がした事で、トリアングルムでの事に繋がった。このタイミングでソフィアがその夢を見たという事は、確実に何かが起きる前兆だと思ったのだ。
「ミリィ。念のため私の装備を用意して」
「はい」
そうしてミリィは俺の魔法の杖と、魔導のマントを用意する。
「ネメシスだとしたら、いつ侵入してくるか分からないからね。しばらくは臨戦態勢でいる事にするよ。いざとなったら第二騎士団もたたき起こさなきゃならないかもね」
「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」
全員が気を引き締めた。
いつも突然それは起きる。今までもそうだった。
せっかく楽しい楽しい令嬢達との研修に水を差され、憤慨しながらもソフィアの予知夢について考え込むのだった。
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