第330話 シーノーブル騎士団の勧誘会議
その日の夜、皆が風呂に入った後で俺はルクセンを呼びだした。ヴィレスタンの教会に話を通したので、いよいよシーノーブル騎士団のメンバー募集をすることになるからだ。朱の獅子も同席しており、ソフィアとウェステート、マロエとアグマリナも席についている。後ろにはアンナとリンクシルとヴァイオレットが立っており、その様子を見学する事になっていた。
「女が騎士を目指すものですかな?」
「ええ。シーノーブル騎士団は女で構成しますから、なんとしても集めます」
「前例がないだけに、集めるのも骨が折れそうですじゃ」
わかってるよジジイ。
「ですので、報酬を前面に出します」
「なるほど。では、当家から市中に通達を出すとするのじゃ」
「あとはギルドと連携を取ります」
「ギルドと?」
「シーノーブル騎士団には、ギルドの仕事も受けても良いという規範がありますし、騎士の戒律などもありませんので、もしかすると冒険者の女性で受けてもいいという人が来るかもしれません」
「なるほどですじゃ。確かに、その方が来るかもしれませんな」
「だと思います」
「じゃがギルドとなると、領主の出る幕では無い」
「そこはご安心を。特級がいます」
俺が言うとアンナがぺこりと頭を下げる。
「確かに。ならばそちらはお任せしますのじゃ」
「はい。ですので入団希望者は、こちらの屋敷に来るようにしますがよろしいですか?」
「構わんですじゃ。使用人に受付もさせるのじゃ」
そこで俺は、朱の獅子とマロエとアグマリナにいう。
「助かります。では朱の獅子とマロエとアグマリナが、こちらで受付をするということで」
「わかりました」
「「はい」」
「あとは、うちの文官が細かいルールや書面を用意してますので、それを見て進めてください」
俺が言うと、ヴァイオレットがぺこりと頭を下げた。
「しかし面白い試みですな」
「そうです」
「なぜそう考えたのです?」
「聖女邸は男子禁制なのですが、周りに男性の騎士がうろついているのです。また今後、女性の取り調べや女性しか入れない所の検めは、女性がやった方が良いと考えております」
女子トイレに男が入り込まれたら嫌だからな。
「わかりました。そう考えると、必要な場面が想像できますのじゃ。確かに男では出来ない仕事があるでしょうな」
「そう言う事ですよ。例えば女の人の旅路を男だけで護衛するという事になったら、盗賊や魔獣より怖いかもしれません」
「じゃから、女は一人では旅をせんのじゃ」
「これからは、女性だけでの旅も出来るようにします」
「了解ですじゃ。ぜひお手伝いさせていただくのじゃ」
まずは物分かりの良い爺さんで良かった。話を通したのでとりあえず、今日の所の話は終わり。辺境伯邸で受付をしてもらう事になれば、変な事件なども起こらないだろう。
ソフィアが話をまとめる。
「では、本日はこれで終わります。皆様一日お疲れ様でございました」
そこで皆が席を立ち、それぞれの部屋に戻っていく。
そしてウェステートが聞いて来る。
「あの、本日の就寝はどうなされますか?」
うーむ。手を出せないとなると、悶々とした気持ちだけが残るんだよなあ。出来れば、ソフィアと一対一でベッドに入りたいが、そうすればウェステートがのけ者にされたと思ってしまう。それを考えると、俺が一緒に眠らない方が良いような気もする。
そんな事を考えながら、ソフィアをちらっと見る。
…そして俺が言った。
「きょ、今日も一緒に寝よう!」
「はい!」
ウェステートは嬉しそうだ。ソフィアもニッコリと笑っている。俺は急いで部屋に帰ってミリィに言う。
「今日もソフィア達と寝る」
「では準備を」
ミリィは俺の服を脱がし、全身に良い匂いの乳液を塗る。髪を撒いて軽く化粧をし、そしてシルクの寝間着を着せた。
「では、行って来る!」
「おやすみなさいませ」
速攻でウェステートの部屋に行くと、ソフィアとウェステートが話をしていた。
良し…今日こそは爪痕残すぞ。何でもいいからやるんだ! 俺はやるぞ!
「ではお休みしましょう!」
ウェステートが言い、俺達三人は昨日と同じようにベッドに潜る。
ああ…温かい。二人の体温がめっちゃ伝わって来る…。なんだか…めちゃくちゃ心地いい…。
あれ? そう言えば…俺、昨日一睡もしてなかったっけなあ…。
「聖女様。シーノーブル騎士団の件、上手く進みそうですね」
「ほんと…良かったよ…」
「明日の研修はギルドでございますね?」
「そう…」
すると今度は、ウェステートが話しかけて来る。
「研修が終わった後は、責任をもって当家で管理します」
「お願いね…。でも誰かに引き継ぐようにしてね…」
「はい!」
今日は二人はまだ起きてくれていた。さっきの会議に混ざれた事が嬉しかったのかも知れない。
…起きてくれてるんだ。何か…話さなきゃ…なにか…。
そして俺は…寝てしまうのだった。
……………………
「はっ!」
目を覚ますと朝になっていた。気づけは俺の両脇にソフィアもウェステートも居ない。
ちっくしょっぉぉぉぉ!
速攻で寝て記憶がねえ! 二人がせっかく起きてくれてたのに!
慌てて自分の部屋に行くと、ミリィが声をかけて来る。
「本日は、ごゆっくりお休みになられたようで安心しました。目の下のクマが消えているようです」
ごゆっくり?
「急がなきゃ」
「本日は、お休みになられてもよろしいのでは?」
「いや! ギルドに行く約束したから」
どうやら俺は寝坊したらしい。直ぐに身だしなみを整えて、一階に降りていくと既に皆が準備を終えている。俺を見かけてソフィアが声をかけて来た。
「聖女様。おはようございます」
「起こしてくれれば良かったのに」
「申し訳ございません。気持ちよさそうに眠られていらっしゃいましたので、起こすのは気が引けてしまって」
「ゴメンねー。疲れてたみたいで」
「いえ。聖女様が一番気を張られていましたので、丁度良かったと思います」
優しいなあ。
「じゃあ、行こうか」
「朝食はよろしいのですか?」
「皆が準備をしてくれているのに、悠長に朝ごはんなんか食べてられない」
「しかし…」
「いいのいいの! 行こう!」
そして俺達は、貴族令嬢たちを連れてギルドへと出発するのだった。
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