第310話 聖女特権乱用をはじめました

 ソフィアの友達でもある、マロエとアグマリナに再び市民権を与えるため俺はめっちゃ考えた。じゃないと大手を振って、ソフィアをここに呼ぶ事が出来ない。こっそり会わせても良いのだが、それじゃあ身分差がありすぎてマロエとアグマリナが可哀想だ。


 早速、俺はそれを最高権力者に直に認めさせるために、ルクスエリムに書状を出した。


 ー緊急事案の為、急遽面会を要請するー


 トリアングルム国の事件がまだ温かいうちに、聖女権力を使って畳みかけようという魂胆である。もちろんマロエとアグマリナが、今までどこにいたんだという話になるだろう。


 うるせえって感じ。


 そして案の定、緊急案件なんていう書状を出したもんだから、次の日の早朝に王宮から迎えが来る。俺はマロエとアグマリナとダリアに、シーファーレンの変装ペンダントをつけさせた。アンナとリンクシルを護衛につけて颯爽と聖女邸の正門を出ると、なんと近衛団長バレンティアが直々に来ていた。


 おえっ! 無駄に爽やかに笑顔を振りまくな! マロエとアグマリナがほげーっと見とれてるだろが! くそが! この子らは大事なうちの子だ! まだだけど! とにかく早くしろ!


 まあ…俺が緊急案件なんて書状を出したからだけど。


「聖女様。火急の件という事で私が派遣されました」


「これはバレンティア卿。ご機嫌麗しゅう」


「まずは馬車へ!」


 そうして俺達五人が外に出てみると…。


 めっちゃいるんだけど。騎士。


 百名近い近衛兵団がぞろりとそろって跪いていた。だがこれでいい。だって緊急案件なんだから!


 いろんな用事を差し置いてバレンティアが時間を割いてくれたというが、お前は俺の為に働け!


 王宮では直ぐに謁見の間へと通された。緊急という事で、ルクスエリムと家族と宰相のザウガイン、そして総務大臣のペールしかいなかった。


「陛下! お忙しい所、お時間を頂き誠にありがとうございます」


「聖女の急ぎごとじゃ。何をおいても優先するべきであろう」


「ありがとうございます」


「して、何事かのう?」


「はい! 先の邪神ネメシスの事件の件に絡んだものでございます!」


「なんじゃと!」


「邪神ネメシスは人間の心の隙に忍び込み、堕落させて意のままに操る事は御存じですね?」


「分かっておる」


 よし。なら話は早い。


「もちろん、それは人間側につけ入れられる隙があったからでございます。信心深い女神フォルトゥーナの信者であれば、そのような事はありませんでした。ですからそれ相応の罰が必要で御座います」


「そのとおりだ」


「ですが…」


「ん?」


「その中心人物の周辺に居た者は、それほどに罪深きものでしょうか?」


 すると王と家族、宰相と総務大臣が静かになる。俺が何を言わんとしているのが、検討が付いていないのだろう。


「す、すまぬが聖女よ。分かりやすく言ってもらえるじゃろうか?」


「ありがとうございます」


 そして俺は変装したマロエとアグマリナとダリアを立たせる。


「こちらの者にございます」


 皆がポカンとしている。


「だ、誰じゃったかな?」


「その前にビクトレナ王女にもお尋ねしたい」


「なんでございましょう! 聖女様!」


 突然声をかけられて嬉しそうだ。可愛い。


「王女は、お友達が居なくなってお寂しくはございませんか!」


 するとコクリと頷いた。


「はい。ソフィアとも会えず、マロエとアグマリナは行方不明になりました。身分の違いもあり、子爵の娘ミステルとも会えておりません」


 それを聞いた王妃のブエナが言う。


「そうなのです聖女様。兄もあのようになりましたし、最近この子はふさぎ込んでしまって…新しい友達も出来ずにいるのですわ。ようやくソフィア嬢が戻ってきたのですが、なかなかにお忙しいようで会えてませんのよ」


 そうでしょう、そうでしょう。


「存じ上げております。そこで私は姫にご友人を返してあげたいと思うのです」


「えっ?」


 ルクスエリムがポカンとしている。


「それは…どういう?」


 俺は脇に並んだ三人に対して言う。


「ペンダントをお取りなさい」


 三人がするりとペンダントを外すと、変装が解けてマロエとアグマリナとダリアの顔が現れた。するとビクトレナが大きな声で叫ぶ。


「マロエ! アグマリナ! 無事だったのね!」


 二人は深々と頭を下げ、ダリアも真似るようにして頭を下げた。


 おじさん達が驚いている。


「な、なんと…伯爵家の娘達ではないか…」


 そして宰相のザウガインと総務大臣のペールが騒ぐ。


「ざ、罪人の娘ですぞ!」

「罰を与えねばなりません!」


 そう来ると思った。ルクスエリムも示しがつかないと思ったのか、何も言う事はない。だが俺はそこで強気で出る。


「私、フラル・エルチ・バナギア。女神フォルトゥーナからの神託に基づき、この三名を聖女の養女といたします。神託につき反論御無用、全ての人々に認めていただきます!」


 神託は嘘だけど。


「し、神託ですと…」


 ザウガインがポカンとする。


「そうです! この二人の信心深さを御存じないのですか!」


 知る由もないと思うけど…。


「そ、それは…そうなのですかな?」


「ええ! そして女神はこうも言いました。マロエ、アグマリナ、ダリアを養子とし、一生涯大切にするようにと。この三人が私の養子となる事で、この国に大きな福音をもたらすでしょう。そのように告げられたのです」


「い、いつ告げられたのです?」


「昨日!」


「な、なんと。それは緊急事案でございましたな。ようやく理解しました」


 頭でっかちのザウガインを丸めこんだ。もらった。


「宰相はやはり飲み込みがお早い。いかがでしょう皆様! 三人を私の養子として迎える事に異議がございますでしょうか!」


 するとルクスエリムもペールも首を振る。


「神託に物申せるような人間はおるまい。これまでの事を考えても、それらは間違いなく必要な事であろう」


 だよね。だって俺、すっごい事いっぱいやってきたもん。何でも神託って言ったら通るに決まってるって、知ってる。


「では! この後! 直ぐに教皇に話を通しに参ります!」


「う、うむ!」


「マロエ、アグマリナ。ビクトレナ王女と挨拶を」


「「は、はい!」」


 するとビクトレナが走って降りて来た。


「マロエェ! アグマリナァ!」


「「姫様ー」」


 抱き合って泣いている。


 よしよし。これでまた会えるようになるぞ。この事はきっとソフィアにも聞こえていくだろう。聖女権限をフルに活用して、最高権力に認めさせたのだから、貴族の誰にも文句は言わせねえぜ。


 そして俺は直ぐに王宮を後にし、三人を連れて教会へと急ぐのだった。

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