第304話 過去最大のお出迎え
ヒストリア王都の正門前には、バレンティア率いる近衛騎士団が待ち構えていた。馬が一直線に走り込んできて、俺達が乗る馬車の脇についた。窓から覗くのは、これでもかってくらいイケメンのバレンティアだった。嫌と言うほど整った顔で、きらりと笑う。
「これは聖女様。よくぞご無事で! ここからは我が近衛騎士団が護衛をいたします」
別にいいよ。こんなに騎士がいっぱいいるんだし。って言う訳にもいかず。
「ごきげんよう。バレンティア卿、お出迎えありがとうございます」
「本来であれば、我々近衛が国境へと迎えに行きたいところでした」
馬鹿じゃね? 近衛が王都の護衛をほったらかして出て来れるわけねえだろ。
「そのお気持ちだけいただいておきましょう。それでは先導をお願いいたします」
「は!」
バレンティアが大きな声で前方に叫ぶ。
「聖女様が戻られた! 皆! 喜べ!」
うおおおおおおおおおおおおおお!
物凄い雄叫びのような歓声が上がる。騎士達がガンガンと剣と盾をぶつけて、俺の帰りを祝福してくれていた。
うるせえけど。
めっちゃラッパなってるし、めっちゃくちゃウザい。うるさくてソフィアやシーファーレンの声がかき消される。そして今度は、馬車のドアがノックされる。
「はい」
「ドモクレーにございます」
うっざ。こいつ仕事は出来るけど、キモいんだよな。脂っぽいし。
「これは伯爵、お久しぶりです」
「陛下の命により、凱旋用の馬車をあつらえております。恐れ入りますがお乗り換えをお願いいたします」
えー。もう疲れてるんだけどなあ…。
「この馬車で…」
俺が言おうとすると、シーファーレンが俺の手に手を重ねて首を振る。
「ここは従いましょう」
「わ、わかった」
そして愛しいソフィアがいる馬車から降ろされ、俺はアンナと共に凱旋用の馬車に向かう。
えっ…。
その馬車は、めっちゃくちゃ豪華絢爛に飾り付けられており、金ぴか仕様になっていた。それはそれは派手派手で、どう考えても教会関係者が乗るような代物ではない。
「これに…乗るの?」
ドモクレーがニコニコと笑って言う。
「は! 最高の職人を集めて作らせました。聖女様の功績に相応しい馬車にございます」
…やっぱコイツはキモい。なんか知らんが、俺の為に尽くしまくるのが生きがいのようだ。
「は、はは。では…」
俺とアンナが乗り込むと、左にフォルティス団長、右にバレンティアが伴走するらしく馬が並んだ。俺が乗り込むと、ピィィィィィ! と笛が鳴り響き、ゆっくりと車列がすすみ始める。正門の日陰に入り、再び明るい日の元へ出た時だった。
うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!
大喝采が上がる。市民達が沿道や建物の上から祝福の声を上げているのだ。紙吹雪が舞い、俺達の馬車と第一騎士団と近衛騎士団、その後ろからトリアングルム王国の馬車列がついて来る。
聖女就任式よりも、帝国戦の凱旋よりも、更に盛大な式典になっているようだ。
俺は隣のアンナに言う。
「これ…トリアングルムに対してのアピールだよね」
「見栄だろうな。ここで国が元気である事を、トリアングルムの兵士達に見せつけるのが狙いだろう」
「私は、そのお飾りって訳か」
「って事でもないだろう? 実際、自分の力でトリアングルム連合国を引き連れてきたわけだからな。こんな偉業を成し遂げられる奴が、他にいるなら見てみたいところだ」
「そんな大したことはしてないんだけどなあ」
だってソフィアを助けに行っただけなんだもん。
進んでいくと合唱が起こる。
聖女! 聖女! 聖女! 聖女! 聖女!
「うわあ…」
するとアンナが苦笑いして言う。
「手ぐらい振ってやれ」
仕方がないので俺が手を振ると、更に大きな歓声に包まれる。
「そんな事よりもさ。聖女邸の皆と早く会いたいな。ミリィ達元気かな? ソフィアと一緒にパーティーもしたい」
「まあ…我慢だろう。おそらくは他のパーティーが先だ」
おえっ! そうだよね! 王城で凱旋パーティーあるよね! ぐぅぅぅぅ!
アンナに言われるまで、考えないようにしていた。聖女就任式でも帝国戦のあともあったもんなあ。
王城が見えて近づいて行くほどに、俺の気持ちはブルー…いや、ダークブルーに染まっていく。だがアンナがまた笑ながら言う。
「ほら。暗い顔して俯いてるから、周りの騎士達が睨んでるぞ」
「あ…」
俺は顔を引きつらせて笑ながら、歓迎してくれる市民達に手を振り続ける。するとようやく王城の門が見えて来て、俺達の馬車は城に入っていくのだった。市民達の目が無くなった事で、俺は瞬時にげっそりとした顔をしてしまう。
しかし、そうも言っていられなかった。視線の先には…
ルクスエリム・ドーラ・ヒストル王と、ダルバロス元帥、ザウガイン宰相、教皇の四人が、屈託のない満面の笑みを浮かべて俺に手を振っている。そして俺はアンナに聞いた。
「あの笑みのどれが本当だと思う?」
「多分、全部嘘」
「だよねえ…」
馬車が停められて、バレンティアとフォルティスが跪いている前に足を降ろす。もう俺が手を取らない事を知っているので、どっちも俺に手を差し伸べてこない。
少しは学習したようだな…。
そんな事はどうでもいい。
俺はいそいそと四人の前に向かい、深々とお辞儀をして言う。
「ただいま戻りました。皆様には多大な心配をおかけして…」
「コホン!」
ルクスエリムが咳ばらいをするので顔をあげた。
小さい声で言う。
「それは…今はよい。とにかく騎士や従者が皆見ている。皆に手を振ってくれるか」
「はい」
そして俺が手を振ると盛大な拍手が起こり、そのままパーティー会場へと案内されていくのだった。正直な所、ネメシスと戦い長旅をしてへとへとだ。早く聖女邸に戻って、みんなで風呂に入りたーい!
だが、目の前の地獄の扉…。いや、パーティー会場の扉が左右に開かれるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます