第284話 王家に関する情報
ボロ屋に戻って、さっそく俺は父親に聞いた。
「王宮は昔からあのような感じですか?」
「いえ。三国が一緒になったばかりの頃はそうでもありませんでした。ですが、王位継承などについて、王子達に不満が出ているようでございます」
あー、確かに。仲は良くなさそうだった。
「もしかしたらそれぞれが王位を狙っている?」
「そう思います。その不和が周りに影響し、それが薬師などにも降りてきまして」
「クビになったと」
「はい。ですが娘がそのまま継続になりまして」
「それもクビになった…」
「ええ。でも娘にとっては良かったのです! 会うたびに元気がなくなり、どんどん顔色が悪くなっておりましたから」
「そうなんですね。という事はその影響は薬師だけにあらず?」
「そう言う事です。王宮内はかなり、ちぐはぐになっているかと」
「外交に強いのは誰なんです?」
「第一王子の、ジュリアン様かと」
つうことは、マルレーン家を呼び寄せたのは第一王子かな?
「であれば、第一王子が順当に継ぐのでは?」
「それが…微妙なのです」
「微妙?」
「陛下と第一王子が不仲であると聞き及んでおります」
ややこしい。
「王様が第一王子を嫌ってる?」
「はい。ですから違う子を王に任命するのではと、嘘か誠か囁かれております」
なるほどね。この国はこの国で、軽く問題を抱えていると言う訳か。何処の国も、王族ってのはいろいろと厄介なもんだ。
「お姫様はいないのかな?」
「男だけです。女の子には恵まれなかったようです」
「そうなんですね」
「ですから、陛下は娘を欲しがっているようでした」
「えっ? そうなんですか?」
「はい。王子の誰かが早く結婚すればいいと思っているようです」
やっべ。王様からしてそんな感じか。そんなところにソフィアが来たら一発じゃねえか。
「なるほどです。その兆しはあるのですか?」
「すみません。わしはだいぶ前に追い出されましたのでな、そこまでは分からんのです」
「そうですか」
「はい」
「王子の中で一番、話の分かりそうな人は誰ですかね? 第一王子?」
「どうでしょう。第一王子は下々の者に見向きもしません」
「じゃあ第二王子」
「いえ。彼は豪傑ですが、あまり雑事には関心がないようです」
「なるほど…」
だと三男が一番、話を聞いてもらえそうな奴って訳だ。あのセクハラパワハラ野郎が…。
それからいろいろと聞き出そうと思ったが、父親はそれ以上の事は言わなかった。知っていても言わないのか、元々知らないのかは分からないが、あまり詳しい事を話すと不敬にあたると思っているのかもしれない。
「ありがとうございました」
「いえ。お役に立てましたかな」
「良い話を聞けました。それでは夜も遅いのでこのあたりで失礼をいたします」
「はい! 素晴らしき御方にお会い出来て非常に感動しております」
「くれぐれも内密に。あと地場を清めましたので、作物が良く育つようになると思います。分量などを調節してみてください」
「わかりました。ありがとうございます。このご恩は必ずお返しいたします!」
「いえ。いりません、それは娘さんの幸せの為に取っておいてください」
「ありがたき幸せ」
そしてメリーは父親と少し話をし、まもなくあばら家を後にするのだった。父親は元気になり、見えなくなるまで手を振り続けた。
するとメリーが深々と頭を下げる。
「ありがとうございました! なんとお礼をしたら」
「お礼は仕事で。確か使用人と仲が良いって言ってたね」
「仲がいいかどうかはあれですが、王宮内の下の物はある程度繋がっております」
「それならいい。まずは帰って準備をしよう」
「はい」
王族に不協和音が出て、下の物に厳しくあたっているとしたら、その心の隙間に入り込むのは容易いかもしれない。邪神ネメシスが入り込む前に、俺が王宮内の使用人に入り込んで掌握してしまえばいい。
そして再び城壁の小窓から侵入し、アンナが上を飛び越えて来た。そっと裏道を通って薬師棟にたどり着くと、小さなランプが灯っているのが分かる。シーファーレンが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ」
「ただいま。何かあった?」
「またカイト王子が来ておりましたわ。寝ていると言ったら帰りましたが、見つかるといけないので出迎えに来ました」
「ありがとう!」
俺達はすぐに部屋に戻り、みんなを集めて王族の情報を話した。それを聞いたネル爺が言う。
「不穏ですな」
「そう」
「邪神が忍び寄ってきているかもしれぬというのに」
「恐らく、その浮足立ってるところで、兵士達の数を減らそうとしたんだね」
「という事は…王宮内の事情に精通している人間が、情報を流しているという事かもしれません」
…かもしれない。ヒストリア王国でも内通者は居た。
「というか…もう近くまで来ている可能性がある?」
すると皆が沈黙する。流石に夜更けにそんな怖い話をするもんじゃない。
「いや。まずは忘れよう。だが内通者には気をつけないといけない」
そんな話をしているとメリーが手を上げて聞いて来る。
「あのー」
「どうぞ」
「一体なにが近づいているというのですか?」
俺は周りを見て、シーファーレンが結界を張っているのを確認する。
「ある御伽噺を知っているかな?」
「御伽噺?」
それから俺は、女神フォルトゥーナと敵対する、邪神ネメシスについての話をしてやる。するとメリーは、聞いた事があるかもしれないと言った。
「ですが、あれは神話のお話です」
「それがね。実際の話かもしれないんだ」
「そうなのですか?」
「もちろんこれも他言無用。さっきも言ったけど、邪神が既に近寄ってきているか入り込んでいる可能性もある。城の中でその事を話すのは絶対にやめた方が良い」
「わかりました」
そう考えると…、ソフィアを呼びつけた奴が一番怪しい気がする。それを知らずに、ソフィアはマルレーン家を連れてここに向かっているのかも。
「みんな。かなり慎重に動かないとだめだね。ゼリスのネズミ頼りになるかもしれないけど、とにかく怪しい人は片っ端から洗い出して行こう」
「「「「「はい!」」」」」
「じゃあメリー。一番安全そうな人から接触してみたいと思う。誰が良いかな?」
「メイドさんなら」
「ならば、メイドさんに接触する準備をするよ」
「はい」
俺はシーファーレンに目配せをして、魔道具の調整をしてもらうように促した。とにかくソフィアが到着するまでに、なんとか片をつけたいところだが、相手が相手だけに慎重にならざるを得ない。
「そして、第一王子の顔を見ておきたいな」
「では、使用人を通じて、来客などがある日を押さえておきます」
「お願いメリー。あなたの人脈に頼るけど、嫌だったりしたら言って」
「なにを! 父の命の恩人に対して、嫌な事などありません。むしろ命を賭しても、お役にたってごらんにいれます!」
「あの、声が大きいね」
「あ…すみません」
俺の打算的な行動により、メリーは俺の言う事を聞いてくれるようになった。まあ彼女だって、危険な目にあわせるわけにはいかないが、現状動いてもらわねばにっちもさっちも行かない。その為にも、綿密な計画をもとに動く必要があるのだった。
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