第282話 正体をこっそり明かしてみた

 話し合った結果、この王城になんとか味方を探した方が良いという結論に至った。本来の俺の目的からすれば、ソフィアに粉をかけようとしている王子を阻止しようと思っていただけ。だが、状況から推測するに、邪神の影響が見受けられるのだ。俺はいろいろと情報を差し引いた結果、ソフィアに厄災が降りかかるのを阻止する事に決めた。


 だがそこで問題が浮き彫りになる。


「あの王子たちじゃ話にならない、だけど上層部に話を通さなきゃマズいだろうね」


「探りを入れるにも、ねずみちゃんたちでは…」


 シーファーレンが言いかけると、ゼリスがぺこりと頭を下げる。


「ごめんなさい」


「ゼリスちゃんが悪い訳じゃないわ。やはり直接会って、目を見て説き伏せないとどうしようもないのよ」


「ひとまず。メリールーを頼って、繋がりを聞きだすしかないな」


「そのようですわね」


 朝になり薬剤を作る為に調剤場に行くと、既にメリールーが火を起こして材料を並べ準備を終わらせていた。めっちゃくちゃ真面目で健気なんだが、こんなに良い子に対してカイトはパワハラを働いている。


 うん、げんこつだ。


「おはようございます!」


「おはよう! もう準備してくれていたんだ」


「私など何もお役に立ちませんので、人より早く起きて仕事をしなくては」


 少し観察していたが、彼女に怪しい所は無かった。そこで俺達は彼女に協力を仰ぐ事にしたのである。


「ちょっとだけ話がしたいんだ。私と来て」


「は、はい」


 俺とアンナがメリールーを連れて、俺の部屋へと上がっていく。そして俺はまず、彼女の素性を聞く事にした。


「なんて呼べばいいかな?」


「家族はメリーと呼びます」


「私達もメリーでいい?」


「はい」


「メリーはトリアングルム連合国の出身かな? 統合前の一つの小国ですが、今は統合されましたのでそうです」


「なるほど。お父さんは何をしている人?」


「父も薬師です。母は…物心ついたころにはもう…」


「ごめんね。そんなことを聞くつもりじゃなかったんだけど」


「いえ、いいんです」


「それであなたも薬師に?」


「父親が元々、王宮付の薬師でした。その手伝いをしているうちに、薬の事を覚えてそのまま繰り上げで」


「お父さんは?」


「病気で床に伏せっております」


「そうか…」


 不憫な子だ。


「お父さんはどこに?」


「自宅にいます。だからここに来るのは嫌でしたが、仕事があるのはありがたいのです」


 俺とアンナは顔を見合わせて頷く。そして俺がメリーに言った。


「あなたは王城内に知り合いはいる?」


「はい」


「どんな?」


「厨房の窯焚き婆や、庭師の爺、あとはこっそり薬を渡したメイドの子とかです」


 なるほどね。子供の頃から出入りしているから、使用人たちと顔見知りって言う訳だ。なんでそんな子を無下に解雇なんかしちゃうかね。


「あなたを信じて言うのだけど、実はね」


「はい」


「この国に厄災が忍び寄りつつあるんだ」


「は?」


 めちゃくちゃキョトンとした顔をされる。地味な子だが、よく見れば愛嬌がある顔立ちだ。だがいきなりな俺の話に、理解が追い付かないらしい。


「私達は隣国から来た事は知ってるよね」


「はい」


「隣国で起きた事は知ってる?」


「すみません。隣国の情報などは全く知り得ません」


「なるほど」


 どうするか? 


 俺が言うか悩んでいると、アンナが俺に言う。


「この子は嘘は言っていない」


「わかった」


 俺とアンナが同時に、変装用のペンダントを首から外す。すると変装が解けて、本来の俺とアンナの姿が現れた。それを見たメリーはあんぐりと口を開けて、目をこれでもかというくらいに見開いている。


「驚いたよね」


「あ、ああ。あの! どうなってるんです! あなた方はいったい!」


 やはり動転してしまったようだ。


「これは内緒」


「な、なな」


「落ち着いて。そして私はあなたのお父さんを治してあげられる」


「えっ! 父を!」


「ちょっと城を抜け出しましょう。誰にも見つからずに城を出れる方法はあるかな?」


「いまから?」


「そう、いまから」


「…わかりました」


 そして俺とアンナは、また変装のペンダント魔道具をつける。見る間に別人となり、メリーはまた目を丸くして驚いている。そして俺はメリーにもペンダントを渡した。


「つけて」


「え」


「いいから」


 メリーがペンダントをつけると、見る間に容姿が変わってメル爺になった。


「えっ、わたし! なに!」


「これで大丈夫。じゃあこっそり行こうか?」


「……」


「お父さんを治そ!」


「わかりました」


 そして俺達がメリーについて行くと、初めて知った裏口に案内された。


「こんなところがあったんだ」


「こっちです」


 メリーが先を行き、俺達がついて行く。すると植え込みの裏手に出て、そこから城壁に向かって続く裏道があった。城壁にたどり着くとメリーは、城壁に沿って歩いて行く。


「ここから出れます」


 城壁の少し上にのぞき窓のような穴がある。恐らくは外から攻められた時に攻撃する為の窓だ。メリーは石を器用に登って、その穴に潜り込んで行った。向こう側に抜けると、ひょこっと顔を出して言う。


「どうぞ」


 えっと。メリーは痩せてるからあれだけど、俺の尻は通るのだろうか?


 頭を突っ込んで胸からウエストと行き、尻に差し掛かった時ムギュッと詰まる。そこで俺はアンナに言った。


「押して」


 アンナが俺の尻を押し込み、ポンッ! と外に出る事が出来た。アンナもそこを通り抜けて来るかと、俺達が覗いていると上から降って来た。高い城壁を乗り越えて来たらしい。


「行こう」


 そして俺達は王城を離れるのだった。真面目なメリーがこんな抜け道を知っていた事は意外だが、兵士に見つからずに抜け出られたので本当に助かった。するとメリーは繁華街とは反対の方角へと歩いて行くのだった。

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