第278話 エロ王子が連れて来た元の薬師

 傷薬など一切作らず、クラティナとシーファーレンは怪しい薬作りに明け暮れていた。俺も手伝おうとするのだが、手が汚れるとか言って手伝わせてくれない。クラティナとシーファーレンは皮で出来た手袋をつけ、あれやこれやと楽しそうに薬作りをしているのにだ。


 ワイワイとやっているのを見ていると、羨ましくて仕方ないのだが、やはり触らせてはくれないようだ。というのも、万が一、皮膚に触れたらかぶれたり爛れたりしてしまうかららしい。


 いざとなれば治癒魔法で治せばいいのになあ…。だが手伝った事で、二人の邪魔にもなりそうだったので、俺は諦めて離れた場所で見ているだけにした。


「オリジン。我々には我々のやる事がある」


「分かってるよエンド。だけど、シクス(マグノリア)とナイン(ゼリス)も集中しているし、ファイ(リンクシル)とネルは命令通りに部屋にいる。私は何もすることはない」


「待つ事も仕事だ。日中に疲れてしまっては、いざという時に身動きが取れなくなる。わたしは問題ないが、オリジンはそれほど体力があるわけじゃない」


「はいはい」


 そして俺は椅子に座ってまた二人の作業を見ている。


「人が来た」


「メイドかな?」


「いや…」


 念のため俺とアンナが立ち上がり、作業をしている二人の後ろに立つ。すると入り口から…


「やあ! 君達やってくれているようだね!」


 カイトだった。昨日の夜に俺を夜這い未遂したのに、何事も無いように爽やかな顔で立っている。だが従者以外に、もう一人女性を連れてきたようだ。


「これは。カイト様」


 そう言って俺達は、カイトに頭を下げて挨拶をした。


「ああ、いいから! 作業を続けてくれたまえ」


「はい」


「残りの四人は?」


「長丁場になりますので、交代制で取り組んでおります」


「おお! そういえば時間をかけて作ると言っていたか」


「はい」


「なら丁度良い。言っていた人手という事なんだがね」


 なるほど助手をあてがうという事か。


「それは、わざわざありがとうございます」


 きっとこの女が助手なのだろうが、めちゃくちゃおどおどしたような、ビクビクしたような仕草で立っていた。するとカイトが大きな声を出す。


「おい! さっさと挨拶くらいしろ!」


 その声に従者がぐいっと、女を引っ張って作業場に入れる。女はよろけながらも、引きつった笑みを浮かべて俺達に挨拶をした。


「あ、あの。すみません。よろしくおねがいします。すみません」


 もしかして…。


「王子。もしかすると彼女は前の?」


「ああ。薬師だ。一度追い出したが、市中を探して連れて来た」


「そうだったのですね」


「ほら! みんなにも挨拶をして!」


 女は顔を青くしながらも、一人一人に挨拶をしていった。こげ茶色のストレートの髪の毛を頭の後ろで結い上げているが、そのポニーテールの部分が腰にまで達している。


 しっかし…カイトの野郎。女の扱いが乱暴すぎねえか?


 イラっとして口を開く。


「あー、いいですか?」


「ん、なんだい?」


 だがシーファーレンが咄嗟に俺の前に出た。


「今は大事な作業工程となっております。火もかけっぱなしですし」


「あ、ああ! すまない! そうだね! 邪魔をしたね!」


「いえ。ただ時間が長くなるだけですから」


 するとカイトは手をひらひらさせていった。


「まあ、こんなんが役に立つとは思えないけど、薬師だからね」


「ありがとうございます」


「お前! みんなの足を引っ張るんじゃないぞ! せいぜい役に立つんだな!」


「は、はい…」


 ガチガチに震えている。


 俺はカイトに冷たい表情で言う。


「では。作業がございますので」


「いいね。その仕事に徹するところがまたいい!」


 おえ! いいからでてけ!


「では」


「わかった。じゃあよろしく頼むよ!」


「はい」

 

 そしてカイトと従者は出て行った。俺は立ちすくむ女に歩みより、癒し魔法をかけてやるのだった。光り輝いた後で、女は落ち着きを取り戻し驚いた顔をする。


「今…なにを?」


 しまった。つい、女が弱っているのを見て力を使ってしまった。


「あの、ほんの少しだけ魔法が使えたりして」


「そうなんですね! 素晴らしい」


「それよりも、私達は謝りたい! ごめんなさい!」


 俺が頭を下げると、シーファーレンもクラティナもアンナも頭を下げた。


「わわ! なんです? なんで謝るんです!」


「私達のせいで、あなたが追い出されてしまった。本当にごめんなさい」


「いえ! あの! むしろ良かったんです! ですが…残念なことに戻されてしまって…」


「えっ? 戻りたくなかったとか?」


 女はコクリと頷く。


「ご! ごめんなさい! そうなの?」


「はい。やっと解放されたと思っておりました。が、兵士がやってきて連行されて今に至ります」


 うはあ…。辞めたかったんだ。だけど王子直で迎えに来られたら断れなかったか。


「とにかく薬を作る手伝いと思ってたんだけど…連れ戻しちゃってごめんね!」


「いえ、それより…」


 女が鼻を、スンッ。 とさせる。


「なんでしょう? 不思議な香り…嗅いだことのないようなお薬ですが、お手がかぶれたりしていませんか?」


「臭いで成分が分かるの?」


「はい」


 マズい…。俺達が怪しい薬を作っているのがバレる。


「ま、まずは、他の仲間も紹介するよ。一緒に来て!」


「はい」


 そして俺とアンナが、彼女を連れてマグノリア達が待つ部屋へと行く。そして俺がドアをノックして言う。


「ちょっと入るよ」


「どうぞ!」


 俺とアンナが、女を連れて部屋に入った時だった。


 床一面に、ネズミが整列しているのを目撃されてしまう。


「きゃぁぁぁぁぁ!」


 女がいきなり叫んで、ふらりと倒れ込んだのでアンナがそっと抑える。


「気を失った」


「ナイン。出来ればネズミを隠して」


「はい」


 アンナはそっと女を抱き上げて、ベッドに連れて行き寝せるのだった。

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