第265話 新たなる不穏な情報
まずはいきなり奥に進むのはやめて、最初の村で情報を収集する事にした。さっきまで居たヒストリア王国のはずれの村からは、山を越えてすぐなのでそう変わった情報は無いかもしれないが、それでも護衛を連れた集団が通ればすぐにわかるだろう。
俺達が村に入ると、むしろ一番目立つのはネル爺だった。鎧を着た爺さんが、変装して地味目になった俺達を連れて、ぞろぞろと村を練り歩くだけで視線が集まる。するとネル爺がスタスタと先を歩き始めたので、俺は当てがあるのかを聞いてみた。
「どこにいくの?」
「は! 冒険者ギルドにて聞こうかと思います!」
「まてまて、隠密だからそれはどうかな。まずは村で一番の酒場に行った方が良いと思う」
「申し訳ございません! では、こちらです! この村には何度も訪れたことがありますので!」
そうなんだ。それはそれで便利かも。
ネル爺について行くと、数軒の飲食店がある場所に着いた。
「ゼロ、エンド。せっかくだしここで食事も済ませよう」
「わかりました」
「ああ」
そうして俺達八人は一番賑わっている店に入る。
「おや! ネル爺じゃない」
「こりゃどうも」
「なんだいなんだい? いっぱい女なんか連れちゃってさあ。まだまだ捨てたもんじゃないねえ」
「馬鹿を言うでない! この方達は…」
ヤバい…。
「あー、まってまって。私達は旅行者なんですけどね、実はネルさんに頼んで観光案内をしてもらってるんですよ」
「そう言う事ですか。なんだ、ネル爺、新しい仕事でも始めたのかい?」
「ま、まあそんなところじゃ」
「ゆっくりしてって」
「うむ」
そして俺達は、この店のおすすめ料理や飲み物を頼んで待つことにした。周囲を見回しても、ヒストリア王国から来てるであろう旅人がいっぱいいる。
そして俺がアンナに聞く。
「エンド。怪しいのはいる?」
「特におかしな気は感じない」
「そっか。意外に王の諜報とか入り込んでるかもしれないし」
「それはあるんじゃないか?」
「だよね」
まあ俺達は変装しているので分からないだろうし、クラティナもネル爺も別に怪しまれる事もない。むしろ二人がいる事で、新たな冒険者パーティーの様に見えるかもしれない。
「おまち!」
料理が運ばれて来たので、俺がネル爺に言う。
「何か最近おもしろい事あったか聞いてみてよ」
「は! それでは!」
「コホン!」
「…ふむ。よかろう」
そして次に店員が来た時にネル爺が聞いた。
「最近はどうじゃ? 何か変わった出来事とかあったかの?」
「どうだろうねえ。至って平和だけどねえ」
「変な集団を見かけたとか」
「あー、うん。少し前になるけど、鎧の騎士を連れた集団がいたねえ」
「ほう。それはおもしろい」
「鎧に家紋なんか入ってたから、きっと由緒ある御家柄の人だと思うねえ」
「なるほど。それでどうなった?」
「さてね。すぐに村を出たみたいだからわからないよ」
「わかった」
それからしばらくは、適当に観光的な話をして誤魔化した。だがやはり、マルレーン家一行はここを通り抜けたらしい。それが確認できただけでも充分だ。
「食べたら行こう」
「ええ」
その料理はなかなかに美味しくて量があった。旅行者や冒険者の胃袋を満たすにはこのくらいじゃなきゃダメなんだろう。俺達はあっという間に腹が満たされて、料理が残ってしまう。
「残したら申し訳ないな」
「よろしいんじゃないかしら」
だがクラティナが手を上げる。
「いらないの?」
「もういっぱい」
「じゃ! わたし食べる!」
どうやらクラティナは我慢していたらしい。小さい体のどこに入るか分からないが、俺達が残した料理をパクパクと全て平らげてしまった。
「ご馳走さま!」
「よく食べていいね」
「なんか食べれちまうんだよね」
「いいこといいこと」
俺が褒めると少し前のように、ぎすぎすした感じは取れて普通に笑ってくれた。チョンと尖った鼻筋が可愛らしい、水色の髪のかわいい女の子にドキッとしてしまう。悪い癖だ。
「じゃあ、いこうかな」
お代を払って俺達は村を後にした。草原まで戻るとヒッポが降りて来て、俺達は馬車に乗り込む。
「足取りを追わなきゃ」
「では次の村まで行きますかな。道を行けば一日ですが、恐らくこの馬車であれば一時間もすれば着くでしょうな」
ネル爺は土地に詳しかった。それだけでも連れて来て良かったかもしれない。
「じゃ、隣村まで」
マグノリアが答える。
「はい。では行きます」
そうして俺達は同じように、街道から離れた深い草原に降り立ち急いで次の村に入った。そこでも聞き込みをしたが、どうやら騎士の団体はここを抜けて更に先に進んでしまったらしい。俺達は再び草原に戻り馬車に乗り込む。
「やはり、王族に会いに行った可能性大かな」
するとネル爺が答える。
「はい。あまり余裕がないようでしたからな、安全な場所と言えばやはり王宮となるでしょう」
「まあ公爵だから、隣国の王族との面識ぐらいはあると思うけど、そうそう簡単に受け入れてくれるものかな?」
するとネル爺が少し考えてから話す。
「あの、どうやらソフィア様が幼少の頃に、トリアングルム連合国の代表のご子息達と仲が良かったようです」
「ご子息?」
「トリアングルムには、三人の王子と一人の姫君がおりましてな」
なんだと! 王子だと! 三人の王子がソフィアに色目を使っただと! 殺す!
「王子…」
「その王子も三者三様で、それぞれに特徴があるらしいのです」
「どんな!」
「あ、ああ‥はい! 三人とも容姿端麗で、国内でも人気なのだとか。また隣国の姫君などからの注目もあつまっておられるようで」
嘘だろ…。
俺は馬車の前の窓から、マグノリアに告げる。
「少し急ぎで飛んでもらえる? 真っすぐに王都まで向かうよ」
「はい!」
そして俺はネル爺に聞く。
「陸路で王都までどれぐらい?」
「普通に小隊で陸を進めば、十二、三日はかかるかと。雨で足止めをくらえばあと二、三日は」
なるほど。という事は、このままヒッポで行けば先回りできる可能性が高い。とにかくイケメンの王子達に接触する前に、ソフィアに、もう大丈夫だという事を伝えなければならない!
それからの俺は…急に無口になってしまった。
するとシーファーレンが言う。
「ネメシスをお気になさっているのですね」
ちがう。イケメン王子。
「まあ…そうだね」
「ネメシスが王族をたぶらかし、マルレーン家を丸めこむ…ありえますね」
マジ? そんなこと考えもしてなかったけど、よくよく考えたらそうかも。そうなったら危ない。
「いそがなくちゃ」
「はい」
それからヒッポは休みなく飛びつつけ、村や都市を飛び越していく。するとその先に、ひときわ大きな都市が見えてくるのだった。
「あれが、王都でございます!」
ネル爺が言う。
まってろよ! ソフィア! イケメン王子達の毒牙から守ってあげるからね!
険しい顔をする俺を見て、皆が気を引き締めるのだった。
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