第244話 危険な教会への訪問

 俺がモデストス神父に変装し、スティーリアもモデストスの教会で働く修道女に化けている。教会本部の前に立ち、二人が顔を合わせて頷いた。俺達が教会に入っても、誰にも聖女だとはバレていないようだ。


 俺が教会に行くときに、一番狙われる可能性が高いため、かなり慎重に作戦を練った。


「問題なさそう」


「聖職者も欺けるとは凄い魔道具です」


「とにかく教皇に会う前にどこかで変装を解こう」


「はい」


 俺達は先を進み、一つの空き部屋に入り込んだ。そこは修道士の部屋らしく、きちんと整頓されていた。すぐに賢者の魔道具を外し聖女とスティーリアに戻る。ドアを開けて外を見るが、誰もいないのでフードを深くかぶり廊下を歩いて行く。


 調査の結果、今日は間違いなく教皇がいる。俺達は教皇のドアの前に立ち周囲を確認しノックした。


「入るがよい」


 俺達が入ると、教皇は驚いて机から立ち上がった。


「まさか」


「お久しぶりでございます」


「元気にしておったのか?」


「このとおりです」


「聖女邸が襲われたと聞いた」


「ええ」


「それでどうなんだね!」


「まだまだ問題は山積みです」


 そして教皇が俺達にソファーに座るように薦めるので、俺達はそれに従う。


「わざわざ危険を冒してまで来た理由は?」


「ご協力をいただきたく思います」


「ふむ。教会は、なにをすればよい?」


「まだ王都内に間者がおります。それらを全て掌握するのにも、手数が足りません」


「手数? 聖騎士か…」


「その通りでございます。聖騎士をお貸しください」


「もちろん聖女の頼みとあらば、すぐにでもというところだが、それは正式な依頼でなければならん」


「ですね。ですから、今から枢機卿全員に召集をかけてください」


 教皇は目を丸くした。教会で枢機卿を集めるのは容易ではない。数日前から通達を出差ねばならないからだ。


「それはいささか…」


 俺は教皇を見つめてお願いする。


「お願いします」


「……」


 教皇は黙った。だが間違いなく、教皇は俺の言う事を聞く。


「…わかったのじゃ。すぐに招集をかけよう」


「ありがとうございます」


 教皇はすぐに動いてくれた。緊急招集という事で、物々しい雰囲気になってしまったが、次々と枢機卿がテーブルについてくれる。そして教皇は黙って俺に促した。


 俺が話を始める。


「皆様、お久しぶりでございます」


「聖女様! 無事なのですか?」


「ピンピンしています。それよりも、突然の招集に応じてくださいましてありがとうございます」


「聖女様の招集ならば皆あつまりましょう」


「ありがとうございます」


 皆が座って聞く準備が出来たので、俺は聖騎士を貸し出してほしいと願う。


「して、なぜ聖騎士なのですかな?」


「聖騎士だけではありません。第一騎士団にも近衛騎士団にも動いてもらうつもりです」


 すると一人の枢機卿が言った。


「話だけを聞いておりますと、クーデターを画策しているようにすら思えますが。どういうことなのでしょう?」


 確かにそう思うだろう。


「いえ。違います。陛下を守るためにどうしても必要なのです」


「詳細をお伺いしても?」


「申し訳ございません。それは申せません」


「…我々は聖女様を信じるしかないのですね」


「私をというよりは、女神フォルトゥーナを信じてください。私は女神の神託の元で動いております」


 すると教皇が助け舟を出してくる。


「教会の信仰心を見せる時でしょう。みなさん、ここは聖女様を信じるべきかと」


「「「「分かりました」」」」


 枢機卿達が頷く。これでいつでも聖騎士を出動させられるようになった。俺とスティーリアが立ち上がって言う。


「それでは今日はここまでで話は終わりです。詳しい情報はその時が来たらお伝えします」


 そう言って俺とスティーリアは、颯爽と部屋を出て足早に廊下を進む。すぐに曲がり角を曲がったところで、賢者の魔道具をつけた。モデストスと修道女になって教会を出るのだった。


 まるでスパイ映画だが、このくらい慎重にならないと何処に監視の目があるか分からん。


「とりあえず上手くいったね」


「はい」


「念のためこのままモデストス神父の教会まで行くよ」


「はい」


 俺達がモデストスの教会に到着すると、モデストス本人が向かい入れてくれた。


「本当に私にそっくりなのですね」


「これは魔道具なのです」


 そう言って俺が魔道具を外し自分に戻る。


「本当だ。聖女様が私に化けるなど非常に心苦しい」


「そのおかげで、スムーズに教会に入る事が出来ました」


「それで、本部はどうでした?」


「これで教会は動きます」


「素晴らしい」


「協力ありがとうございました」


 そして俺達が魔道具を付け直して、モデストスに言う。


「では。引き続きお願いします」


「はい」

 

 俺とスティーリアは、全くの別人となってモデストスの教会を後にするのだった。間者が狙うのであれば、教会の出入りが一番危険なためにとった手段だったが、無事に目的を達成する事が出来た。


 それに…初めて男に変装して思った事がある。


 もしかしたら男に化ければ、女と恋愛できんじゃね?


 そう思ってスティーリアを見る。そんな下心を知ってか知らずか、スティーリアは俺の顔をみて微笑むのだった。

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