第24話
花火大会当日。
僕は相変わらずスカート付きのセパレート式浴衣を着ている。
いやだってねぇ。可愛いし。
そんなこんなで会場に着いた。
わ〜……。
明らかにVIP用の特設空間。
えっ……。本当に来てよかったの僕……。
場違いじゃないよね……。
「ユイさん。こんばんは。」
「あぁ……。こんばんは。あおい。アカネ。」
僕が受付をぬけた先であおいとアカネは待っていた。
あおいは白をベースに青い模様が入った浴衣。
立ち方と相まって綺麗で可愛い。
そして、今日はどうやらコンタクトではなくメガネみたい。
もちろん目的は花火ではなく僕の浴衣姿。
それから……さっきからずっと連写され続けている。
すっごい恥かしい。
アカネは黒をベースに目立つように明るい赤の模様が入っている。
さすが現役女優だけあって綺麗で美しい立ち姿。
それから同い年に見えない絶妙な色気。
なんか僕への視線が獲物を狙うそれである。
いやはや……。
あれから少し経って、僕達3人は丸いテーブルで僕を中心に右側にアカネ、左側にあおいが座っている。
スペースは6割方余っているのですがそれは……。
「ユイさん。これ美味しいですよ。」
「ユイ。こっちも美味しいですよ!。」
あおいとアカネが良く食事を取り寄せてくれる。くれるので、スペースが埋まっている。
あとそんなに入らないからやめて。
「2人とも……。嬉しいのだけど……。そんなに食べれません……。」
「ごめんなさい。」
「ごめん。ユイ。」
食事会は一時中断された。
焼きそば、たこ焼き、お好み焼き、フランクフルト、サンドウィッチ、肉巻きおにぎりの棒、フライドポテト、ほか多数。
おうふ。
重い。いろいろと重い。
花火が打ち上がるまでまだ一時間ほどあるため、ここでは主催者がお招きしたミュージシャン達が演奏している。
どこかで聴いたような曲から全く知らなかったものまでいろいろ。
幕間だろうか。
ピアノ一つ置かれたステージにただただスピーカーからクラシック音楽が流れている。
僕は受付でもらったプログラムスケジュールをみる。
「この時間だとこの人か……。」
僕は指で時間と予定を追う。
ピタッと止まったところで横に流す。
《人魚姫と国一の歌姫のメインテーマ》
と書かれたタイトル。
この作品はよく知っている。
レイ……お母さんが好きなアニメ作品。
映画館で観て以降一時期ハマっていた。
「えっと。演奏者は……。」
《演奏:七瀬渚》
なんとくなく知っている。
この人は昔。お母さんのお見舞いに来てくれた人……。誰かと一緒だったと思うけど……。誰だっけ?。
時間になって、演奏者=七瀬渚の入場。
そしてピアノの席に着いて、演奏を始める。
キーボードに指を乗せて。
勢いよく。
最初は優しく。
2人が出会って、共に歩んでいく。
それから楽しい毎日。
お互いに上手くなっていく。
これから良くなるような曲調の弾み。
それからここで転調。
少し暗くなって。
お互いにすれ違い。
誤解しあい。
揺れ動く。
そして転調。
終わりに向けて歩みだす。
誤解を埋め。
すれ違いは噛み合って。
ここからさらに曲調は上がる。
お互いを思いあった故の衝突。
それがなくなって。
最後には2人一緒に。
そんな音楽だった……。
それから僕はしばらく放心していた。
夜空に閃光の花々が咲き乱れるその時まで。
―――――
ユイと別れた私はホテルやレストランが入るラウンドタワーに来ている。
「ああ、こっちこっち。」
入口辺りの柱で待っている女性。
市ノ瀬楓さんだ。
「今日は浴衣じゃないのね。」
「さすがに着ませんよ……。」
「あら残念。」
場違い感出るでしょ……。
花火大会あるとはいえ……。
ユイは相変わらずスカートの付いた浴衣。
可愛さでどうにかなりそうだった。
「ソフィアは良かったの?。愛しの同居人と一緒に花火大会の会場に行かなくて。」
「誘っておいて何を言うのですか。」
「それもそうね。ごめんごめん。」
相変わらずこの人は……。
軽い感じなのにどこか私を見透かしたような……。そんな喋り方……。
私は夜景の望める高層階の高級レストランの個室に来ている。
窓が付いてて、角度からして……ここからでも花火が見えるところのようだ……。
「どう。いいでしょここ。」
「そう……ですね……。」
狙ってますねこれは……。
それにしてもなんでここなんだろう……。
「今日はね。久しぶりに君に直接会いたくなってね。」
「どうしてですか……。」
「ちょっと昔の私を思い出しちゃってね。少しちょっかいをかけたくなった。」
ちょっかいって……。
こっちはユイのことで色々と悩んでいるのに。
全くこの―。
「いつまで傍観者でいるの?。」
「えっ……。」
なんで……。
なんで低い口調で言うの……。
「うむ……。やっぱりか。」
「なんですか。」
「君はあの子。ユイをどうしたいの?。」
「ユイをって……。なんでユイを知ってるの……。」
「まああの子の母親とは古いお友達でね。ユイがちっちゃい頃から知ってるの。」
ちょ……ちょっとー。
それ初見なんですけど。
えっ!。知り合い。昔から。
だいぶ頭が混乱してきた。
「そんなに頭抱えなくていいよ。あの子は覚えてなさそうだし。」
「なさそうって……。」
「そんなことより。」
「そんなことじゃないよ!。」
「ソフィアはユイとどういう関係になりたいの?。」
「私は……。」
私はユイの……。
友達?。同居人?。いや……違う……でも……。
「あの子の傍にいたいのならそんなことで悩んじゃダメ。しっかり自分の言葉で言わなくちゃ。」
「でも……。それだとユイが……。」
「今はユイのことはどうでもいい。」
「どうでもいいって……。」
「あなたはどうしたいの?。ただの同居人でいたいの?。それとも恋人として……一緒にこれから生きていく存在として、一緒にいたいの?。」
私は……。私は……。
私は!。
「ユイの傍にいたい。ただの同居人じゃなくて、ただの友達じゃなくて、これから先もずっと、ずっと一緒に生きていく存在として……ずっと……ずっと……傍に……一緒に……。」
「それが聞けて良かった。」
「…………。」
「私もね。ずっと悩んでいたの。渚の傍にいていいのだろうか?って。でもね。それは杞憂だった。渚はいつまでも私の傍にいた。ただ前を向いていたから分からなったんだ。横を向けばすぐ側にいる。手の届くところにいる。ずっと寄り添ってくれている。」
「ぇ……。」
「だから大丈夫。ただあなたは前も後ろもただがむしゃらに向いているだけ。だから落ち着いて、横を向けば隣にいるから。手を伸ばせばすぐにわかるから。だからあなたは堂々とあの子に向かって全力で話せばいい。いい事も悪い事も全部。ユイはそんなことで嫌いになる子じゃないでしょ。」
「うん……。ありがとうございます。楓さん。」
「良し。いい顔だ。頑張れ。」
「はい。」
ドンドンと閃光の花が咲き始めた。
楓さんの優しさに包まれながら私は思う。
ユイもこの光景を見ているのだろうか。
咲き乱れる閃光のお花畑に私は想う。
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