女の子に転生してから15年、聖夜前の昼下がりに失恋した少女を拾いました。
アイズカノン
ユイ中学生編
前編
第1話
女の子に転生してから15年、まさか少女を拾うとはその日が来るまでは思ってもみなかった。
時は少し遡り、世間はクリスマス一色の昼下がりの帰り道で立ち寄った公園で、件の少女はいた。
雪の降る薄暗い空でも存在を示す白金のストレートロングとサイドテールの髪に、暗めながらもハッキリした色合いの蒼いドレス。そして放浪としながらもしっかりした意志を感じる碧い瞳。間違いない。彼女は以前兄の婚約者候補の写真で見たことがある。名前は確か《暁=ソフィア=ヴァイオレット》
ん?待てよ。なんでここにいる。ドレス姿というとこは少なくても丸1日使ったクリスマスパーティに首席しているはず。なのにここで、靴もスカートの裾も泥にまみれながら木の骨組みと蔦や草花でできた休憩所に萎れたように座ってるのはおかしい。
結論【兄がなにかやらかした】。それで間違いないだろう。後で家族裁判だな。罪状は明白なわけだし。
まあ、そんなことよりもいまは目の前にいるいかにもラブコメの負けヒロインのCGのように絵になってしまっているこの娘をどうするか?
とりあえず家に連れ帰って連絡してから考えよう。うん、そうしよう。
そんな考え事をしていたら雪が上がり、雲の隙間から夕陽の光が降りてきた。
僕はソフィアに近づき、隣に空いているスペースに座る。しかし彼女は気づかない。余程心的ダメージを受けたのかだいぶ放心状態になってる。
ドアをノックするようにドレスから露出している肩を指優しくトントンと叩いたら、ゆっくりとこちら見て元に戻したのに間髪入れず意識して再度こちらを見ると、飛び上がりそうな勢いで少し距離をとった。びっくりした猫見たいで可愛いなこの娘は。
「な、なんですか!?」
まあ、そういう反応になるよね。
ここまでの経緯をあらかた伝えた。いわゆるかくかくしかじかというやつだ。
「そ、それは大変失礼致しました。」
土下座して謝らんでも…。ドレス汚れるからやめなさい。
「土下座はいいから頭を上げて、ドレス汚れるから。」
「はい…。」
しゅんと萎れた顔だけ上げてこっち見ないで…、色々とくる。
「このままここいるのもアレでしょ…。とりあえず家に来て休まない?」
そんな提案を「良いのでしょうか…。」と困り顔で目線を逸らしながら受け入れなれないといった感じだ。まあ、そうよね。
「そこでじっとしていても仕方ないでしょ。それに可愛い子は放っておけないしね。」
照れ隠しに可愛いを付け加えてしまった。恥ずかしい。
「それに今日は聖夜だし、パーッと楽しんで終わらないと僕も嬉しくないからね。」
手を差し伸べながら「僕のわがまま聞いてくれる?」と再度提案。
「はい。よろしくお願いします。」
日の光が雲の切れ間から差し込む聖夜の前。まるで天使を観るかのようなその瞳は…。
―――――
私の前に天使が現れた。
時はクリスマスパーティの会場のところまで遡る。
クリスマスパーティと言えど、私にとっては仕事だった。各業界の首脳陣が参列する会場。スーツとドレスで彩られた大人達と同じく、その子供達もいた。
そこそこの社長令嬢である私も例外ではなく、大好きなお父様が買ってくれた新品の蒼いドレスを身にまとって、お父様を一緒に挨拶回りをしていた。
「ソフィア疲れただろう?こっちはもう良いから自由にしてなさい。」
「はい!」
と少し離れたら、肩の荷が降りたような感覚を感じた。どうやらお父様の言うとうり疲れていたみたい。私もまだまだのようだ。と自己反省をしながらしばらく会場を回っていた。
会場にあるステージでは主催者が呼んだ音楽団が演奏していた。
……。少し立ちくらみをしたらしい。
会場の扉を出て少し外の空気を吸うように深呼吸をした。これでスッキリした。
少し散策をしていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
私と婚約する予定の
学校でそれなりに噂になってはいたがこう…視覚情報として目の前に出されるとだいぶ嫌な気持ちになった。春樹と一緒いる少女は《優希榛名》。長くストレートな黒髪が特徴の女性である。
こうやって2人で中睦まじく話していると途端に悲しくなる。やはり幼馴染は駄目なのだろうか…そんな不安が私の心を侵食する。
私に気づいた春樹が少し驚いた表情でこちらを見た。あぁ…やっぱり。
そこからのことは覚えていなかった。
とにかく遠くに逃げたかった。
どこか知らないところへ。
肩をトントンと指で優しく叩かれるまで意識がなかった。
どうやらどこかしらの公園に来ていたようだ。
ところでここはどこ?
困惑していると、私の意識を呼び戻した少女がことの事情を説明してくれた。
どうやら私はこの公園のベンチで放心して座ってたらしい。ほんとごめん。
「そ、それは大変失礼致しました。」
思わずその場で謝罪。
「土下座はいいから頭を上げて、ドレス汚れるから。」
「はい…。」
恥ずかしい。どうしよう…どうしよう…。
「このままここいるのもアレでしょ…。とりあえず家に来て休まない?」
え?休むって…私がこんな可愛い子の家で…。見ず知らずの私を…。
「良いのでしょうか…。」
思わず言ってしまった。どうしよう…ってめっちゃ指で顔をかきながら申し訳なさそうにしてるじゃん。ごめんね。迷惑だよね。
「そこでじっとしていても仕方ないでしょ。それに可愛い子は放っておけないしね。」
ん!?可愛いって可愛いって言ったこの娘。私を!?え…嘘…いつも無表情で何を考えているかわからないって言われるこの私が!?
「それに今日は聖夜だし、パーッと楽しんで終わらないと僕も嬉しくないからね。」
何この可愛いイケメン…。ヤバい私の心がヤバい。
「僕のわがまま聞いてくれる?」
「はい。よろしくお願いします。」
思わず脊髄反射で答えてしまった!?どうしようどうしよう。
あっ…。
雲の切れ間から差し込む光が少女の透き通るような青白い髪を照らす。
白い衣装を纏った少女はさながら私を助けに来た天使のようだった…。
思わず連れてこられてしまった…。
住宅街にある普通の一軒家。
一人暮らしかぁ…。ん?
家の表札には【岩波】の文字があった。んーまさかねぇ…。
塀の門を抜け玄関に入る。玄関はタイル張りの床と左右に靴入れの棚と右に傘入れと思われる縦に長い棚が置いてあった。
左の棚の上には家族写真があり、そこには見覚えのある親と子供達が写っていた。
写ってるご両親は先のパーティ会場で挨拶と小話をしていた。春樹のご両親ということで…。
……。待て待て、ご両親の隣には娘が1人いた。
その娘も写真にいる。ということは今目の前にいるこの娘は…春樹の妹ということ。
つまり私は婚約予定のアレの妹の家にいる。
きゅーん。あの可愛いイケメン少女がアレの妹!?え…うそ。名前は確か《岩波ユイ》。そうユイちゃん。来年には高校生になるのよね。
……。
よし一旦忘れよう。
そう考えてる間にリビングに着いていた。
「いつまでもその格好は大変でしょ。お風呂入れてあるから入ってきなよ。」
あっそうだ今私ドレスだった。色々あったから忘れてた。
お風呂場に案内されて改めて冷静になると、会場にいた時はあんなに綺麗だった蒼いドレスは泥で薄汚れており、スカートの裾に至ってはもう黒くなってしまっている。
ドレスを脱いで、髪を洗い、身体を洗って、湯船に深々と座る。
「ふぅ~。」
どっと疲れが出てきた。
「これからどうしようか…。」
水面に口付け、今後のことについて考えた。
家に帰る気分でもないし、かと言ってここでお世話になる訳にはいかない。
「着替えはカゴの中入れておきますね。」
考え事しているとユイが不意に聞こえ「ふぇっ!?」と水音を慌ただしく上げながら「は…はい。」と返答してしまった。
「大丈夫ですか…?」
「大丈夫です!!」
案の定心配された。
風呂を出てユイが用意したパジャマを着た。ふわふわモコモコのネコさんパジャマ。可愛い。普段このパジャマを着て寝ているユイちゃんを想像しただけでヤバい。
そうこう妄想してながらリビングに戻るとちょうど電話を終えたユイが私の方を見て報告するように言う。
「しばらくここで一緒に暮らすことになったのでよろしくお願いします。」
深々と頭を下げるユイ。ん?一緒にここで住む?ユイちゃんと?えっ!?
「工工工エエエエエエェェェェェェ…ェェェェェェエエエエエエ工工工。」
これからの私は大丈夫でいられるのだろうか…。
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