第39話
「それで、私に相談したいことってのはなんなの? 無茶なお願いは聞けないけど、内容次第じゃ力になるよ」
口ではそう言っているけど、ノエラなら大抵のお願いなら聞いてくれるだろう。
そう確信させる雰囲気を醸し出している彼女に微笑みながら、俺は相談の内容を告げる。
「実は、武器以外にもこの商会で取り扱ってほしい商品があるんだ」
「へぇ……。さっそく新商品を作って来たってわけかい。なら、話を聞かないわけにはいかないね。その商品の見本はある?」
「ああ、もちろん。これだよ」
俺の言葉とともにリーリアが懐から取り出したのは、各種ポーションとライトの魔法が込められたスクロールだった。
試作した中でも特に出来の良いものを見繕ってきたつもりだけど、はたして百戦錬磨の商人である彼女のお眼鏡に適うだろうか。
俺たちの緊張をよそにそれらを受け取ったノエラが吟味するように確認していると、隣から覗き込んでいたジェリスが感嘆の声を上げる。
「へぇ、これはかなり上質なポーションみたいだな。それにスクロールもあるなんて、どこで手に入れてきたんだ?」
どうやら、少なくとも彼に対しては高評価だったようだ。
俺の作った物を褒められたのがよっぽど嬉しかったのか、隣に座っていたリーリアはまるで自分のことのように自慢げに口を開く。
「両方とも、アキラさんが作ったんですよ!」
「アキラが? だって、お前は鍛冶師だろう。なのにポーションが作れるのか?」
「そういえば、言ってなかったっけ? 俺は生産職のスキルをほとんど習得してるんだ」
その言葉に、ジェリスだけでなくノエラも驚いた表情を浮かべる。
その反応は、もはや俺にとっては慣れたものだった。
「みんな同じような反応をするけど、やっぱり俺みたいな存在って少ないのかな?」
「当り前さ。普通は生産職のどれかを極めれば、一生安泰なのが約束されるみたいなものだからね。誰も好き好んで、もう一度最初から勉強しようなんて思わないさ」
確かにそうかもしれないな。
妙に納得していると、ノエラは見本のポーションたちをリーリアに返しながら頷く。
「うん、これならきっと人気商品になるだろうね。でも、これくらい品質の良いポーションなら別にこの街でだっていくらでも売りさばけるだろう。どうしてわざわざ、私たちのところまで話を持ってきたんだい?」
そう尋ねられて、俺たちの表情はサッと曇る。
「なにかあったんだね? あんたたちさえ良ければ、詳しく話してちょうだい」
「……実は、この街の店に圧力がかけられているみたいなんだ。なんでそんなことをされるのか理由は分からないけど、そのせいでウチの工房から商品を買ってくれる店はほとんどないんだよ」
「圧力? そんなしょうもない嫌がらせをするなんて、いったいどこのバカの仕業?」
「それも分からない。リーリアの知り合いが言うには、かなり大きな力を持った奴らみたいだけど」
まぁ、ここまで露骨な圧力なんて相当の力を持っていなければ無理だろう。
そんな俺の説明を聞いて、ノエラは首を傾げながら考え込む。
「ふむ、なんだか情報が少ないね。なんでもいいから、他に変わったことなんかはなかったかい?」
「変わったことか……。そういえば、俺を引き抜こうと工房にやって来た奴がいたよ」
「引き抜き? そりゃあまた、突然の話だね。まぁ、あんたくらいの腕を持っていれば普通にある話だろう」
「そうなのかもしれないけど、ちょっと引っかかるんだよな。俺は知り合いが少ないから、いったいどこから俺の噂を聞いたんだろう?」
ノエラと話していて、俺がずっと考えていた違和感の正体に気付くことができた。
俺の技術について知っているのはリーリアとノエラたちを除けばテッドとドロシー、それにイザベラとエステルくらいだろう。
そのうちの誰かが他の人に話した可能性はほとんどないだろうし、ならどうやって俺のことを知ったのだろうか。
「まぁ、情報なんてどこから洩れるか分からないからねぇ。それで、その引き抜きってのはどこの手の者だったんだい?」
「確か、イグリッサ商会とか名乗ってた気が……」
その名前を聞いた途端、ノエラの表情が強張った。
その表情から察するに、どうやら彼女には心当たりがあるみたいだ。
しかも、どうやら俺のあまり良くない予感は的中していたらしい。
「どうしたんだ? なにか問題でもあった?」
ともかく、まずは話を聞いてみない事には始まらない。
そう思って尋ねると、ノエラはいつになく真剣な表情を浮かべて口を開く。
「その引き抜きの話、どうしたんだい? まさか受け入れたんじゃないだろうね?」
「受け入れるわけないじゃないか。俺はリーリアの下でしか働く気はないよ」
当たり前のように答えると、隣のリーリアはまた頬を赤らめる。
そんな俺の答えを聞いて、ノエラは強張っていた表情をいくらか緩めた。
「それなら良かった。悪いことは言わないから、イグリッサ商会と関わるのは止めておきな」
「まぁ、関わるつもりはないけど……。でも、いったいどうしてそんなことを言うんだ?」
ノエラにしては珍しく厳しい口調で止められて、不思議に思って首を傾げる。
そんな俺の様子を見て、一瞬だけ迷ったように視線を巡らせたノエルはゆっくりと口を開いた。
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