第26話

 あれから三日後。

 三日間ほとんど休まず一心不乱にハンマーを振り続けて、やっと必要な分の剣を打ち終えることができた。

 後は最終確認するだけとなった俺たちは、いったん作業の手を止めて二人連れ添って街を散策していた。

 残念ながらもちろん、これはデートなんて言う浮ついた話ではない。

 今日俺たちが街に出た理由、それはいわゆる市場調査と言うやつだ。

 剣以外の新商品を作るにあたって、いったい今はどんな物が売れているのかを調べることにしたのだ。

 せっかく新しい商品を売り出したとしても、需要がなければ全部台無しになってしまう。

 これが俺だけの問題だったら大したことはないのだけど、新商品の失敗はそのままリーリアやノエラさんにも迷惑をかけてしまう。

 そう考えると、慎重に慎重を重ねるくらいがちょうどいいと思うのだ。

「それで、これからどのお店に向かいましょうか? アキラさんは、どこか行きたい所ってありますか?」

「そうだなぁ……。俺はあいかわらず土地勘もないし、リーリアに任せるよ」

 この街に来てからというもの、工房とテッドさんのお店、それからノエラさんの所以外に行ったことがない。

 今だって、彼女とはぐれてしまえば無事に工房に戻れるかも怪しい。

 だから絶対にはぐれないように注意していなければならない。

 そんな俺の気持ちを察してくれているのか、リーリアはさっきからずっと俺の手をギュッと握ってくれている。

 彼女の頬がほんのり赤くなっているような気がするけど、やっぱり俺みたいな地味な男と手を繋ぐのは恥ずかしいのだろうか。

 彼女に悪いと思いながらも、久しぶりに異性と手を繋ぐことのできた俺は少しだけ浮かれていた。

 それがリーリアみたいな美少女なのだから、心の中で喜ぶくらい許して欲しいものだ。

 きっと傍から見れば情けない兄を妹がリードしている風にしか見えないだろうけど、それでも俺にとってはちょっとしたデート気分だ。

 そうやって気分だけでも楽しんでいると、いつの間にか俺を見上げていたリーリアの視線に気が付いた。

「あの、アキラさん? 私の話、聞いてました?」

「えっと……。ごめん、聞いてなかったかも。ちょっと考えごとをしてて……」

 慌てて謝ると、リーリアは拗ねたように頬を膨らませる。

「もう! ちゃんと聞いててくださいよ! これから私の知り合いのお店に行きますけど、それでいいですよね」

「あぁ、もちろん。それじゃあ、さっそく行こうか!」

 拗ねたリーリアを誤魔化すように明るく答えると、呆れたようにため息を吐いた彼女はなんとか微笑んでくれた。

「まったく、もう……。アキラさんって本当にしかたのない人ですね。そこが可愛いところなんですけど……」

「え? なにか言った?」

「なんでもありません。ほら、行きますよ」

 リーリアに手を引かれるようにして、俺たちは通りをまっすぐに進んでいった。


 ────

「着きました。ここですよ」

 リーリアに連れられてやって来たのは、こじんまりとした店舗だった。

 外観はあまりオシャレとは言えないけど、清潔感のある質素な造りをしている。

「ここって、いったいなんの店なの?」

「えっと、道具屋さんですね。……道具以外にも、いろいろ売ってるみたいですけど」

 言われて窓から店内を覗くと、確かにそこにはいろいろな物が雑多に置かれていた。

「それじゃ、中に入りましょう。こんにちはー!」

 元気に挨拶しながら扉を開けたリーリアは、そのまま俺の手を引いて店の中へと入っていく。

 外から見ていたよりも店の中は広く、きちんと整理された商品たちが所狭しと並んでいた。

「やぁ、いらっしゃい。……なんだ、リーリアか」

「なんだって言い方は失礼じゃない? 私はお客さんだよ」

「そうは言っても、どうせ君はなにも買わないじゃない。いつもフラッとやって来ては、雑談だけして帰っていくんだから。お客さんってのは、ウチの商品を買ってくれる人のことを言うのよ」

 カウンターに座って気だるそうに声をかけてきた女性は、リーリアの姿を見て興味を失くしたかのように目を伏せる。

 そんな彼女と軽口を叩き合いながら、リーリアもカウンターのそばまで歩いていく。

 そうすると当然、手を引かれている俺も連れていかれるわけで……。

「あら? だれ、この人? リーリアって結婚してたっけ?」

「どうしていきなり結婚の話になるの!? この人は、ウチの工房で働いてもらってるアキラさん。今日はちょっと聞きたいことがあって一緒に来てもらったの」

「へぇ、そう……」

 俺の身体を頭の先からつま先まで舐めるように眺めた女性は、やがて口元を緩ませて手を差し出してくる。

「私はこの道具屋の主人、ドロシーよ。リーリアとは幼馴染なの。よろしくね」

「へぇ、そうなのか。俺はリーリアの工房でお世話になってるアキラだ。よろしく」

 差し出された手を取って握手を交わすと、なんだか不思議な感覚が身体中を走る。

 同時にドロシーは目を細め、興味深そうに俺を見つめてくる。

「ふぅん、なるほどね。君、見かけによらず凄いスキルを持ってるのね」

「え? なんで……?」

 どうしてドロシーが俺のスキルのことを知っているのだろうか。

 突然のことに困惑していると、リーリアが少し怒ったように口を挟んだ。


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