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「結局、ルフェとミネルウァ公爵令息はそうなると思っていたんだ。」

「全くもって、右に同じく。闘技場でのユリウスは実に見ものだったな。」


騎士局の闘技場での一件からそう日をおかずに、ルフェルニアはユリウスと共にギルバートとアスランに会っていた。

もう近々ギルバートが帰国するので、王宮に挨拶に来ていたタイミングで、ルフェルニアとユリウスが呼ばれたのだった。

アスランとギルバートはあの闘技場での一件の後、話す時間があったのか、随分と親しそうになっていた。


「殿下とノア大公には、お恥ずかしいところをお見せしてしまって、申し訳ございません。」


ユリウスはきっちりと綺麗に頭を下げたが、その表情は晴れやかだ。


「当て馬にでも、された気分です。」

「まぁまぁ。大公が来てからユリウスはずっと可笑しかったかもしれないが、普段は冷静沈着で、仕事も早い。」

「仕事については、大変感謝しています。引き続きよろしくお願いします。」


ギルバートがユリウスにそう言うと、ユリウスは「もちろんです。」とにこやかに答えた。


「ルフェも、引き続きよろしく。」

「うん。またノア公国に行くのを楽しみにしているわ。」

「…まだ現地調査に行かせる文官は決めていないよ。」


ギルバートとルフェルニアが笑顔で会話を交わすので、ユリウスは面白くなくて口を挟んだ。


「この件はルフェの担当だろう?…これは、当て馬のまま終わらないかもしれないな。」


仕事の恩があるとはいえ、迷惑をかけられたのだからこれくらいは意地悪を言って良いだろう、とギルバートが口の片端を上げて意地悪そうに言う。

ユリウスはすぐに突っかかっては大人気ないと、それを軽く聞き流そうとしたが、はたとあることに気づいてしまった。


(あの日、僕は好きだと言って、「チャンスが欲しい」と言った。ルフェはそれに頷いたけど…、好きとは言ってくれていない…?)


ユリウスはルフェルニアが抱きついてくれたので、すっかりその気になっていたが、あれは単なる仲直りだったのか…?と急激に不安になり顔を青くする。

ルフェルニアがユリウスから離れていた時間は少しだが、その間にルフェルニアが少なからずギルバートに惹かれていたことをユリウスは知っている。


「ちょっとギル、ユリウス様を虐めないで。」


ルフェルニアが笑ってユリウスの代わりに返すと、ユリウスの様子を見たギルバートとアスランはにやにやと笑った。


_____


「ねぇ、ルフェ。僕たちの今の関係ってなんだと思う?」


アスランとギルバートと別れた後、ユリウスは青い顔ままルフェルニアを見た。


「私たちの関係って?」


ルフェルニアはユリウスの言いたいことがすぐにわかったが、わからないふりをして尋ねる。


「その…僕たちは友人に戻ったわけではないよね?…僕は君の恋人になれたつもりでいたけれど、違った…?」


ユリウスが、またあの仔犬のような瞳で見てくるので、ルフェルニアは口元がゆるゆると緩んでしまう。


さて、ルフェルニアは先日ユリウスから言われた「困らせたい」という言葉に今更ながらひどく共感していた。

困らせたいのは何もユリウスだけではない。


「ふふ、どう思います?」


あのとき少し生まれてしまった加虐心は今も時折ルフェルニアの心を擽っている。

ルフェルニアは悪戯気に笑ってみせると、ユリウスの手を借りずに停めてあった馬車の中にひらりと飛び乗ってしまった。


「え!?ねぇ!僕のこと、もう好きじゃないってこと…!?」


ユリウスは情けない声を出しながら慌てて後を追って馬車に乗ると、いつもどおりにぎゅうぎゅうに詰めてルフェルニアの隣に座った。


あの日の翌日、ルフェルニアはミシャに事の顛末を伝えていた。ミシャが「どう考えてもノア大公様の方が大人で男らしいじゃない。なぜユリウス様なの?あんなに面倒くさそうなのに。」と言うので、ルフェルニアはこう答えた。


「本で読んだとおり、恋は理屈じゃないし、惚れたら負けなのね。一度フラれても、それは変わらなかったみたい。」


ルフェルニアは、今までユリウスに負けっぱなしで、告白してからは特に振り回されたのだ。ちょっとくらい意地悪をして、束の間の優位を楽しみたかった。


ルフェルニアのユリウスに対する印象は、告白の前と後で少し変わってしまったかもしれないが、今の方がずっとお互いの距離感に馴染んでいる気がした。


今も隣で必死に言葉を紡ぐユリウスに、近いうちにまた負けてしまうであろうことを、ルフェルニアは予感している。

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