第35話 注文品を作るよ
次の日の朝。私は騒音を無視しながら、お仕事をしています。
私の! 魔導鎧工房で、魔導鎧の改造図面を引いてる所です。
「なあ? おい。エリス首尾はどんな感じだ?」
落ち着かない様子で、赤い髪に指を絡ませたバレットくんが話しかけてきます。騒音です。仕事中なので無視します。
「やれそうか? むりっぽいのか? 早く教えてくれ!」
無視しても全く気にすること無く言葉の連装機械槍をばらまいてくるバレット君。
これだけの連射力を思うと、実験に失敗が悔やまれます。正直惜しい気持ちです。
彼の神経の図太さをちょっとうらやましく思いつつ、根負けした私は顔を上げて対応してあげることにします。
「改造の設計はもうすぐ終わりますが、通常の部品が使えなくなるので、壊したときの修理費が割り増しになることを理解してくださいね。カラーリングは問題なしです。こちらも修理時に塗装が必要になるので、更に割り増しです」
「うおお! いいぞ! これでようやく文句を言われずに、皆と行動できるぜ!」
専用のカラーリングとベヒモス型魔導鎧の盾を取り外し可能にしてくれと言う依頼だったのですが、取り外し可能部分の部品は手動で削り出すフルスクラッチになるので、通常の修理よりもお金がかかるようになってしまいます。
了承も得たので、サラサラと見積もりの領収書を書いて引き渡します。
結構な額ですが、彼も一緒にローナの町の権利を持っているから支払いは大丈夫でしょう。
「支払額はこれほどになります」
「うぐ! 結構するな……。なあエリス。もう少しまからないか?」
「ダメです」
「ちぇ! 仕方ない。ちとダンジョンで狩りでも行くか」
大丈夫だと思ったら、少し苦しいようですね。一体どんな無駄遣いをしたら、足りなくなるのか分かりませんが、人のことは言えない私も店の修理費を稼ぐために同行しますか……。
「ダンジョンに行くのでしたら、私も同行します。山分けで良いですね?」
「オッケー! 行こうぜ!」
#####
ダンジョンから帰ってきた私たちは店の接客スペースで、ドロップ品を換金したお金を山分けにしています。
「レアドロップが出たのは大きいですね」
「運が良かったぜ! コイツで支払いも何とかなる」
鼻をこすったバレット君をジト目で見つつ、私もお店の修理費で吹き飛んだ貯金を補充できたので安心です。
何故か定期的にお店が吹き飛んでしまうので、貯金が出来ないのです。
困ったものです。
構成材はケチっていないのですが、毎度爆薬に引火して大爆発になるので弾薬庫を作る必要があるのかもしれません。
かさむ費用を想像するだけで、目元にしわが出来るので揉みほぐします。
「どうやら、エリスも金回りに困ってるみたいだな。俺達、卒業してすぐに大金を手に入れたから、正直金の使い方が分からないんだよ。マリィの懇意にしているえー誰だったか……」
「エレノアさんですね」
「そう! エレノア! エレノアさんに色々教わった方がいいのかもな。わからねぇことは先達に教わるのが一番だぜ」
対して何も考えていなさそうなバレットからの意外な提案に乗り気になった私は、イレイザさんも誘ってエレノアさんに聞いてみることを決意しました。
イレイザさんは順調にやっていますが、本業の方に話を聞くのはきっと良い経験になるはずです。
お店を繁盛させる光明を見た私は、修理の追いついていない屋根から目をそらしつつ、繁盛するお店を夢想します。
フフフ、大好きな魔導鎧がいっぱいです……!
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