召喚学園の生徒だけど守護獣が異形すぎて邪教徒だと疑われてます
【報告書】
邪教の幹部格であった元教員サヴァン・タレッジによる北の護陣塔への攻撃を合図にして、邪教徒による世界滅亡計画は最終段階へと移行した。数多くの召喚師が在席するヴァリエール召喚師学園の施設を狙った一見無謀にも見えるその計画は、入念な準備と数多くの協力者によって迅速かつ円滑に進行した。
邪教が企てた作戦の核は
元教員サヴァン・タレッジによる大規模な陽動に加え、校舎の爆破や放火等で現場の混乱が極まる中、敵陣営の狙いを的確に見抜いて祭場に乗り込んだのがヴァリエール召喚師学園一学年のジェイド・グレード及び同クラスの■■■■■■■■■■(検閲により削除)であった。
彼等が突入した時、既に邪教は召喚の儀式を終えていた。しかし古の文献に記された方法を再現して呼び出されたのは、邪神ではなく一体の悪魔であった。邪悪な召喚術は確かに成立したが、邪教徒が望んだ結果にはならなかった。古い召喚方法の不安定性から、術者達の願いとは異なる存在を召喚してしまったのだ。
世界を破壊する事が目的であった邪教徒は悪魔を問い詰めたが、悪魔は暴力によりこれを退けた。その後、祭場に乗り込んできたジェイド・グレードと■■■■■■■■■■(検閲により削除)に対して交渉を行い、甘言によって不平等を巧みに隠した悪魔の契約を迫った。
当然二人はこれに反発。
祭場や学園内だけでなく、王都内に潜んでいた者達も含めて邪教徒は全員が取り押さえられた。邪教の中で階級の高かった教徒の多くは、平和によって力を失いつつある武家貴族の子供世代であった。これは元教員サヴァン・タレッジも同様である。争いと混乱のみに価値を求める歪み偏った考えを幼少期から親に刷り込まれて人格を形成した彼等は、その強い思想と信心によってか我々とは別の現実を見ているようであった。精神鑑定の結果が待たれる。
何れにせよ悪魔は討伐され、邪教は事実上の解散となって一連の事件は終息した。他の宗教団体の調査及び不穏因子の弾圧が行われる事も決定しており、王都はこれまで以上に安全かつ強固な大陸の中心として栄えていく事だろう。
メイユールに更なる繁栄を。
ニフィレリカ様万歳。
◆ ◆ ◆
やあ、僕の名前はヘレシー!
小さい頃に呼び出した守護獣のおかげで召喚師としての素質を認められた僕は、今日からあの有名なカンガス地下監獄に収容される事になったんだ!
今は薄暗い檻の中で薄っぺらい寝床に腰掛けているところ! 石と鉄に囲まれた冷たい雰囲気の割には意外と寒くはないんだけど、薄着一枚だし靴も脱がされてるから夜になったら足元から冷えてきそうだね!
あの後ハッピーとその知り合いには一旦帰ってもらって、ハイドラと協力しながら塔の汚れを水で流したり壊れた場所を掃除して誤魔化そうと頑張っていたんだけど、その途中で騎士っぽい人達が突入してきて捕まっちゃったんだよね! 事情があったとはいえ神話に出てくるような建造物を傷付けたのはやっぱり不味かったみたい! 人助けの結果だから後悔はしてないけどね!
ちなみに床に転がってた黒装束の人達(邪教っていう集団らしい)も一緒に捕まったよ! 大部分の人が目が覚めてから変な言語で喋りはじめたり頭を壁に打ち付けたりしててビックリしちゃった! 見ていて今後の人生が心配になる奇行っぷりだったけど、でもまぁそっちはいいんだ!
問題なのは理性的な振る舞いをみせた残りの数人で、倒れる直前に見たハッピーの姿を思い出しながら壁に血で絵を描いたり、僕を仲間だと思い込んで話し掛けてきたりするんだよね! もう迷惑とかそういう次元を通り越してて笑っちゃった!
この人達、悪事を妨害された腹いせに僕を道連れにしようとしてない? レティーシアみたいに忘れてくれてた方がよっぽど良かったよ!
「司教様。私は今、とても感動していますっ! 意識を失う直前に見たあの禍々しい眷属の姿。あれぞ不浄不転の世界の敵です……!」
しかも何故か同室にそっちタイプの女の人がいるんだよね! よく見たらこの人、前に王都で買い物した日に路地裏で会った女性なんだけど、顔見知りだからって男女同室にするなんて事ある? 前に会った時と違って変に興奮してるのも怖いよ!
檻の外にいる見張りの人が真剣な顔付きで会話の内容を記録しているし……これは多分あれかな、僕がうっかり彼女達の仲間だって言い間違えるのを待ってる感じかな。僕の味方はどこ……?
狙い通りの失言をしてあげるつもりは一切ないけど、ハッピーについての認識は改めてもらわないとね! 僕の守護獣は品行方正で清廉潔白! 貴族にも存在を認められている召喚獣です!
「違う。彼女は普通の女の子だよ。少し他人と体の作りが違うだけで、すごく優しい子なんだ。世界の敵なんかじゃない」
「……? ……!! そう、ですよね……まだ計画は終わっていませんよね……!」
「あの、話聞いてた? 僕の守護獣は──」
「私、心のどこかで諦めてしまっていました。どこかやりきったつもりになって、もう最後なのだと、全てが終わったのだと思っていました。でも、諦めなければまたいつか好機は巡ってくる、そういう事なのですね……! はい……! いつか必ず再起し、共に世界を滅亡させ……いえ、救済しましょう!」
目に涙を溜めながら迫ってくるのやめてもらっていい? っていうか絶対僕の話聞いてなかったよね。
そういえば前に会った時もこんな感じだったなぁ。人間の本質っていうのは牢屋に入ったくらいじゃ変わらないって事なのかな?
見張りの人が深刻な表情で女性の言葉を書き記しているのが気になって仕方がないよ!
「禍々しい召喚獣……邪教の司教……再起する……やはりそういう事か」
「そこの見張り。私達は改心し、世界を救う事に決めました。早くここから出しなさい」
「黙れ」
「哀れですね。ですが、それも仕方のない事でしょう。司教様の眷属の姿を見ていない貴方には分からないのです。あの流動的に混ざる血肉! 無数に寄せ集められた皮を剥がれた人間の部位! 混沌を体現したあの姿こそが世界を破滅……あぁ、いや、世界を救ってくれるアレなのです」
「血肉……人の体の寄せ集め……他の邪教徒が描いた絵と外見の特徴が一致するな。やはり化け物を使役しているという報告は事実だったか。……『シアワセ村のヘレシーは悍ましい異形の召喚獣を使役しており、捕らえた他の邪教徒の発言からも同組織に所属していた事は確定的である』、と。これで今件について口を挟んできている勢力も認めざるを得ないだろう。おい特級犯罪者ども、二度と元の生活に戻れると思うなよ」
「あ、司教様、お体は冷えていませんか? どうぞ私の服をお使い下さい」
「……」
拝啓、母さん。お元気ですか。
僕は今、守護獣が異形すぎて邪教徒だと疑われてます。
了
────────
後日談(エピローグ)に続きます。
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