数年後

第8話 本音

―――あれから数年が経った。


職場は変わらない。結月は大学を卒業した。子供は居ない。

結月は……僕の横に居る。


「結月、店の買い物行くけど欲しいのある?」

「うん。これ。持って行って。」


結月から付箋を渡された。

僕の性格を理解してるから。

事務所のテーブルの端に貼ってある毎日一個ずつ増えていくほしい物リスト。

付箋がいっぱいになると僕が重い腰をあげる。



「ゆづ。」

「ん?なに?」

「愛してる」


真っ直ぐに結月の目を見て僕はそう言った。


一瞬時が止まった様に感じた。でもほんの一瞬。



「北風さーん。これどーしたらいーですかぁ?」

また日常が戻ってくる。


「これー?どうしたい?食べていいよ!」

「えー。あたし、キャラメル好きじゃないです。」

「そっかー。じゃあ売ろう。どうやって売る?嫌いなんでしょ?美味しそうに見せないと。」

「POP!POPつけたら売れますか?」

「よし!サクッとやっちゃって!日当たり10個売れたら1個あげるよ。」

「いや、キャラメル嫌いです。聞いてました?」

「もしかしたら美味しく感じるかもよ?」

「えー?そんなことあります?」

「知らん。」

「本当にそうゆうとこ適当ですよね。」


こうやって笑って話してるところを見て結月も笑ってる。


その子が事務所を出てまた2人になったところで椅子に座る結月を後ろから優しく包み込んで、


「お前の事本当に大好き。可愛くて可愛くて仕方ない。」

「あたしも。涼太の事大好きだよ。」


結月が僕の腕を掴んでそう返した。



「ゆづ…離れたくない」

「我慢しないで言っていいんだよ?」

「言われすぎたら疲れちゃうよ。」

「そうかな?あたしはそれくらいがいいんだけどな。ずっと待ってたよ。言ってくれるの。」



僕はそれから結月に想いを少しずつ口に出すようにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る