第47話 母の縁が結ぶ、新しい縁
私は赤茶と呼ばれるお茶を飲んでいます。色合いと味から、いわゆる『紅茶』のようなものだと思います。
「まさか、お嬢さんがミリアの娘さんだったなんてねぇ」
目の前でしみじみと言っているのは、私に声をかけてきたベントリーさんです。
「私の方こそ、母と知り合いだとは思いもしませんでした」
ベントリーさんは最初、私のキャスケットについていた『疾風のブローチ』に目がいったそうです。どうも鑑定のスキルをお持ちのようで、綺麗な緑色の魔石を使ったブローチをつい鑑定してしまったのだとか。
――なんだって、こんなお嬢さんが付けてるんだ?
そう思って、私を観察していたところ、マジックバッグの隅にされている木の葉の刺繍に気が付いたのだとか。
「昔、何度か護衛依頼をお願いしたことがあってねぇ」
懐かしそうに言いながら、ベントリーさんは赤茶に口をつけました。
ここは、ベントリーさんの商会のカジャダイン支店だそうです。
あの商人ギルドの受付の女の人が気を使うくらいに大きな商会をやっているのだと、私でもわかります。ちなみに双子は隣の部屋で、メイドさんたちが相手をしてくれています。
「そうか、まさかミリアが亡くなっていたとは知らなかった」
とても残念そうに呟くベントリーさん。
母が独身時代に、よく護衛の仕事を受けていたそうです。
そのベントリーさんですが、ここ2、3年、他国に支店を開くためにワインハイツ王国を離れていたそうです。
国を離れる当時、商隊の護衛を依頼をしようとしたそうなのですが、私が幼いことと長期間国を離れることもあって、断られたのだそうです。
「旦那さんが猫獣人だったのまでは知りませんでしたよ」
まさかエルフの娘が、猫獣人の姿だとは思いもしなかったでしょう。だから、知り合いかどうか、聞いてきたのだと思います。
「……ところで、ロジータさん、商人ギルドで売ろうとした物というのは」
「あ、えーと」
マジックバッグの中を探すふりをしながら、インベントリのリストで無難そうな物を探します。
――レッドドラゴンの爪はまずいでしょ。
――やだ、キングオーガの皮なんてあるわ
――ウォータースネークは、この辺にはいないし
――えーと、えーと。
「こ、これをどうかと思って」
私が取り出したのは、フォレストウルフの魔石です。このフォレストウルフは旧アークライ王国周辺では多数生息していたものです。
テーブルの上に、10個を大きさ順に並べて見せます。
「ほお。フォレストウルフですね」
その中の一つをつまんで、ベントリーさんはじっくり見ています。
「……これは、ミリアの物ですか」
「マジックバッグの中にあったんです。それと、あと、これは売れますか?」
私は一枚の金貨を取り出します。
この国では使えない……アークライ王国の金貨です。
「おお、なんと!」
ベントリーさんは魔石よりも金貨のほうに食いつきました。
「ロジータさん、この金貨は1枚だけですか?」
「え、あ、あと、2、3枚なら……」
「そうですか……」
本当はもっとありますが、たくさんあるとは言ってはいけない気がしたので、そう答えると、とても残念そうな顔をされてしまいました。
どうもアークライ王国の貨幣は金の含有量が多いそうで、かなり価値が高いのだそうです。
結局、フォレストウルフの魔石全てとアークライ王国の金貨3枚、合わせて金貨100枚と銀貨83枚になりました。
アークライ王国の金貨1枚が、ワインハイツ王国の価値で金貨25枚です。魔石も思っていたよりも高く買い取ってくれたので、思わずあんぐりと口を開けてしまいました。
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