第43話 ぽっちゃりおばさんの宿屋に泊まる

 門のおじさんに教えてもらった宿屋は、街外れのとてもこじんまりした宿屋で、これでは大人数の行商人の集団は泊まれないでしょう。


「すみません」

「はい、いらっしゃい」


 馬車を入り口に止めてから宿の中に入ると、ぽっちゃりしたおばさんがにこやかに出迎えてくれました。

 私は怖い顔のおじさんが書いてくれたメモを渡します。


「あらあら、兄さんの紹介なのね」


 ――全然似てないっ!


 内心思ったものの、声にはしません。

 おばさんは馬車の置き場所を教えてくれた後、泊まる部屋まで案内してくれました。

 二階の一番奥で、大きなベッドが一つだけの部屋でしたが、私たち三人でも寝られそうなベッドだったので驚きました。聞いてみると、この部屋は常連の獅子獣人がよく使う部屋なのだそうで、この時期は他領にいっているので開いているのだそうです。

 ちなみに、ここの宿代は一泊二食付きで銀貨4枚。イゴシアの宿屋に比べたらお安くてびっくりしました。

 もう夕飯の時間は始まっているそうで、言われてみれば受け付けてもらっている間、美味しそうなニオイがしていたのを思い出します。食事は一階の受付の奥にあるのだそうで、あのニオイの元はそこからだったのか、と納得しました。


「落ち着いたら、すぐに行きます」

「わかったわ。今日はカジャダイン名物のリバーフォックスの煮物よ」


 リバーフォックスは、この川で獲れる魔魚だそうで、大きさは双子くらいあって、顔つきがキツネのような魚なので、『リバーフォックス』と言われているのだそうです。全然、想像がつきません。

 いわゆる川魚なので泥臭そうですが、名物というくらいですから、楽しみではあります。

 おばさんが出て行ってすぐ、ベッドにのぼりゴロゴロし始める双子は、とっても可愛いです。

 そんな彼らにほっこりしつつ、私の頭の中はマジックバッグの中にある残金のことが浮かんでいます。

 

「早いところ商人ギルドに行って、インベントリの物を換金しないとね」


 まだ若干の余裕はあるとはいえ、途中で買い出ししたり、外食したら、あっという間になくなってしまいそうな気がしています。

 もしかしたら、日は落ちたといっても、街の明るさからも人の通りは多いですし、商人ギルドもまだやっているかもしれません。

 それでも、まずは夕食が優先です。私は双子を連れて階下の食堂へと向かいます。

 こぢんまりした宿屋ですから、食堂もそれほど広くなく、4人掛けのテーブルが4つしかありません。すでに満席の様子でしたが、ちょうど食事を終えた家族連れが席をたったので、すぐに双子たちを座らせました。

 食堂は先程のおばさんだけではなく、もう少し若い女の人もお手伝いをしているようですが、かなり忙しそうです。

 せっかくなので私がテーブルの上に残っていた食器類をまとめてると、サリーが「『クリーン』」と呟きました。

 きっと、私のお手伝いをするつもりだったのだとは思います。

 実際、彼女の魔法で、私が持っていた食器もテーブルも綺麗になったのはいいのですが、テーブルの色が一皮むけたように綺麗になってしまったのです。

 普段使っている物では気付きもしませんでしたが、使い古された物がここまで綺麗になってしまうとは、まだまだ魔法の加減の練習が必要なのだと思います。


「……サリー」

「あ、ごめんなさい」


 双子くらいの年齢で魔法を使うことはないので、それだけで悪い人に目を付けられる可能性があるのです。

 幸いにもサリーの魔法に気付いた人はいなかったようですが、このテーブルの状況は、宿屋のおばさんに説明する必要があるでしょう。

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