第9話 まさかの、49階!?

 広い部屋の大きさは、落ちてきた穴の広場と同じくらいの大きさでしょうか。

 全体的に先ほどまでの通路よりも、明るい気がするのは、真ん中にある魔法陣がぼんやりと青白く浮かび上がっているせいでしょう。


 ――たぶん、あれは転移の魔法陣だわ。


 見覚えのある魔法陣に、思わずニヤリと笑ってしまいます。

 フロリンダ時代、何度も見てきたモノです。ここに入れば、ダンジョンの入口に戻れるはずです。


 ――転移の魔法陣があるのなら、フロアボスの部屋が近くにあるはず。


 転移の魔法陣のある部屋には、フロアボスを倒さないと入ることができません。私は裏口から入ってきてしまった、ということでしょう。だからといって、フロアボスに挑戦などという無謀なことはしません。

 どんな魔物がいるかはわかりませんが、今のHPでは即死でしょうから。

 とりあえず、ここが何階なのか知りたいところでしたが、ヒントになりそうなモノは何もありません。ダンジョンの入り口に戻って、確認の水晶を通せば、わかることでしょう。

 私はそのまま魔法陣の上に立つと『脱出』と呟きました。




 帰還の転移陣の間。かなり広いそこには、ダンジョンの管理を任されている冒険者ギルドの職員のおじさんの他にも、ドロップ品の買取の出張所もありました。


 ――後で、寄ろう。


 そう思いながら、まずは帰還の報告です。


「おや、戻ってきたか……お前さん、一人かい?」

「はい。途中で置いて行かれてしまって……」

「おいおいおい、どこのパーティだよ、まったく……お嬢さん一人でよく戻ってこれたな。さぁ、確認の水晶にギルドカードをかざしてくれ」


 私はコクリと頷くと、まだ真っ新なギルドカードを水晶にかざしました。


「……は?」

「? どうかしましたか?」

「いや……(49階だと!? まさか、水晶が壊れたのか?)あー、お嬢さん、もう一度、かざしてもらってもいいかな」

「はい」

「!? ちょ、ちょっと待ってくれ。おい、まだ、外にいるヤツいるかっ」


 職員のおじさんは、まだ買取の出張所のところにいた冒険者パーティを呼び戻しました。呼び戻されたパーティは、まだ新人を頭一つ抜けたような感じでしょうか。


「疲れているところ悪いな、もう一度、水晶にかざしてくれないか」

「は?」


 パーティのリーダーの若者が首を傾げています。


「いや、故障してないか、確認したいんだ」

「はぁ……これでいいっすか」 

「……(5階……さっきの表示と同じだな)わ、悪かったな。問題ないようだ。協力感謝する。さて、お嬢さん、もう一度、お願いできるかな」

「は、はーい」


 おじさんに言われた通り、素直に水晶にかざしたのですが。


「ああ、やっぱ「なんだとぉぉぉっ!」」


 先ほどのリーダーの若者が水晶の画面を見たようです。

「はぁ!? 49階だぁぁぁ!?」


 ……なるほど。あそこは49階だったのですね。

 随分とショートカットしてしまったようです。 

 若者が職員さんに食ってかかっているようですが、私はこっそりと、『隠蔽』のスキルを発動して、その場をすりぬけました。

 無事にダンジョンから脱出できたので、ホッとしたのは言うまでもありません。


 転移陣の間から出ると、外はすでに日が落ちていました。

 私の住んでいる街までは馬車で1日がかりのところにあります。ここまでは乗合馬車でやってきましたが(自己負担)、この時間ではもう出ていません。

 一応、宿屋もあるにはありますが、私一人では泊めてもらえそうもなさそうです。

 さて、どうしましょう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る