無自覚ヒーロー属性の女騎士百合ハーレム物語

@yuuki009

第1章 籠の中の伯爵令嬢編

第1話 物語の始まり

 その日、私はある仕事をしていた。私の名は『レイチェル・クラディウス』。とある貴族の家に生まれた女だ。しかし私は今、国に仕える騎士として働いている。


 国に仕え、民を守る騎士の仕事に私はやりがいと誇りを持っている。


 しかし……。


「あのっ!私、レイチェル様とお付き合いさせて頂くことは出来ますかっ!?」


 今、私が仕事で護衛していたとある貴族のご令嬢からこんな事を言われてしまった。な、何故だっ!?なぜこうなったっ!?訳が分からんっ!?道中で優しくしたからかっ!にしては彼女は、キラキラした目で私を見つめているっ!そ、それはそう、まるで憧れの存在を前にした時のような……。いやいや待て待てっ!しかし私と彼女は同じ女だぞっ!?それに告白ってどういうことだっ!?


 内心戸惑い冷や汗が止まらない私は必死にポーカーフェイスを浮かべていた。と言うか、周囲では私の部下の女性騎士たちがキャーキャー言ってるしっ!男達は呆然としている始末っ!誰か私を助けてくれっ!と言うか部下のお前達は私を助けろっ!お前等は私がこう言う恋愛とかにめちゃくちゃ弱いの知ってるだろぉっ!?


 しかし私の心の声は彼奴らには届かない。今もキャーキャーしながら『レイチェル隊長、受けるのかな?』、『百合?百合かな?』とか面白そうな顔をしながらこっち見てるしぃっ!ぐぬぬっ!彼奴らぁっ!あとで思いっきりしごき倒してやるぅっ!と私は心に誓いながらも、目の前の状況に戸惑っていた。


 私は騎士としての誇りから、部下に面と向かって『助けて』とも言えず、内心涙目になりがら必死にポーカーフェイスで困り顔を浮かべていた。


 そして私は切実に、切実にっ!思って居た。


 『どうしてこうなったの?』、と。




~~~~

 ここは私の生まれた国、『グロリアス王国』。別名『騎士の国』と呼ばれている国だ。元々は暗君によって支配されていた国を、騎士だった初代国王が打倒し、新たな国家として生まれ変わらせた、と言う歴史がある国だ。


 その歴史もあってか歴代の王たちは国やそこに生きる人々を守るための存在、騎士の育成に力を注いでいた。そのためこの国では騎士である事が一つのステータスのように思われている。平民であろうと騎士として武功を上げれば貴族への取り立ても可能だ。そうしてのし上がってきた新興の貴族も多数存在するこのグロリアス王国。


 私はその王都、『イクシオン』で騎士の仕事をしている。


 王都の一角に構えた家を制服姿で出た私は所属する騎士団、『聖龍騎士団』の詰め所へと向かう。


 その道中。

「まぁ見て、騎士レイチェル様よ」

「本当に、お美しいわぁ」

 道行く人々からの声が聞こえる。私を見つめるご婦人方の褒め言葉は嬉しいが、こう言うのは慣れん。お祖母様譲りの銀髪に、鍛えた体にはそこそこ自信はあるが、こうも褒められると恥ずかしくて仕方が無い。私は顔を少し赤くしながらも平静を装い足早に詰め所へと向かった。


「おはようございますっ!レイチェル隊長っ!」

「あぁ、おはよう」

 入り口で番をしている衛兵に挨拶をしながら私は聖龍騎士団の駐屯地、と言うか宮殿のような建物に入る。


 この宮殿風の建物は、名目上駐屯地となっているが、相変わらず見た目が全然駐屯地ではないんのだ。


 などと思いながら私は真っ直ぐ詰め所の執務室へと向かう。

「おはようございますっ」

「ん?おぉ、来たかレイチェル。おはようさん」

 挨拶をしながら執務室に入れば、部屋の一番奥に居た壮年の男性、制服の上からでも分かるムキムキの体とスキンヘッド、左頬に走る傷が特徴的な『カール・レジエス』騎士団長。


「おはようございます団長。……所で、他の皆は?確か昨日、大規模討伐任務を終えて戻ったはずですが?」

 今部屋には私とレジエス団長しかいない。この聖龍騎士団には聖龍騎士と呼ばれる騎士が在籍している。私や団長もその聖龍騎士の1人だ。そしてこの騎士団では聖龍騎士の名を持つ騎士が小隊長となって大凡20人規模の小隊をそれぞれ率いている。


 この部屋はその小隊長たちが集まる部屋でもあるのだが、今は私と団長しかいない。

「彼奴らなら、今頃宿舎や家で寝てる頃だろうさ。昨日の夜ヘトヘトになって帰ってきたみたいだからな。臨時で今日1日休みにしてやった」

「そうでしたか。それで、今日は何か任務などはありますか?」

「いや。今の所緊急の要請などは無い。なので俺の第1小隊もレイチェルの第5小隊も今は待機任務のままだ。急ぎの連絡があれば伝えるから、今日はとりあえず部下の訓練でもしてやれ」


「了解しました。失礼します」

 そう言って私は敬礼をして部屋を出た。


 さて、今日は特に任務が無いと言う事だし、訓練でも。などと考えていると……。

「あっ!おはようございます隊長っ!」

「ん?あぁおはようマリー」

 駆け寄ってくる私と同じ制服姿の女性。彼女の名は『マリー・ネクテン』。私の直属の部下であり副官のような存在だ。


 茶髪のショートヘアを揺らしながら駆け寄ってきて、私の前で敬礼するマリー。

「早速ですが隊長、今日のご予定は?」

「特にない。レジエス団長からの指示は待機だ。ただ、先日の魔物討伐で疲労しているであろう他の小隊は軒並み休暇扱いとなっている。そのため緊急時には我々が対応しなければならない。なので各員には準待機と伝えておけ。それと午後に訓練を行うつもりだ。その事を皆に伝えておいてくれ」

「了解しましたっ!失礼しますっ!」

 笑みを浮かべながら敬礼をし、足早に去って行くマリー。


 彼女を見送った私は一度、小隊長各員に与えられている部屋へと向かった。そして、自分の部屋に入ると私は壁に立てかけられていた1本の剣を手に取った。


 この剣は『聖剣』。この国に12本しか存在しない剣だ。かつてこの国を襲ったと言われる漆黒のドラゴン。それを撃ち倒し得られた爪を素材として作られたと言われている聖剣。 聖龍騎士団の小隊長は私を含め、全員がこの聖剣を持つ事を許されている。


 聖剣を持つ事の重圧はいつも凄まじい。毎日毎日目にしているのだが、やはり聖の文字を冠した武器という事か。ただの剣ではないオーラをいつも感じている。


 私はスラリと聖剣、『ツヴォルフ』を鞘から抜く。そして日課の手入れを始めた。私は日課として聖剣ツヴォルフの手入れをしている。戦場では共に敵と対峙し倒す相棒のような存在だ。やはり手入れは欠かせんな、うん。



 その後、ツヴォルフの手入れを終えた私は再び鞘へ戻すと腰に下げ、部屋を出て修練場へと向かった。


『ドッ!ドゴッ!』


 修練場に付けば、騎士達が木剣を手に模擬戦をあちこちで繰り広げていた。とはいえ、小隊の大半が休みなのでいつもより人数は少ない。

「あっ!レイチェル隊長っ!おはようございますっ!」

「おはよう、精が出るな」

 私は鍛錬をしていた騎士達の挨拶に答えながらも、適当に空いているスペースへと向かう。


 さて、周囲に人も居ないし、ここなら良いか。


「スゥ、ハァ」

 私は呼吸を整え、目を閉じてツヴォルフの柄に右手手を添え、左手で鞘を押さえる。


 イメージする。私は敵を。ぼんやりと敵の姿が瞼の裏に浮かぶ。そして……。


「ッ!」

 一気にツヴォルフを抜き、イメージし浮かべた敵と斬り合う。振るわれるツヴォルフが空を切りながらイメージの敵を切り裂く。


 そして、最後の敵を切り捨て鞘にツヴォルフを戻す。

「……ふぅ」

 一息つくように呼気を吐き出す、が……。


『『『『パチパチパチッ!』』』』

「流石ですレイチェル様っ!」

 拍手の音と声が聞こえたので振り返れば、そこにいたのは私の部下の女性騎士たちに、レジエス団長の部下の騎士達が私の方を見て拍手をしていた。


「お見事でした、お姉様っ!」

「お前達はまた」

 何やら頬を赤く染め、私をお姉様と呼ぶ部下に対して私の方はげんなりしていた表情を浮かべざるを得なかった。


「見るのは構わんが、手を動かせっ。私を見ているだけでは強くなれんぞっ!」

「「「「は、はいっ!」」」」

 私が一喝すれば、男性騎士達がすぐさま木剣で打ち合いを始めた。


 しかし一方で私の傍に寄ってくる女性騎士、つまり部下たち。

「流石ですねお姉様っ、相変わらずの素晴らしい剣技、惚れ惚れしますっ♪」

「お世辞は良い」

「そんなっ!お世辞じゃないですよっ!ねぇ?」

「はいっ!私達の多くは5年前のレイチェルお姉様の活躍を耳にして騎士を目指したんですからっ!」

「「「「その通りですっ!」」」」


「……ハァ」

 私は部下たちの言葉にため息をついた。いやまぁ頼りになる部下なのは間違い無い。それに女と言っても聖龍騎士団に所属している実力は確かな物だ。そこいらの暴漢程度ならば素手で簡単に制圧できるくらいには私が鍛え上げた。


 しかし……。

「お姉様?どうかされましたか?」

「あぁいや、何でも無い」

「少しお疲れのようですねっ!良ければお風呂でもご一緒にいかがですかっ!?私達一同、マッサージには多少の心得がありますからっ!」


「えっ!?い、いやそう言うのは良いっ!それより午後は訓練をするからなっ!忘れるなよっ!」

 私はそう言って足早に彼女達の側を離れた。そのまま私の部屋に向かうのだが、ハァ。やっぱり慣れん。


 私の指揮する第5小隊は、他の小隊と比べて半数以上が女性騎士だ。元々私が聖龍騎士団に入ったのは5年ほど前。当初部下の全員は男性だった。しかし聖剣持ちの隊長とそれが率いるチームともなれば、当然それに見合った危険度の高い任務が多い。そのため負傷による離脱や、苛烈な戦いで精神を病む者、結婚し子供が生まれたからもっと安全な部署へ行きたい、などなど色々な理由もあって人材の入れ替わりが激しい。


 だから、なのか気づけばいつの間にか部隊の大半が女性騎士になっていた。それが別に悪い事、と言う訳ではないのだが、彼女達の私に対する接し方がラフ過ぎるのだ。今だって一緒の風呂に誘われる始末。


 しかし風呂に誘われたのは今日だけでは無い。過去に何度も誘われてるし、前など……。


『お姉様って胸以外に大きいんですねぇ~。着痩せするタイプなんですか?』

『バッ!?馬鹿者っ!胸なんてどうだって良いだろっ!』

『よくありませんよっ!お姉様には小さい子たちの絶望は分からないんですかっ!』

『い、いや、サイズを気にしている者達がいる事は知ってるが……』

『じゃあ彼女達の願掛けって事でその胸を触らせてあげて下さいっ!』

『ちょっと待てっ!どうしたらそうなるっ!って、こ、こらっ!勝手に触るなぁっ!』


 と、まぁ風呂で色々弄られた事があるのだ。あの一件以来、詰め所の風呂は入りづらいし。まぁ彼奴らも悪気があるわけでは無いのだろうが、如何せん自分より年下の友人など居た事が無い物だから、彼女達の対応にも困ると言う物だ。頼りになるのも事実だし、大切な戦友でもある。加えて陰湿ないじめ、と言う訳でもないから本気で怒る気にもなれず、かといってスキンシップには過激過ぎるし。


 一番の問題は、慕ってくれている事である。私自身慕われて悪い気はしないが、彼奴らの場合、それを通り越して心酔とか崇拝に近い。おかげで隊長達は基本的に小隊長とか、隊長と呼ばれる中、私1人だけ一部の部下からは時折『お姉様』などと呼ばれる始末。……前に『隊長としての威厳に関わるからやめてくれ』、と言ったら本気で泣かれた。それも数人に。まさか泣かれるとは思ってなかったから、『もうそんな事言わないから』って言って宥めたのだが、それも不味かったのか。


「ハァ。……人付き合いというのは、難しい物だな」


 と、私はため息をつきながら部屋に戻った。



 数時間後、昼食を挟んだ午後。私は訓練場で部下たちを相手に訓練をしていた。

「はぁっ!」

「打ち込みが甘いっ!その程度では敵の防御を崩せないぞっ!」

 打ち込んでくる部下の木剣を自分の木剣で軽くいなして弾く。


「そこだぁっ!」

「甘いっ!敵が敢えてスキを見せていると考えてから行動しろっ!あと叫ぶなっ!」

『バコッ!』

「イテェェッ!!?」

 軽く(?)頭を木剣で叩いて向かって来た奴を倒す。


 そうやって私は自分で部下の相手をしながら各々の弱点や得意な動き、戦い方などを見ていく。これが私なりの訓練だ。


 そして一通り訓練が終わった後。

「あ、あのっ!」

 ぽつんと1人、訓練を見ていた新人が私に声を掛けた。

「待たせてしまったな。キース」

「い、いえっ!レイチェル様の剣技を間近で見られて何よりでしたっ!」


 私を前にしてガチガチに緊張した様子なのは、新人のキース。彼は元々私の部下の実の弟だ。彼の兄は私の部下だったのだが、結婚を理由に聖龍騎士団を離れた。代わりに、と言って聖龍騎士団とは別の騎士団で働いていた弟のキースを推薦してきたのだ。


「そうか。ところでどうだ?私や彼等との訓練風景を見て。何か思った事はあるか?」

「は、はいっ!レイチェル隊長は、いつもこのような訓練をされているのですか?1対多数で?」

「あぁ。この方が部下たちの動きのキレを直に見られるからな。それに常日頃から共闘の訓練をしておけばいざ戦場に出た時でも仲間の動きを理解した状態で戦える。これが私達第5小隊の訓練だ。分かったか?」

「はいっ!」


「よし。良い返事だ。とは言え……」

 後ろを振り返ると、そこでは息も絶え絶えな部下達が地面に転がっている。

「少し休憩を挟んだ後、訓練を再開する。キースにはその時から入って貰う」

「はいっ!」

「お前達もそれで良いなっ?」

「「「「「は~~い」」」」」


 と言う事で、一度休憩を挟むことに。私も息こそ上がっていないが少し汗を掻いた。タオルで汗を拭おうとしたのだが……。

「っと、しまった。部屋に置いてきてしまったか」

 どうやら忘れてしまったらしい。

「すまないが少し部屋へタオルを取りに行ってくる。お前達はそのまま休んでいろ」


 と、部下に言って私は部屋に戻り、タオルで汗を軽く拭うと再び訓練場へと戻った。


「あ、あのっ!皆さんはレイチェル隊長の下で戦っていて長いんですか?」

 廊下の角から出ようとしたが、ふとキースが他の面々と話している声が聞こえた。ここは、アイツと他の奴らが交流する良い機会だろう、と思ったので私はしばし廊下の角で待つ事にした。


「そうだね~。私はもう、2年くらいになるかな~」

「あっ、私は3年かな。……って言うかもう3年か~。長いよ~で短いね~。って言うか、キースってどうしてウチに配属になったんだっけ?」

「あっ、それは兄の紹介で。兄が結婚を理由に引退すると言うので、代わりという事で兄の紹介で」

「あ~~。そう言えばそうだったね~」

「はい。それでその、俺は兄の紹介なんですけど、逆に皆さんの方はどうしてこの第5小隊に?何か理由とかあるんですか?」


「理由ねぇ。俺はまぁ欠員が出て、たまたま大会で良い結果出したからって理由だったな」

「俺もだな。戦いで欠員が出たから別の騎士団から補充で、って事でよ。まぁ男の方はそんなもんさ」

「へ~~」


 キースが聞いてた話の通り、確かに望んで第5小隊に来る男性騎士は珍しい。しかし一方で女連中は……。


「じゃあ、女性の皆さんの方は?やっぱりレイチェル隊長に憧れて?」

「そうだね~。隊長は聖龍騎士団始まって以来の最初の女性隊長だからねぇ。やっぱり憧れるわぁ」

「そ~そ~。私達ほぼ全員、それで騎士目指したような物だからねぇ~」


「へ~~。やっぱり凄いんですね、レイチェル隊長って」

「そりゃそうよっ!」

 キースの何気ない一言。あぁ、しかしそれが彼奴らに火を付けてしまった。


「なんてたって女性初の聖龍騎士団の小隊長っ!優れた猛者を選出する2年に一度、この王都イクシオンのアリーナで開かれる決闘大会っ!聖龍騎士団の入団条件は、並み居る猛者を倒して大会で好成績を収める事っ!そして5年前の大会で、史上初女性の参加者でありながら、同時に女性初の優勝者になった隊長っ!そりゃ女なら誰でも憧れるでしょっ!」

「「「「「うんうんっ!」」」」」


 こ、この声はマリーか。アイツ私が褒められるの苦手なの知っててペラペラと。うぅ、ホントあぁ言うのは苦手なんだ。褒められると顔が赤くなってますます恥ずかしくなる。


「でも隊長の魅力はそれだけじゃないっ!私は知ってるっ!隊長の魅力の数々をっ!例えばそうっ!私が風邪を引いて宿舎で休んでいた時、お見舞いにって果物持ってきてくれたけど、包丁持った事無いからリンゴの皮むきが上手く行かなくて涙目になってた所っ!」

「「「「「可愛いギャップ萌えっ!!」」」」


「それと、実は下戸でお酒にメッチャ弱いっ!そして酔うと泣き上戸になってメッチャ泣くっ!それもまた可愛いっ!」

「「「「「クールな見た目に反してギャップ萌えっ!」」」」」


「あとあとっ!仕事は出来るし強いけど、でも家事が下手っ!なので王都の自宅には侍女さんが居て、しかも頭が上がらないらしいっ!」

「「「「「普段は強いけどお家では弱いっ!それもギャップ萌えっ!」」」」」


「ッ~~~~~~~~~~~~~~!(※声にならない声)」


 あ~~~~彼奴らぁぁぁぁぁっ!私はタオルに真っ赤な顔を埋めながら思いっきり叫びたかったっ!と言うか彼奴らっ!私のプライバシーをベラベラと喋りやがってっ!


「へ、へ~~」

 そしてキースッ!お前何を引いてるっ!?まさか私が家事も完璧な女だとでも思って居たのかっ!舐めるなよキースっ!私の家事の出来無さをっ!


 って、そんなバカな事を考えている場合ではないっ!マリーめ、まさかこれ以上何か余計な事を言わないだろうなっ!?


「そして極めつけがっ!実は部屋にはたくさんのぬいぐるみが……」

「それだけは言うなぁっ!」


 咄嗟に廊下の角から飛び出して、反射的にマリーの口を塞いだ。

「「「「た、隊長っ!?」」」」」

 突然の私の登場に男性諸君が狼狽している。しかしそんな事はどうでも良いっ!


「マリー、貴様には常日頃から言ってると思うが、早々何度も隊長のプライベートを暴露するなっ!威厳に関わるんだぞっ!?ちょっとは私の体面という物を気にしろっ!」

「ん~ん~!!ぷはっ!良いじゃ無いですかっ!隊長は可愛いんですから、その点をもっと周囲に宣伝すべきですっ!」

「そんな事を頼んだ覚えは無いしお前は私が実は恥ずかしがり屋なの知ってるだろっ!お前が私のあれこれを話すから、団長や他の奴らに残念な女みたいに見られるんだぞっ!」


「だから大丈夫ですってばっ!仕事も出来て強いけど実は家事が苦手で恥ずかしがり屋な女性だって、十分需要ありますからっ!ギャップ萌えって知らないんですかっ!?」

「そんな萌えは知りたくも無いし需要って何だ需要ってっ!?とにかく今後変な事を新人に吹き込むなっ!」


「それは出来ませんっ!レイチェル様ファンクラブのメンバーとして、レイチェルお姉様の素晴らしさを広めるのが私達の仕事ですからっ!」

「お前の仕事は騎士として民と国を守る事だろうがっ!」

「大丈夫っ!現在進行形で兼業出来てますからっ!」

「そんな兼業は今すぐ止めろっ!!!」



 うぅ、部下数人が私の理解が及ばない変人だ。これは誰かの陰謀か?誰だ、私の部下にこんなのを送り込んできた奴は。あぁ、今日も頭が痛い。



 確かに頼りにはなるが、相変わらず変な方向に暴走する部下に、私はいつもため息をついているのだった。



 とまぁ、そんなこんなでヘンテコな部下たちを率いつつも私は騎士としての仕事をしていた。


 そんなある日。

「あっ、隊長。レジエス団長が呼んでますよ」

 訓練場で部下達を相手にしているとマリーが来た。

「ん?私に呼び出しか?」

「はい。何でも急ぎの任務が入ったとかで」

「任務?」


 穏やかじゃ無い単語だ。私は小さく眉をピク付かせる。念のためか。

「マリー、今すぐ全員を集めて第5会議室で待機しておけ。任務の内容が分からない以上、確証は無いが急ぎとなるとすぐに詰め所を立つ可能性もある。私も任務の内容を聞いたらすぐに会議室へ向かう」

「了解ですっ!」


 私の言葉にビシッと敬礼をするマリー。私はすぐさまレジエス団長の待つ執務室へと向かった。

「失礼します」

「あぁレイチェル。待ってたぞ」

 中に入ると私以外にも聖龍騎士数人が居るが、今は気にしていられない。


「マリーから聞きました。急ぎの依頼との事ですが?」

「あぁ。実は伯爵家から緊急の依頼が来ていてな。それもお前を指名しての事だ」

「私個人を?」

「あぁ」

 団長は頷くと近くにあった依頼の書かれた書類を私に手渡した。


 素早く内容に目を走らせる。任務の内容は、私と私の第5小隊に対しての護衛任務を頼む物だった。護衛対象は名家の貴族令嬢。それを実家から目的地まで護衛し、更に目的地で護衛。そして目的地から実家に戻るまでも護衛して欲しいと言う。


「どうだレイチェル?引き受けて貰えるか?ダメそうなら、適当に理由を付けて断っておくが?」

 と、団長は言ってくれる。と言うか、団長からすればこの程度の任務は聖龍騎士の仕事ではない。そもそも本来ならこう言った警護任務を専門とする別の騎士団が存在する。聖龍騎士とそれが率いる小隊は、国内でも最高戦力と呼べる武装集団だ。普通に考えればこんな任務、我々が受けるような任務ではない。が、しかし……。


「幸い今の所、これと言った問題はありません。それに私個人を指名してきたのも引っかかります。なのでこの任務、受けようと思います」


 わざわざ私を指名した意味があるはずだ。それも気になるし、それに私は騎士だ。この国に生きる人々を守る使命がある。頼られた以上、それを無碍にする訳にも行かないしな。


「分かった。ならば明日の朝、小隊を率いてイクシオンを出立しろ。目的地は王都から東へ行った『フェムルタ伯爵領』だ。軍の馬なら明日の内にはたどり着くだろう。こちらで依頼を受けた事と、明日中には付くだろうと伝書鳩を飛ばしておく」

「ありがとうございます。では、任務を拝命いたします」



 こうして私は一つの任務を受けた。……しかしこの時の私に知る由も無かった。まさか、『あんな事』になるなんて。


     第1話 END

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