贈り物は君と
時は12月。数多の英傑達が覇を競う群雄割拠の乱世が云々。気温の移り変わりが激しい今日この頃でございますが、皆様はお風邪を召したりしていらっしゃらないでしょうか?
暖房の効いた快適な教室でのお勤めも終わり、今年は高校生となって初めてのクリスマスをじき迎えることになる賢くんことわたくしは、当たり前のことながら入学早々ハーレムを築き上げてウハウハのホワイトクリスマス(意味深)を過ごす訳なのですが、まさか12月に入っておいて未だに予定無しのクリぼっちの可哀想なお兄さんお姉さんいるうう?いねぇよなぁ!!
「賢くん」
「何じゃらほい」
そんな、世界が始まりを告げるよりも以前から確定された未来に心躍らせる俺の背後からにゅっと生えてくるのは、ハーレムとは別枠、幼馴染枠の月城志乃ちゃんことつっきーである。つっきーは何が楽しいのか知らないが、とてもご機嫌にニコニコ笑っている。いやいつも笑っているんだけど。
その笑顔のまま俺にのしかかると、人の胸元を指でぐりぐりしながら耳元で瑞々しい小さなお口を動かした。
「クリスマスを一緒に過ごしてくれるっていう『きゃわいいちゃんねー』は見つかった?」
「……………………………………………………まあな!!」
「ふぅん?」
はー困るわー俺を好きな女の子が多すぎて困るわー。もうこんなん幼馴染が強かじゃなくてハーレムがしたかぁ(方言)だね。タグにハーレム追加しとこっと。後、ざまぁと追放と無双とチートと……。
「ふぅ〜ん??」
「……」
し、主人公最強と異世界転生と婚約破棄とBL…………。
「まあ、いた、かも、いた、様な?……いて…ほしい………」
はい何もかも嘘ですごめんなちゃい。謝ったから許して。
え?許さない?うわ心狭ぁ。許し合うことこそが最初の第一歩なのに。そんなんだからぼっちなんじゃないんですかぁ?…あ、ごめん拳は止めて?
…はあ〜あ。『俺と過ごせるものはおるか!』って吠えたら誰か馬岱みたいに『ここにいるぞ!』ってな感じで名乗り出てくんないかな。いや馬岱が来たら困るけど。馬岱とのラブロマンスなんて望んでないけど。
「魏延×馬岱なのか、馬岱×魏延なのか…それが問題だ」
「…何を言ってるのか果てしなく分からないけどバターは塗るから攻めなんじゃない?」
「自分色に染め上げる俺様系武将だったということか…」
「うんうんそだねー」
如何にも軽く流してそうな声を出す依然としてご機嫌な志乃をそっとどかして、顔を背ける形で机に突っ伏すと、俺は深い深い溜息をつく。
「…何故だ…何故、俺と熱いクリスマスを過ごそうZE☆と言うと、皆こぞって『は?』みたいな顔をするんだ…」
「ZE☆じゃなくてYO!な気分だったとか?」
多分言い方の問題でもない。ちくそうYO うキャ共め。
思春期の女の子並みに繊細なグラスハートを言葉のサバイバルナイフでズタズタに切り裂かれた末、最終的にもう男でもいいやと思って友人の星野くんや穂村くんにも声をかけたら彼らにすら『は?』どころか『お ま え さ あ …』て顔されちまったよ。ドウシテ…。
…全く、皆照れ屋さんなんだから。もっと賢くん大事にしよ?賢くんは負のオーラが溜まりすぎるとクリスマスを一緒に過ごす男女のカップルをひょっとこのお面を着けてひたすら無言で追いかけ回すブラックサンタになっちゃうんだから。いいの?それで。ええよって言ったそこの貴方。クリスマスは夜道に気をつけてね。振り返ったら……………そこにいるぞ!
「もう諦めていつも通り私で妥協しちゃえば?」
「妥協だと思った覚えはとんと無いが、たまには新鮮な気持ちを味わいたいじゃない?」
「病人食ばかり食べてると濃い味のものが欲しくなるみたいな?」
「何かさっきから微妙に卑屈だな?」
何だ。俺は何か悪いことでもしたのか。周りの女子が聞こえる様に溜息ついてくるし、向こうにいるヒナが……いや、あいつは友達とジェンガに夢中で特に気にしてないわ。ていうか教室でやるかね普通。僕も誘ってよぉ。
「私と一緒に過ごすと美味しい料理がついてきますよ旦那〜」
志乃は俺の顔の前に回り込むと、その細い指で俺の頬をつんつんつっ突いてくる。それを俺は頬を膨らませるぷんぷんディフェンスで跳ね返す。どう?可愛い?え?キモい?それはそう。
「まあ、夜はそれでいいんだが」
「夜は確定なんだ………」
?何故か志乃が黙り込んでしまった。どうせ俺ん家に集まるんだから、ヒナやら姉ちゃんもいるだろうに。当たり前が逆に刺さるというやつか。
これはちょっと珍しいのでは?と早速顔を覗き込むべく近づけたら、親指と人差し指の間で目を強打された。馬鹿な…!これは虎口拳…っいつの間に……!?
「前が見えねえ」
「こほん。何か私がいると随分都合が悪いみたいだね?」
「……そんなことは無いぞ」
「声が上擦ってるぞ?」
上擦ってないぞ↑?
別にね、決して、クリスマスを目前に控えておきながらこの賢一、幼馴染に渡すクリスマスプレゼントが選べないとかそういうことは一切無くて、この際縋る思いでクラスメイトの誰でもいいからプレゼント選びに付き合ってくださいと頭を下げた事実なんて一切合切無いんです。無いんです、がぁっ。…何で皆『それこそ一緒に探せや』みたいな反応するかなぁ。いいじゃんサプライズ。
…去年は試験勉強で忙しい中『せっかくならロマンチックなものが欲しいなぁ』って言う志乃のご要望に応えて封印されしエグゾ某あげたら年末年始の課題が爆増するという憂き目にあったからな。何でだろうなぁ浪漫溢れる我ながら素晴らしいチョイスだと思ったのに。ヒナは滅茶苦茶羨ましがっていたのに。
まあ、おかげさまで今年のハードルは爆下がりどころか地中突き抜けて冥府まで埋もれた訳だが。だがそれが逆に困る。ウケ狙いが禁じられたら賢くんは置物でしかない。
…タイムリミットは精々、夜まで。それまでにクリスマスプレゼントを選べなければ、待っているのは………待っているのは………志乃の『あ、そうなんだ』っていうなんてことのない顔。
え?じゃあええやんって?分かってないなぁ。このなんてことのない顔が重要なのだ。怒ってもない、悲しんでもない。まるで俺のプレゼントは二の次とでも言わんばかりのその態度。まるでまるで俺と過ごせればそれでいいとでも言わんばかりではないか。ばかりではないか。」
「ばかりですよ」
「心を読むな」
「後半口に出てたよ」
「……」
…本当は分かっている。志乃が何を望んでいるかだなんて。
けれども、けれどもだ。高校生にもなっていつまでも同じ流れに、優しさに甘んじるだなんて、志乃が許しても俺が許せない。だってオラはエンターテイナーだから。
…たまには『わお』って言わせたいではないか。言わせたかった。
「…そういうちゃん志乃はクリスマスに共に熱いあばんちゅ〜るを過ごす相手はいらっしゃらないので?」
だからせめてもの時間稼ぎにこんな思ってもないことを言ってしまうのですが。
「ん〜。残念なことに必死にアピールしているのにつれないんだなぁこれが」
「へー随分失礼な野郎だな。そんな奴、お得意のあれでもかましてやれよ」
「『そういうとこだよ』?」
「そういうとこだよ」
「そういうとこだよ」
「……………」
あいにくと、この幼馴染はバリア貫通の特殊効果を有しているので、生半可な逃げは通用しないのだ。こりゃ参ったね。大会では間違いなく禁止カードだろう。
「けーんくん」
「う」
「……ね?」
『もういいでしょ?』とでも言いたそうな寂しそうなお顔を見せながら手を握られては、俺も遂に観念せざるを得なかった。
「…志乃」
「なぁに?」
「今年、まだプレゼント用意出来てないんだ」
「あ、そうなんだ」
出ぇたぁ!
予想に違わぬ、特に何とも思っていなさそうなお声。
続いて出てくるであろう言葉はいとも容易く予測可能。『別に私はプレゼントいらないよ?』。これである。低確率で『君がいれば』が頭につく可能性もある。これはクリティカル判定になるだろう。俺に。
「き「だから」うん?」
なので、ダメージを食らう前に先に封じ込ませるとして。
「……せっかくだから、プレゼント、…一緒に探しにいかないか?」
「………ふふ」
視線を少しだけ逸らしながら、俺は毎年恒例の誘いを口にする。
視界の端で身体を揺らす志乃から聞こえるのは、何とも柔らかな笑い声。これも毎年恒例。なのに懲りないし、飽きない。
「…はい、喜んで」
「…おう」
「ふふ。おう、だね」
返事を聞いて、また突っ伏そうとした俺の額を志乃が人差し指で持ち上げて上向かせる。眼前に現れた幼馴染のお顔は……まあ、言うまでもないだろう。
こうして俺達は何か木製のものが崩れ落ちる音と悲痛な絶叫が響く教室を後にして、例年通り違われない約束と共に、一足早くイルミネーションに彩られた町へと繰り出していくのであった。
「……お高いものは止めてね」
「皆よく食べるし新しい包丁欲しいんだよねぇ…」
「悩みが主婦……!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます