第14話

この日から、僕の中でなにかが弱まってしまった。大切にしていた何かが、弱まったバネのようになってしまって反発する気力がなくなってしまった。惰性のように生き、何も考えず同じ作業を繰り返す機械人形。それが会社での僕だ。ある意味、この体は僕を守ろうとしてくれているのかもしれない。いつまでも反発していては、いつかは僕が壊れてしまう。そうなる前に、ということだろうか。

起きる、仕事をする、怒られる、仕事仕事、帰宅、寝る

起きる仕事する怒られる仕事仕事帰宅寝る

起きる仕事する怒られるしごとしごときたくねる...

いつまでこの生活は続いていくのだろうか。また朝が来て、鏡を見ると冴えない、疲れ果てた自分の顔が写っている。最初に見たときとは違う、目と姿に違和感がなくなった自分。ああ、この旭川祐介もきっと今の僕のような生活を送って、今の僕のようなことを考えていたんだ。精神までこの体になじんでしまった「僕」は誰なんだろう。

かろうじてまだ続けている、「いってきます。」を言って家を出る。今日は晴れだった。明るくて、まぶしくて、暖かいような日。僕の影が僕の後ろに、薄く、今にも消えてしまいそうにある。電車に乗る。ひたすら、人様の邪魔にならないようにカバンを抱え、下を向く。電車を降りる。あるき出そうと思うとふと、鳥が目に入った。決して可愛いとも美しいとも言えないとり。しかしそこに、かつての自分を見た。太陽を翼で受け止め、力強く羽ばたいていく姿。しかし夜に飛ぶと闇に呑まれてしまうことを知るべきではなかった。呑まれたものだけが知る、闇の中。僕は無理やり鳥から目を背けると、会社に向かって重い一歩を踏み出した。

また一日を消費し終わった。今日のことは業務以外特になにも覚えていない。

本当に疲れた。疲労などではなく、この体に、暮らしに、人生に。もう、やめたい。すべてなげすててしまいたい。ため息も出ず、僕はベッドに寝転がって目を腕で覆った。やはり最後に見たのは、代わり映えのしない、いつもの知らない天井だった。

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