回復魔法は(俺以外にとって)最高!
トリの街にやってきて、ソルとセッテは装備を整えた。
そこで、ダンジョンへと向かうことに決めた。
気になったので、エリカに占いの結果を聞いてみる。
「クリスさんには良いことがあるです。楽しみにしていてくださいです」
とのことだ。内容を説明されないことが、期待感を増している。
エリカが気を使ってくれたのだろうな。ありがたいことだ。
これからの冒険に、今すぐ向かいたくなっている。それでも、しっかりしないとな。
まずは、ミリアとのブリーフィングだ。俺が知らない情報を知っている可能性は当然あるし、ソルとセッテにだって大事な話だからな。
冒険者組合に向かい、話を聞いていく。相変わらずデキる女感の強いミリアだが、俺達との交流のおかげで態度が柔らかくなった感じがあるな。
十分に親しくなれたということなのだろう。ありがたい限りだ。
「では、ザワザワ森について説明していきますね。皆さんはどこまで知っていますか?」
「確か、地形がやっかいなんだよね」
「はい。毒の沼、一帯にあるイバラ、木々のせいで悪い視界、様々な要素が絡んできます」
イバラについては知らなかったな。毒の沼はRPGでよくあるやつだ。
踏み込むとダメージを受けていって、歩くだけでもHPが減る。
それに、視界の問題も大事だ。つまり、敵を見つけにくいということだよな。
「ああ、不意打ちに気をつけないといけないんだよな」
「はい。他にも、敵から受ける状態異常についてはご存じですか?」
「ああ。毒や麻痺、火傷なんかがあるらしいな」
その辺はゲームと同じなのか。現実っぽい仕様が取り入れられる可能性も考えていた。
だが、安心だな。最悪の場合でも、俺のスキルでどうとでもできる。
そもそも、状態異常ではHPは0にならないのだが。
とはいえ、対応策を持っていないと不便だからな。
俺は麻痺を受けていても動けるし、なんなら状態異常を受けている時専用のスキルもある。
「そうですね。治療のためのアイテムは用意していますか?」
「もちろんだよ。備えあれば憂いなしだからね」
なるほどな。だが、いつでも使えるわけではないだろう。俺のスキルの方が手っ取り早い場面もあるだろうな。
「では、後はモンスターです。木々に擬態したモンスター、虫が大きくなったようなモンスターが多いですね」
「はい。木々の方はふいうちに気を付けて、虫の方は状態異常に気をつけるんですよね」
「知っていましたか。ですが例外もありますから、十分に注意してくださいね。以上で説明は終わりです。なにか質問はありますか?」
「ボクは大丈夫です」
「アタシもだ」
「私もだね」
まあ、ミリアの説明の前にも調べるくらいはしていただろうからな。
じゃあ、これからは冒険だ! どんな楽しみが待っているかな!
俺達はザワザワ森へ向かっていく。
聞いていた通り、そして知っていた通り、環境はとにかく悪い。
毒沼がそこら中にあって、進むためには避けられないこともある。
「ここまでダメージを受けるとはな。今のうちに回復しておくか」
「なら、簡単ですよ。サクリファイスヒール」
ソルとセッテを癒やすついでに、俺のHPを減らしていく。
ここらあたりから、あらかじめHPを減らしておいたほうがいい。
最悪の場合でも即座に本気が出せるようにしておかないとな。無い方が良い事態ではあるが。
「ありがとな。でも、大丈夫か?」
「問題ありません。ボクにとっては都合がいいです」
「なら、いいけど。無理はしないでね、クリスくん」
「はい。無理はしません。ボクだって命は惜しいですから」
そのまま進んでいくと、はじめの敵に出会った。
大きい蝶といった様子で、青い羽と鱗粉が特徴的だ。
こいつは毒を付与してくるんだよな。だが、食らう前に倒しきるのは難しそうだ。
俺のHPが1ならどうとでもできるが、まだそこまでではないからな。
それに、ソルとセッテにだって役割がある。俺が全部こなしてしまっては、彼女達も成長できない。
「カースウェポン。これでどうですか?」
だが、流石に2人だけでは火力が足りない。なので、俺も攻撃に参加する。剣を振るだけではあるが。
カースウェポンは俺のHPを減らしてくれるので、ちょうどいい。
「アタシも、ハイスラッシュ!」
「行くよ。ハイウインド!」
ソルとセッテも剣と魔法で攻撃していく。
だが、敵は鱗粉をまき散らしていく。これで、ソルもセッテも毒を受けた。早めに治療しないとな。
「毒を受け取ります。ポートコンディション」
というわけで、味方の状態異常を俺に移すスキルを使う。
俺は毒状態になるが、ソルもセッテも回復する。ポートコンディションの良いところは、俺が毒を受けていても毒を受け取れるということだ。
だから、使用タイミングを慎重に考えなくて良い。楽なスキルだ。
そのまま同じ事を何度か繰り返して、敵を倒していった。
やはり、トリまで来ると敵が強いな。一筋縄ではいかない。
そんな事を考えていると、突然後ろから声をかけられた。
「そちらの男の子、癒やしますね~。ハイヒール」
まさか現実で辻ヒールを食らうと思わず、相手の方をじっと見てしまう。
白いローブを着た、金髪碧眼の小柄な女。でも、身長に似合わず胸が大きい。この人も杖を持っている。
せっかく回復してもらってお礼を言わないのも失礼だし、まずはありがとうと言わないと。
「ありがとうございます。でも、ボクに回復は不要です」
「でも~。HPが減っていましたよ? 毒まで~」
「それでも、問題ありません。気持ちは嬉しいですけどね」
「う~ん。わたしもあなたに着いていっていいですか? 心配です~」
トリに一人で来るくらいなのだから、相当な実力者だろう。
それに、俺をわざわざ癒やしてくれる優しい人だし、歓迎していいかな。
ああ、そうか。エリカが占ってくれた楽しいことってこれか。
いいな。確かに期待していた以上の出来事だった。
「もちろんです。ボクはクリス。よろしくお願いしますね」
「パーティに入ってくれるのなら、歓迎するぞ」
「回復魔法を使える人はいなかったからね」
「分かりました~。クリスくんがしっかり元気になるように、私が癒やしますね~」
「ところで、あなたの名前はなんですか?」
「これは失礼しました~。わたしはユミナ。僧侶です」
「これからよろしくお願いしますね、ユミナさん」
新しい仲間も加わったことで、俺達はいったん帰ることにした。
うんうん。完成度の高いパーティができあがった気がするな!
次の冒険の機会が、今から待ち遠しいぞ!
――――――
ユミナはザワザワ森で素材集めをしている冒険者だった。
回復魔法を一通り使えるため、敵との戦闘さえ避ければ十分に環境に適応できる実力者。
いつものようにダンジョンで活動していると、明らかに傷ついている少年を見つける。
そこで、心配になったユミナは回復魔法をかけていく。
しかし、当の本人に癒やしは必要ないと言われてしまう。
まさか、残りの二人が。そう疑ったため、クリスが去った後に二人と話をするユミナ。
「ねえ、クリスくんが回復を拒否する理由、あなた達は知っているかしら~?」
「アタシだって知りたいよ! クリスの過去が関わってはいるんだろうけどな」
「ああ、『肉壁三号』って名前がつけられてたんだよね。本当に、ひどい話だよ」
「えっ……」
ソル達が言い訳をしているわけではないと判断したユミナ。
だからこそ、クリスの過去にどんな事件があったのか、想像を広げていく。
『肉壁三号』という名前だから、モンスターの攻撃を肉の壁として受けていたのだろう。
そして、おそらくは傷ついている自分に慣れてしまったのだろう。
考えを進めるほどに、可愛らしい男の子であるクリスがあわれに思えて仕方がない。
絶対に、自分の力でクリスの心を癒やしてみせる。ユミナは決意した。
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