セカンライノをしっかり倒すぞ!

 前回苦戦したセカンライノを倒すため、俺達は何度かダンジョンアタックを繰り返してステータスを上げていった。

 立ち回りの問題のような気もするのだが、本人達が納得しているのなら、それでいいだろう。

 なにせ、この世界では魔王を軽く倒せる程度のステータスまで上昇させられるから。

 ステータス任せのゴリ押しだって立派な戦術なんだ。それに、最悪の場合は俺がいるからな。


「じゃあ、今日こそセカンライノを倒しましょう」


「そうだな。今回はクリスの手をわずらわせたりしないさ」


「うん。成長した私達のこと、頼ってくれていいからね」


 実際、確かに成長している。前回のセカンライノとの戦いでは、集中力が切れていた様子。

 だけど、同じ時間で討伐までいけるだろう火力を手に入れている。

 そう考えれば、すごい成長速度だよな。ゲームならではって感じだ。

 俺の知っている現実では、一朝一夕で成長などできなかったからな。


「はい。頼りにしていますね。お二人なら、きっと討伐できます」


 まあ、俺も敵を引き付けはするのだが。

 とはいえ、次のダンジョンあたりからは、俺も火力役を担当したほうが良いだろうな。

 別にステータスを成長させるだけでも十分だろうが、今とはかかる時間が違う。

 流石に、ずっと停滞していては心が苦しいだろうさ。本人達が望むのなら、いくらでも付き合っていいが。


「任せておけ。アタシ達がどれほど強くなったか、しっかり見せてやるよ」


「そうだね。クリスくんに頼るばかりの私達じゃないから」


 まあ、別に頼ってくれても良いのだがな。

 それでも、自分たちでできるだけなんとかしようという姿勢は好ましい。

 やはり、お互いに役割を持ってこそのパーティだからな。

 俺に依存するだけならば、俺一人で戦ったほうが良いだろう。


「じゃあ、行きましょうか。大丈夫、きっと勝てます」


 それからアブナイ平原に向かって、もう一度セカンライノと対峙する。

 前回と同じ戦術でも勝てる相手だろうが、実際にはどうするだろうか。

 俺が引き付けてさえいればどうとでもなるから、戦術は二人に任せている。

 本気で攻略するのなら、俺が何かを提案しても良いのだが。まあ、余計なお世話かもしれない。

 どう考えても二人は自分たちの力にこだわっている。今のうちは、見守るのが吉だ。


「まずはボクからいきますね。アピールタイム」


 いつもの流れだ。後は二人がどういう戦いをするのかだよな。

 せっかくだから、全力で楽しませてもらおう。二人の成長がどんなものなのかを。


「まずは一撃、ハイスラッシュ!」


 こちらに近づいてくるセカンライノに先制攻撃。剣が直撃して、敵は頭を振る。

 相手は俺に向かって突進してくるが、横からさらに追加で攻撃するようだ。


「まだまだ、スラッシュ! もう一発、スラッシュだ!」


 ソルは敵に切りつけた後、いったん離れていく。

 そこにセッテの魔法が襲いかかる。竜巻のような強い風だ。


「ハイファイア! 痛いでしょ?」


 セカンライノがひるんだのに合わせて、ソルがもう一発ぶつけていく。


「ハイスラッシュ! スキだらけなんだよ!」


 そこに合わせて、セッテが何度も魔法をぶつけていく。小回りの効く下級魔法だ。


「ファイア! ファイア! ファイア!」


 DPSの感じでいうと、セッテのほうが削りに貢献しているかな。

 でも、ソルの役割だって大事だ。セッテを本格的に狙われると面倒だからな。ヘイトの分散は大事だ。


 同様の作業を何度か繰り返し、セカンライノの動きがにぶくなっていく。

 そこで、二人は新しい動きに入るみたいだ。

 セッテが立ち止まって詠唱していく。上級魔法の準備だな。

 確かに十分倒せそうなくらいに弱っている。判断は間違っていない。


 ソルはセッテの方に敵が向かわないように、ときおり攻撃してセカンライノの気を引いている。

 アピールタイムだって万能ではないからな。ソルの行動はありがたい。

 俺が攻撃に参加すればもっとヘイト管理は楽なのだが、二人は望まないだろうからな。


「こっちを見ろ! ハイスラッシュ!」


 俺の方にも敵は気を引かれていたが、そろそろソルの方に向かいそうになっている。

 アピールタイムを重ねがけするか、ソルに任せておくか。今の耐久なら、ソルでも一撃二撃は耐えられるだろう。

 少し悩んでいると、ソルの方から声をかけられる。


「アタシに任せてくれ! いいかげん、リベンジしたいんでな!」


 そのままソルは敵を引き付けていき、突進攻撃を避けながら自分の攻撃は当てていく。


「ハイスラッシュ! スラッシュ! もう一発スラッシュ!」


 そろそろ詠唱が終わったようで、セッテから魔法が放たれていく。とてつもなく強い炎の竜巻だ。


「メガファイア! これでトドメだよ!」


 その言葉通り、セカンライノは倒れていく。とても大きな威力だったし、このパーティのメイン火力役はセッテで決まりだな。


「流石です、二人とも。ソルさんはうまく敵を誘導してくれましたし、セッテさんはすごい威力の魔法でした」


「ありがとな。これで、アタシ達の強さもハッキリしただろ?」


「そうですね。これからも頼りにさせてください」


「これからもよろしくね、クリスくん」


「セッテさんのおかげで、強い敵も倒せます。パーティに加わってくれて、ありがとうございます」


「どういたしまして。力になれて嬉しいよ」


 俺達は満足感を胸に帰っていった。

 やっぱり、セッテがパーティに入ってくれて良かった。これからも、もっと強い敵でも倒していけるはずだ。

 ソロを選ばなかったからこそ、今の楽しみがある。できれば、次は回復役に出会いたいな。



――――――



 ソルはパーティでの冒険を終えて、一人でたたずんでいた。

 初めはクリスと二人だけのパーティだったのに、いつの間にかセッテのほうが頼りにされている。そんな感覚に襲われて。


「クリスはアタシ達に優劣をつけたりしない。分かっているんだ。そんなことは」


 理性では理解できているはずのことに、感情が追いついてこない。

 いつか、自分は必要とされなくなるのではないか。そんな恐怖から逃げられない。

 今日だって、ソルの攻撃についてクリスは褒めなかった。戦士の本領は、攻撃力であるはずなのに。


「アタシよりセッテのほうが頼りになるなら、クリスはどうするんだ?」


 つまらない嫉妬だと理解していても、どうしても思いがあふれ出して止まらない。

 そんな自分のことを嫌いになりそうで、それでも結局は自分が活躍できないせいだと理解して。


「なあ、クリス。アタシはお前のパーティにふさわしいのか?」


 パーティメンバーにくだらない感情を抱く醜い自分が。いつまでもクリスより弱い自分が。

 言葉にならない思いが、ソルの胸の中で反響を繰り返していた。

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