第97話 誰かの為に

「私はアーシェラ侯爵令嬢の命により、そこな少年の警護と両親捜索の為にこの森へ入った騎士だ。

名をエドガルドと言う」


 エドガルド隊長に名乗られ、子爵家の騎士は姿勢をただした。


「エドガルド卿、改めてご挨拶と状況を説明させていただきます。

私は、アデルタ子爵家に仕える騎士、ドミニク・マウリッツ。

ここにおられるエレオノールお嬢様と結婚したかったら、この森にいるという、ゴールデンエルクの角と心臓を持って来るくらいの功績を上げろとアデルタ子爵様に言われまして、私は一人で来たはずが、お嬢様が勝手に私を追って森に来てしまっていたという……」


「だって! ドミニクが心配だったのだもの! 私はこんな危険な森に挑んで欲しくなどなかった! 

駆け落ちで良かったのに!」


「そ、それで心配で追って来たエレオノール嬢とバジリスクに遭遇して、一緒に石化していたんですね」



 隊長さんの表情がやや引き攣る。



「エレオノールお嬢様! 私に会う前に死んだらどうするんですか!?」


「わ、私にも多少は魔法が使えますので、会うまではなんとかなったんです!

貴方に会えた喜びで、ちょっと、油断したので……」


「どの道二人とも仲良く石化してたじゃないですか〜〜、迂闊なのはどちらもなので、言い争いはその辺で終わらせてくださ〜〜い」


 紗耶香ちゃんが突然ぶった斬った。


「「うっ!!」」



 ピロロン。


 お、ここで私の脳内にもピロロン音が響いた。

 早く家に帰ってレベルアップを確認したい。


 けど、ゴールデンエルク、金色の鹿? か。


「ゴールデンエルクか、私達はこれから森を出る。帰りがけにたまたま見つけたら狩るのに協力しよう。

しかし、君達も、もうこの森を出たまえ。危険だ。

万が一、宿代が無いなら私が出しておこう」


 エドガルド隊長が子爵家の騎士と令嬢に宿に帰れと促す。

 お金まで出してやるなんて隊長さん、マジでいい人!


 そして、一緒に石化していたので、嫌とも言えないお二人だった。

 既に石化して時間が経ってるなら、駆け落ちでも良さそうな気が。


「あの、すみません、今、何年ですか?」



 ドミニク卿がエドガルド隊長に問うた。


「エルム歴で2078年だ」

「エレオノールお嬢様! 我々、石化して三年経ってしまってます!」

「まあ……!! そんなに!?」


 まあじゃねーよ! のんびりしたお嬢様だな!


 でも、愛の為に一生懸命なんだよね。

 まだペンデュラムはこの手にあるし……。


「ゴールデンエルク……」


 私はそう呟いて振り子のようにペンデュラム揺らした。

 一度、それは止まり、それから再び動いた。

 指し示す方向に、ゴールデンエルクがいるみたい。


「方向的にわりと帰り道だし、行くか」



 実は帰り道とは少しずれてるような気がするけど、隊長さんの心遣いだろう。

 ペンデュラムの指し示す方法を見ながら、隊長さんはそう言った。



 私達は「帰り道」にゴールデンエルクを見つけ、狩りを手伝った。


 子爵家の騎士、ドミニクが投げた槍は狙い違わず脚に命中。

 本来なら心臓を狙うが、心臓が必要なので、足を狙ったそうである。



「エドガルド卿! 私達の為に、ありがとうございます! 本当に!」

「このドミニク、この恩は、いつか必ず!」


 エレオノール子爵令嬢とその恋人の騎士ドミニクにお礼を言われる隊長さん。

 隊長さんは頷いてから、配下に向き直って指示を出した。



「彼等が石化していた事は秘密にしておく! お前達もいいな?

捜索に三年と、時間がかかっただけで、令嬢は安全な所で待っていた!」


 さもないと娘を危険に晒したとして、貴重なエルクの素材を持ち帰っても、父親の子爵は結婚など認めくれないだろうという、配慮ですね。


「「はい!!」」


 騎士達と魔法使いも同意した。

 私はペンデュラムを魔法使い殿にそっと返した。



 森の中を徒歩で帰るので、少し息切れしてる両親を気遣うコウタは、かいがいしく途中疲労回復のポーションなどを渡していた。


 そう言えばコウタの両親は30代か。


 ダンジョン脱出みたいな魔法が有れば良かったのにね。

 お昼休憩にバーベキューをして例のお肉にかけると美味しくなるスパイスが活躍した。



 石化していたコウタの両親と、子爵家の二人は伊勢海老から出汁を摂った美味しい雑炊と言う別メニュー。

 安全の為。


「ステーキにこの粉をかけるだけで、ずいぶん美味しくなるな」

「魔法のように美味しくなりましたよ。この粉はどこで買えるんですか?」


「今の所、この調味料はカナデが独自ルートで購入した物で非売品ですが、当方の市場の店や食堂でもこの味の料理は味わえます。が、冬は市場を休み、そのうち食堂を開店します」


 

 コウタの言葉を聞いて、騎士達は非番の日に食べに行くよと言ってくれた。



「コウタの両親も見つけたし、これでしばらくはお前達も大人しくしているんだろうな?」



 ラウルさんが私に向かってそう問うてきた。



「はい、多分。冬は寒いですし、食堂の方の開店準備をする予定です」



 そんな訳でポーションでドーピングしつつ、森を歩き、途中魔法使いが身を軽くする魔法をかけてくれたりして、やっと森の出口まで来た。


 生還!!

 森を出て、私は思いっきり伸びをした。


 もう暗いから、休憩がてらこの森の手前で一泊してから明日の朝、転移陣のある神殿へ向かう。


「「はい!!」」



 冬の星空が綺麗だなぁ。

 などとテントの設営をしつつ思ったりした。



 夕食にはピザとポテトとコーラとケーキなどで生還祝いをした。

 騎士達はコーラと言う真っ黒の飲み物に最初驚いていたけど、ラウルさんもこれ美味いですよと言って普通に飲んでいたので、騎士達もそれを飲んだ。


 結果はピザもフライドポテトもコーラもいちごの生クリームケーキも、大変美味しいと気にいってくれた。


 石化経験組はほぐした鯛の身と出汁を入れた雑炊。

 これも美味しいと好評だった。


 なにせ鯛だものね。



 神殿に着いてから、コウタは老神官に赤ちゃんの涙入りの秘薬が何故効果が無かったのか聞き出していた。



「赤子は無垢です。ですがまだ神に祈った経験がありません。

誰かの為にも祈った事もありません。

故に石化して一年以内なら赤子の物でも効いたでしょうが、石化状態が長かった場合、齢16を過ぎても純潔を守った乙女、過去に数度はいずれかの神に祈った経験のある者の涙の方が、効力があります」


「過去に数度は神に祈っていた……」


 コウタの呟きを聞いた私が反射的に言った。


「あ、初詣? 神社で?」

「え!? そんなんで!?」


 紗耶香ちゃんもそれかあ! と言う顔をした。


 コウタは解せぬ! って顔してるけど。

 私だって誰かの健康と幸せを願って祈った事くらいあるぞ。



 しかし私が二次元にかまけて17歳になっても純潔はナチュラルに守られていた事をコウタは感謝してくれていい。


 リアルの彼氏がいなかっただけなんで、ちょっと恥ずかしいけど。

 ゲ、ゲーム機の中なら彼氏も彼女もいたけどね……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る