第28話 雨の日の営業日

 唐揚げパンも好評で完売が早かったので、仕事終わりにコウタがテントの回収作業中、紗耶香ちゃんとズボンを見に行って、腰周りゆったりめのを購入した。


 ウエストは紐で縛れるからずり落ちる事は無い。


 その後、三人で帰宅して、夕方六時くらいに夕食用にキジで焼き鳥パーティーをした。


「味的には鶏に近くて食べやすいな」

「細い骨が邪魔だけど味は良いじゃん?」


「美味しいけど、これもしかして水炊きみたいに鍋にした方が良かった?」

「じゃあ残りは鍋にしようか?」

「そうだね」


 その日は夜9時くらいから雨が降り出した。

 雨は明日まで続くかもしれないと思った。


「やばい、明日の市場の開店時間まで雨だったら嫌だな」


 紗耶香ちゃんの言葉に同意。


「客足も減るだろうし、雨の日休みたいよね」

「でも急に休むのはな」


「次回からは張り紙と宣伝で雨の日は家の庭か窓から営業って書いて、そういうのダメかな?」


「みんなここ知らないだろうし、俺達が引っ越しでもした後、家主の商人さんに迷惑かけるかもしれない」


 う~~、ダメか~~。

 いつ自分達の持ち家ゲット出来るかも分からないけども~~!


「雨の中、テントの下で調理だるいし〜、冷めても美味しい物でも持って行って、売れたらさっと午前中だけで帰るとかどうカナ?」


「紗耶香ちゃんの意見に賛成。明日天気悪かったら早くあがろう」


「早上がりはいいけど、冷めても美味しい物と言えば?」

「ハムチーズ卵などのサンドイッチとかクッキーとかどう?」

「サンドイッチはともかく、突然クッキーって、おやつになるのどうなんだ」

「考えても見て、この世界、砂糖が高級品、でも我々は……」


 私がそう言いかけた途中で、


「あ! 胡椒売るの忘れてた!」


 コウタの叫びに私と紗耶香ちゃんも今、存在を思い出した!


「「あっ!!」」


「本当だぁ、串焼き屋スタートですっかり忘れてたよネ〜」



「ともかくクッキーとか甘味が嬉しい人はいるはずよ、特に女性」

「それに雨の日に集客狙うなら、スイーツのような甘味の魅力が必要じゃん?」


「でも弁当代わりに買ってる人的には物足りないんじゃないか?」


「食べ物を売ってるのはうちだけじゃないし、その日は他で買えばいいしィ」

「小さいクッキーを何個も焼くのは大変じゃないか?」


「そうかな……あ、ドーナツならクッキーよりは食べた! 

ってご飯代わりにならない? 冷めても食えるし」


 私は喋りながらもスキルの食品系ショップの画面を開いた。


「油を贅沢に使う羽目になるぞ」


「油は唐揚げにだって使ったし、うちらはアイテムボックスで回収も楽に出来るんだし。なんなら今から家で揚げてから持って行くとか」


「じゃあカナデっち、今すぐに作り置きに取り掛かる?」


「あ! ホットケーキの粉! セールだ! 安売りしてる! 神がドーナツを作れと言っているのでは!?」


「セールなら仕方ないよな。作る理由が出来てしまった」


「あ、ねー、カナデっち、あったかご飯に混ぜ込むだけのワカメご飯……おにぎりとかは冷めても美味しいんじゃね? 

甘いの苦手なメンズはこっちでヨローって」


「いっぱいおにぎり握る羽目になるよ? ご飯詰めるだけの箱売りが困難だし、葉っぱで包むおにぎりならイケるけど」


「う、でもドーナツも無限に売る訳じゃ無いし、数量限定でさ~」


「分かった、明日の売り物はワカメご飯のおにぎりとドーナツと胡椒にしよう。それならある程度食いでのあるのを好む人にも対応出来る」


「オッケー。あ、喉飴もセールだ、買っておこう。

明日の雨の日にもわざわざ来てくれた人にばら撒くかな。

その代わり次の雨の日には臨時休業するの許して欲しい」


「ははっ、飴で懐柔しようとしてる」

「でもこの世界じゃ多分、貴重な甘味よ」



 私は混ぜるだけの乾燥ワカメとホットケーキの粉と油と飴を購入した。



「でもやっぱサヤも思ったけど、今度から本気で雨の日は休みって事にしようよ。

土砂降りとかハリケーン中にわざわざ市場に来るやついないっしょ、車も無い世界で」


「まあ、それでも次回からだな、急に予告なしで雨だから店やらなかったでは、な、信用に関わると思う」


「りょ」

「分かった。明日は雨でも営業する」



 * * *



「本日はこの雨の日に、来て下さってありがとうございます。

しかし、当店は次から雨などの悪天候はお休みさせていただきます」



 コウタが率先して言いにくい事を説明をしてくれてる。男気?



「あら、まあ、仕方ないわね、雨だと客も少ないし」

「それで、今日の売り物は何だね?」


「勝手を申して申し訳ありません。本日の売り物はワカメのおにぎりと、甘味のドーナツと調味料でございます。こちらの飴は本日、雨の中来て下さったお客様に特別に無料でおまけとしてお渡ししております」


「まあ! 今日は甘味なの! 雨でも来た甲斐があったわ、子供達に買って行くわ」


「あざす! 甘味は一袋銅貨7枚でっす! 食べた後はしっかりと歯磨きをお願いしゃーっス」



 本日の甘味担当は女子なので紗耶香ちゃんが接客してるけど、何か居酒屋のおにーさんのような口調になってる気が。



「これは、胡椒か、この値段で本当に良いのか? 本当に銀貨5枚で良いんだな!?」


「は、はい。雨の日にわざわざ来て下さったので、本日限定価格で1人一袋限定です」



 やっば! 相場もっと高い!? 胡椒の価格を知らないから!! 

 私達、勘で値段付けちゃった! 

 とりあえず私の独断で本日限定価格で一人一限って言っておいた。



「俺にも胡椒くれ!」

「胡椒私も!」

「胡椒残り全部買う!」


「申し訳ありません、胡椒はお一人様、一袋限定です」

「チッ、仕方ねーな」


 こっわ! さっき一人一限って言ったでしょ! 聞こえなかったフリか!?

 ガラ悪!


「ワカメなんたらはいくらだ?」

「ワカメおにぎりは三個入りで銅貨五枚です」

「買うよ、それと甘味と胡椒も全種類」


「はい、ありがとうございます!」


 胡椒は凄い速さで完売した。

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