第26話 狩人
「ところでさ、私、動きやすいズボン欲しいな。
今は林に来たから下はこっそりパジャマのズボンを履いてるけど」
「そうだね、サヤも着心地はいいけど実はパジャマ用に持って来たダボTにレギンス姿だし、レギンスがぴったりしすぎてこの世界で見た目が浮く」
「ズボンの買い物は後にして、今はせっかく買ったのでパチンコ、いやスリングショットの使い方の練習を行う」
本日、私達三人は早朝訓練で近所の林に来たのだった。
「はい」
私は返事をしながら道すがら拾った石を握りしめた。
「りょ」
「生き残る為だ、野生動物や魔獣などから身を守ったり、糧を得る事も必要になる事もあるだろう」
「あ、あそこに……トカゲみたいなのが木に張り付いてるの発見したよ」
「え、紗耶香ちゃん、どこ?」
「ちょっと緑色の保護色で見えにくいけど、あそこに」
紗耶香ちゃんの指し示す指先を辿って、見つけた。
生い茂る緑の葉の向こうに、確かにトカゲっぽいのがいる。
「あ、迷惑外来種食っちゃおう特集のテレビ番組でああいうの見た事ある」
「よし、外してもいいから、奏、まずあのイグアナっぽいのを狙ってみよう」
「うーん、コウタが先にお手本見せてよ」
そうは言うものの、いきなり外しそうで不安である。
だって、食材になるかもしれないんでしょう?
「俺からか、まあいいか、後で可愛いの出たら狙いにくいだろうからその時に代わろうかと思ったが」
「可愛いのって、うさぎとか鳥?」
「まあ、それ系だな」
そう言いつつ、コウタはスリングショットのゴムっぽい所に石をセットして、引き絞って狙いを定めて……撃つ!
ガツッ!! ──ドサッ!
なんと石は狙いを定めた通り、トカゲの頭部に命中!
「やった! コウタ凄い!」
「凄い! ぱない! いきなり命中した!」
「お、今、ピロロン音が聞こえたぞ」
「マ!? レベルアップ!? 幸先良いじゃん!」
「とりあえず、獲物を回収!」
コウタは木の下に落ちたトカゲっぽい生き物を回収に行った。
「どんな味だろう、鳥肉っぽいのかな? ワニが鳥肉に似た味らしいし」
私はサバイバル漫画も読んでいたので、そんな知識も多少有る。
「そうかもしれな……あ、鑑定!……ヨシ! グリーングアナ。食用可!」
「あ、やっぱイグアナ系か」
「グリーンイグアナはメキシコでも食用になってるそうだし、帰ってから食おう」
コウタはアイテムボックスにグリーングアナを入れた。
「てか、コータ君、ステータス見て!」
「あ、そうだった」
コウタはステータスを確認した。
「俺、狩人レベル1になってる! それと異世界人レベル9に一気に上がった!」
「ジョブも増えたじゃん! コータ君、おめ!」
「コウタ、おめでとう! て、事は私達も何か狩れたらレベルアップ出来そう」
「……またトカゲいないかな?」
紗耶香ちゃんが声量を落として獲物を探す。
「……あ、いた」
私もグアナを見つけた!
「カナデっち……ジョブ増やすチャンスだよ」
ボソボソと耳元で紗耶香ちゃんが言う。
コウタは無言でスリングショットを手渡して来た。
目標を確認! さっきコウタがしたように、ゴムっぽいのを引き絞り、とうっ!!
「命中!! 衝撃で落ちた!」
コウタが声を上げた。
「す、凄い! 私、才能あった!?」
「カナデっち、凄い!」
獲物の元へ走って行ったコウタが叫んだ。
「まだ死んでない! 奏! ナタでトドメを刺せ!」
私は急いでアイテムボックスからナタを出し、それを振るった。
「ごめんなさい!」
私はトカゲの首を狙った。
せめて、今度は苦しまず、一撃死を……。
「……やったっぽい?」
「ああ、今度は死んでる。奏、頑張ったな」
「……ハァ、ハァ……」
私はゆっくりと息を揃える。まだ、手が震える……。
その時、ピロロンと、例の音がした!
「レベルアップ音した! 私にも異世界人レベル9にアップ! 狩人レベル1!」
「おめ! サヤも獲物探そう……」
でも、近くにはもうトカゲ系が見当たらなかった。
仕方ないので、我々はもっと奥まで行く事にした。
コウタはアイテムボックスから斧を出して装備し、私はさっき出した血の付いたナタを手にして歩く。
側から見たらホラーゲームみたいだよこんな姿。
でも念の為だし、紗耶香ちゃんのレベルアップの為、私達は森の入り口付近まで来た。
紗耶香ちゃんが無言でスリングショットを構えた。
何かを見つけたらしい。
バシュっと石礫攻撃を放った。
「命中! やばい、マジで鳥に当たった!」
「マジか! 鳥とか凄い!」
「ヨシ! 回収!」
コウタがいち早く叫んで獲物が落ちた音がした方向へ走って行った。
落ちてた獲物の鳥を発見!
「わ、雉っぽい鳥だ、紗耶香ちゃん、お見事!」
「あざす! あ! ピロロン音がした!」
「水木さん、先に獲物を鑑定して」
「りょ! ……鑑定! やった! 普通にキジだよ。
食べられる、焼き鳥に出来るじゃん!」
「「焼き鳥!」」
「サヤもステータスも確認するね! ……狩人レベル1ついた!
異世界人レベルも二人と同じ9まで上がった!」
「「おめでとう!!」」
「どうする? 獲物は屋台の食材にする?」
「そうだね。どうせ解体作業がいるし、味も気になるしな」
帰り道すがら、私はいい感じの大きさの葉っぱを見つけた。
昔話で出てくるおにぎりを包む葉っぱに似てる。
「あ、食材包むのに良さそうな葉っぱあるから貰って行こう」
「包装紙にしてる油紙が節約できるかもな」
「鑑定! ヨシ、カナデっち、この葉っぱは無毒っぽいよ」
「あ、そう言えば包むだけでも毒ないか調べるべきだね、紗耶香ちゃん、ありがとう」
「どういたしまして」
紗耶香ちゃんはニカっと笑った。
* *
我々は家に戻って、獲物を捌く事にした。
イグアナ、いや、グアナは赤身の肉だった。
まず、コウタが見本を見せてくれて、グアナの皮を手で上手に剥いでいく。
引っ張るとわりとペロ〜〜ンと剥げる。
「ちと手が痛いな」
「がんばれ♡ がんばれ♡」
私は可愛いく応援をしてあげた。
「奏……その応援の仕方……まあ、いいか」
台詞の語尾に脳裏でハートマーク♡をつけてあげたのを察知したのだろうか?
「へー、トカゲ肉って牛肉みたいに赤いんだね。足の部分、靴下みたいに皮脱げる」
「そうだね。これはぶつ切りにして、朝だけど、唐揚げにしようか?」
「いいと思う。どうせ朝食を食べるんだし」
「サヤも朝から唐揚げでも大丈夫」
唐揚げにして、客に出す前に味見をする事になった。
三人でグアナの唐揚げに万能スパイスをかけていただきます。
「……うん、予想通り、鳥肉っぽくて美味しい。
臭みが無い。コイツ草食なのかも」
「本当、味が濃い鳥肉みたいで美味しい」
「身に弾力が有るね。普通に美味しいじゃん。余裕で客に出せる味だよね」
今日のよろず屋は唐揚げをお出しする事になった。
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